シンガポール、ドバイ、イギリス BIMのグローバル先駆モデル
――シンガポール、ドバイ、イギリスのBIM活用事例のポイントはなんだと考えますか?
西岡氏 これらの国は、BIMの標準化とデータ活用で世界をリードしています。まず、シンガポールはVirtual Singaporeで、都市全体の3Dモデルとデータを統合したデジタルツインを実現しています。また、Corenet Xなどのシステムで建築確認申請などをデジタル化しています。
データ活用文化が根付いているシンガポール
――シンガポールの仕組みは、具体的にどんなメリットをもたらしているのですか?
西岡氏 たとえば、政府が建築基準法を更新すると、データ辞書も即座に反映されます。これにより、設計者が最新の基準に基づいてBIMモデルを作成でき、審査前に適合性を確認できるカルチャーが根付いているんです。日本の場合、基準法の変更が把握しづらく、紙やPDFの仕様書に頼るため、効率化が難しいです。シンガポールは、データ活用の文化が根付いている点で、メリットをもたらしていると思います。
IFCデータで設計、施工、維持管理の一貫したデータフローを実現しているドバイ
――ドバイの事例についても教えてください。
西岡氏 ドバイは、2015年のBIMマンデートで公共プロジェクトにIFCデータを必須化しました。基準法をデジタル化し、海外企業がドバイの基準を参照しながら設計できる環境を整えました。
OpenAECを使えば、日本にいながらドバイの基準に準拠したモデルを作成可能です。これは日本の企業にとって大きなチャンスだと思います。日本の基準法はデジタル化されておらず、海外企業が参照するのは困難です。これでは国際競争で不利になりますね。
――ドバイのBIMマンデートは、業界にどんな影響を与えたのですか?
西岡氏 ドバイでは、IFCデータを通じて、設計から施工、維持管理まで一貫したデータフローを実現しています。グローバルな競争が促進され、海外企業が参入しやすくなりました。日本の企業も、こうした市場で戦えるよう、デジタルデータの標準化を急ぐべきだと思います。
IFCデータを必須化し、一気に標準化したイギリス
――イギリスの事例についても聞かせてください。
西岡氏 イギリスは、2016年にBIM Level 2マンデートを導入しました。建築確認申請でIFCデータを必須化し、一気に標準化を進めました。3Dモデリングとデータ活用の両方で世界的に高い評価を受けています。
でも、副作用もありました。中小企業が対応できず淘汰され、外資系企業が増えたんです。これは日本の課題に直結します。日本でも2027年や2029年にBIMデータ審査が導入予定ですが、地方企業が潰れるような事態は避けたいですね。
――イギリスの事例から、日本が特に学ぶべき教訓はなんだと思いますか?
西岡氏 イギリスの強制力ある政策は、業界全体のデジタル化を加速させました。でも、中小企業への配慮が足りなかった面があります。日本では、標準化を進める一方で、地方企業がBIMを活用できる環境を整える必要があります。
――シンガポール、ドバイ、イギリスと日本の違いを要約するとどうなりますか?
西岡氏 シンガポールやドバイは、基準法をデジタルデータとして公開し、業界全体で共有しています。イギリスは、IFCデータを必須化することで、データ活用を標準化しました。日本では、基準法がデジタル化されておらず、独自路線が分断を生んでいます。これが大きな違いです。このギャップを埋めるには、日本の政府と民間との連携が不可欠です。データのオープン化と中小企業支援を両立させれば、日本もグローバルで戦える建設業界をつくれると思います。
データチェックや蓄積の課題を解決しないと、意味のあるAIは生まれない
――AIの活用についても積極的ですね。建設業界でAIはどんな役割を果たすと考えていますか?
西岡氏 AIは建設業界を劇的に変えるチカラを持っていますが、今はAI以前の問題が大きいです。データ活用の基盤が整っていないんです。あらゆる業務のデジタル化と、データの品質の向上がAIの成否を左右します。設計データの属性情報に不備があると、AIモデルは現場で使い物になりません。だからこそ、国際標準に基づく高品質なデータ蓄積が前提になるんです。
――具体的に、どんなデータ基盤が必要だと考えていますか?
西岡氏 ONESTRUCTIONは、OpenAECでIFCデータを標準化し、設計から維持管理まで一貫したデータフローを構築しています。これは、将来のAI活用の土台となるはずです。良いBIMデータがたくさんあれば、AIの成果物も良くなります。弊社として、経済産業省の支援も受けながら、設計の自動検証や施工プロセスの最適化をAIで支援する機能を開発中です。現在、建設×AIに全力でコミットしています。
――AIの具体的な活用方法について、どういうアイデアがありますか?
西岡氏 設計のどのフェーズを自動化するかで、AIの活用方法は変わります。概略設計なら大まかな提案、詳細設計なら高精度なモデルをAIに求めます。たとえば、基準法のチェックやコンクリート量の計算を自動化できれば、設計時間が劇的に短縮されます。シンガポールやドバイのように、基準法をデジタルデータ化すれば、AIで基準チェックを自動化できます。「AI活用の前に、あらゆる業務を情報をデジタル化すること」、日本もそうした方向を目指すべきです。
――建設業界でAI導入の障壁はなんだと思いますか?
西岡氏 現在の状況では、AIを導入しても、現場で使えないケースが多いです。発注したけど誰も使わない。そんな失敗例も聞きます。AIで全て解決できるというわけではないのです。データチェックや蓄積の課題を解決するために、そもそもデジタルに最適化されたワークフローに移行しなければ、意味のあるAI活用はできないと思います。現状、建設業界のDXはIT化で止まっています。システムを導入して終わりじゃなく、データを蓄積し、活用する流れをつくらないといけないです。われわれは、データ活用の階段を一つずつ登り、現場で使えるAIを届けたいと考えています。
お世話になった鳥取に自社ビルを建てて恩返ししたい
――ところで、なぜ鳥取に本社を置くのですか?
西岡氏 鳥取は、私が起業を決意した場所ですが、人口最少で、建設会社や水産会社が次々倒産する現実を目の当たりにしました。大学時代に自分を成長させてくれた鳥取に本社を置き企業を大きくしていくことで、鳥取に恩返しがしたいと考えました。
たとえば、東京で社員100人の会社を作っても東京の経済は変わらないですが、鳥取で100人の企業が生まれれば、地域経済になんらかの変化を与えることができます。お世話になった鳥取に恩返しをしたいという思いがあります。だから、鳥取に本社を構えているんです。
今の本社オフィスは、鳥取駅近くで、8名程度の社員が常駐しています。社員はオフィス近くの飲食店をよく利用するのですが、お店の方から「あなたたちの会社で店がもってるよ」と言われたことがありました。小さなことですが、こう言った声を増やしていきたいと思っています。
――鳥取への恩返しとしては、たとえばどういうことを考えていますか?
西岡氏 「鳥取に自社ビルを建てたい」というのがありますね。単にビルを建てると言うよりは、このビルを拠点として、地元の建設会社や職人の方々と協業し、最新のBIM技術を使ったモデルケースをつくりたいです。それが地域の産業再生につながるはずです。
――鳥取での創業には、苦労もあったと思いますが。
西岡氏 2020年の創業時は、コロナ禍の真っ只中でした。直接営業に行けず、電話やオンラインで少しずつ顧客を開拓しました。そもそも鳥取にはBIMを導入している企業が少なく、営業は苦労の連続でした。本当はもっと早く事業を立ち上げたかったのですが、最初の3年間はとにかく時間がかかりました。それでも、地道に実績を積み重ねた経験が、今の基盤になっていると、前向きに捉えています。
――人材確保のロードマップはありますか?
西岡氏 現在、我が社の社員数は30名ですが、2026年までに100名規模を目指しています。本社機能は鳥取に置き、経理やBIMエンジニアもここで活躍しています。鳥取大学との連携も強化し、新卒採用も進めています。採用の課題は、地方での認知度ですね。優秀な人材を惹きつけるには、もっとONESTRUCTIONのビジョンを発信する必要があると感じています。自社ビルの建設は、地元へのコミットメントをさらに深める一歩になると思います。
土木、建築、設備のカベを、デジタルデータと現場の両方で乗り越えよう
――最後に、建設業界の未来と読者へのメッセージをお願いします。
西岡氏 土木、建築、設備のカベを、デジタルデータと現場の両方で乗り越えることが重要です。データ活用は、大手も中小も同じ言語で語れる世界を実現します。ONESTRUCTIONはツールを提供しますが、変革は協業なしでは不可能です。日本独自のCIMから脱却し、グローバルスタンダードで戦える業界を一緒につくりましょう。鳥取に本社を置く小さな会社から、世界を変えるイノベーションが生まれると信じています。
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