芝生ではなく「苔」を選ぶ理由。現場発想で生まれた超軽量・無灌水システム
――壁面だけでなく、建物の屋上緑化にも独自の強みをお持ちですね。
木村氏 屋上緑化には、苔を利用した「トモスシステム」を展開しています。これは天然の雨水のみで育つため、無灌水での緑化を実現しており、水道設備の引き込みすら不要です。年1~2回の点検を行い、必要に応じてメンテナンスをご提案するだけで済みます。
また、コンクリートの屋上だけでなく折板屋根にも使用できるほど軽量で、建物への荷重負担を大幅に軽減できるため、事業主様のコスト負担が従来の製品より圧倒的に軽いのが特徴です。厚さ数センチの軽量ユニットを並べる工法が主流ですので、既存の建物への後付け施工も容易に行えます。

豊海振興ビルの屋上事例の苔緑化の「トモスシステム」
――苔を活用するというアプローチがユニークですね。
木村氏 苔は1年に数ミリしか成長しないため、時間が経過しても見た目が崩れません。河原にあるような苔とは異なり、高品質で安定した「スナゴケ」を専用の「苔栽培ほ場」で計画的に生産しています。暑さに強く乾燥を好む特質があり、水やりや施肥、刈り込みも必要としない、まさにローメンテナンスなシステムとなっています。
屋上への設置は防水層の紫外線劣化軽減に繋がるほか、断熱効果による熱負荷の低減で、建物内空調の省エネ効果を強力に発揮します。都市緑地法や自治体の緑化条例の必要面積を確保する手段としても有効で、設備機器の目隠しとして壁面緑化と組み合わせ、屋上空間を機能的かつ美しく彩るケースも好評です。
――屋上緑化というと、一般的には「芝生」のイメージです。
木村氏 実のところ、過去には芝生でトライアルをしましたが、施工費や維持費などのコスト面では太刀打ちできませんでした。そこで、イニシャルコストを抑えられ、維持管理の手間もかからないスナゴケに行き着いたのです。
工法は主に2種類あり、ビルのコンクリート屋根に接着剤で直張りする「トモス接着工法」と、駅や工場、駐車場などの折板屋根(金属板を波型にした屋根材)にメッシュパネルとシートを組み合わせる「メッシュパネル工法」です。この両工法を用意したことで、ほぼあらゆる屋根に対応できるようになりました。

「トモスシステム」のスナゴケ
――その「メッシュパネル工法」は、どのような現場で強みを発揮しますか?
木村氏 敷地いっぱいに倉庫や工場を建てたいとき、地上に外構緑地を設ける余裕がないため、緑地面積を屋根に移管する現場などで重宝されます。とくに、人が登ることがなく、手入れもほぼ行わないセッパン屋根には同工法が最適であり、物流施設等でも多く採用されています。おかげさまで、屋上緑化全般の採用実績は現在までに約1万㎡に達しています。
――屋上緑化の提案は、デベロッパーやビルオーナーからの直接のオファーも増えているのでしょうか。
木村氏 当社の建築設計部が建物を設計する際、セットで提案する事例ももちろんありますが、それとは別に、他社のゼネコン様やデベロッパー様から直接オファーをいただくケースも増えており、緑によるCO2削減と、憩いの場を確保したいという機運が高まっているのを感じますね。
CO2削減については和歌山大学と共同研究を行い、スナゴケの成長度合いと炭素固定量を算出し、確かなエビデンスとしてご提出しています。この成果が認められたことに加え、断熱効果という明確な「環境面での実利」があるため、より引き合いが強くなっています。
――経済的なメリットも大きそうですね。
木村氏 ええ。とくに、当初から屋上緑化を検討されていた施主様へのご提案は、VE(バリューエンジニアリング)に直結します。最初の図面が「芝生による緑化」であっても、トモスシステムに切り替えることで整備コストや将来の維持費が半分で済むとなれば、事業主様にとって非常にメリットの大きい提案になります。
――具体的な導入事例を教えてください。
木村氏 東京・江東区の豊海振興ビルの屋上事例があります。展示会で当社のシステムに関心を寄せられたのがきっかけです。屋上の半分が広場で、残りの半分が室外機置場という構成でしたが、広場にコケ緑化を設置しつつ室外機周辺の味気ない目隠しルーバーを壁面緑化で囲い、景観を向上させました。
“涼”と“美”を両立させる「木陰のトンネル」
――建物そのものの緑化だけでなく、屋外空間を快適にする「木陰のトンネル」というアプローチも手掛けられていますね。
木村氏 「木陰のトンネル」は、ゆらぐ木をイメージした木製アーチにネットを張り、つる性植物で強い日差しを遮るもので、2022年度にはウッドデザイン賞も受賞しました。アーチ状のフレームには岩手県産カラマツの積層材を使用しており、こちらも自動灌水システムを導入しているため、水やりの手間はかかりません。
トンネルについても、各種研究会で新たな可能性を模索する中、2017年に調布駅で試行設置したところ非常に大きな手応えを感じました。その後、2018年にお台場で行われた国交省の「自立型緑化設備」公開テストを経て、その高い遮熱・冷却効果が公に認められたという経緯があります。
――実際に導入された場所での反応はいかがですか。
木村氏 代表的な活用事例が、2019年のラグビーワールドカップ開催を契機に、来場者の暑さ対策として導入されました日産スタジアムに隣接する「新横浜駅前公園」や、立川市にある昭和記念公園です。ここでは「緑とミスト」の相乗効果を発揮させています。日射を遮る植物に加え、微細ミストを併設することで、蒸発時の気化熱が周囲の温度を下げ、体感温度を大幅に低減させました。スタジアムへ向かう観戦客の皆様に、心地よい「緑の陰」と「涼感」を提供できました。

新横浜公園周辺における緑化による暑熱緩和対策
また、朝霞市の「シンボルロード(中央広場)」での活用は、市を象徴するメインストリートの価値向上と、市民の健康を守る実用的な暑さ対策の両立を目的としています。単なる通路としての「トンネル」に留まらず、居心地の良い空間であることを強く意識した設計です。冬の夜間には朝霞市が設置したLEDでライトアップされ、3次曲線の複雑な形状が光を反射し、昼間とは全く異なる温かみのある「光の回廊」へと姿を変えます。

朝霞市シンボルロード中央広場(木かげのトンネル)
こちらの木陰のトンネルは川崎市の「等々力緑地」にも採用されました。
仮囲いを「無機質な壁」から「みどりの回廊」へ
――建設現場につきものの「仮囲い」を緑化する取組みも、都市景観を変える面白いアプローチですね。
木村氏 元々は自社の現場で、近隣への配慮やコミュニケーションツールとして採用したのが始まりです。単なる無機質な壁よりも植栽がある方が、暑熱対策にも効果的だと考え、社内での活用を経て外販へと踏み切りました。他社のゼネコンによる再開発現場でも引き合いが増えています。こちらも自動灌水設備を搭載しており、水やりの手間はかかりません。ちなみに、公共工事では周辺環境対策の評価項目として、加点の対象にもなります。

都内の現場で採用された、仮囲い壁面緑化
――最後に、今後の環境・緑化事業の展望をお聞かせください。
木村氏 今後は自社での直接販売だけでなく、リース業界等との提携も視野に入れています。仮囲い用のフラットパネルを扱う業者様が代理店となり、ゼネコン各社へ営業をかけていただく仕組みができれば、よりスピーディーに広く普及していくはずです。また、当社は東京都の政策指針「東京グリーンビズ」のコラボレーションパートナーに登録しており、大規模プロジェクト等での仮囲い壁面緑化を通じて、都市の緑化に直接的に貢献していきます。
私たちの根底にあるのは、「緑が豊かな都市の方が、人間的にもゆとりが生まれる」という思いです。周囲に緑があれば仕事の効率も向上しますし、心にゆとりが生まれ、柔らかな人間関係が進展するものです。そのためにも、単なる表面的な緑化に留まるのではなく、誰もが思わず近寄りたくなるような「みどり」を都市の中に形にしていきたいですね。
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