AIにはできない一生モノの価値
――いま、産業界全体でDXやAIの活用が進んでいますが、建設業や電気工事業としての誇りを、若い世代にどのように伝えているのでしょうか。
勝山社長 どれだけ生成AIが進歩し、テクノロジーが発達しても、現場の複雑な配線を現場ごとに臨機応変に組み合わせ、安全に電気を灯す技術は、AIやロボットに簡単に代替されるものではありません。電気工事は、これからの時代を生き抜く若者にとって、最も確実で一生モノの価値を持つ仕事です。私たちはこの仕事の本質的な面白さや、社会を支える誇りをもっと世の中に、とくに若い世代に向けて泥臭く伝えていく必要があると考えています。
その発信拠点として、本社敷地内に配管がむき出しになった、電気工事会社ならではの空間デザインを特徴とした「ple cafe(プルカフェ)」をオープンしました。これまでのBtoB主体のビジネスでは交わることのなかった地域の方々、主婦の方や学生が気軽に集まり、間近で私たちの会社の雰囲気に触れられる場として機能させています。

勝山電気工事が運営するカフェ「ple cafe(プルカフェ)」
また、地元の学生を対象としたインターンシップや職業体験、学校と共同での商品開発なども積極的に展開しています。単なる求人票ベースの募集にとどまらず、地域全体で未来の担い手を育てる仕組みを構築することで、建設・電気工事業界の「きつい、大変そう」といった旧来のネガティブなイメージを刷新していきたい。「働くことはこんなに面白いんだ」と若い世代が直感できる土壌を、地域密着の多角的なアプローチで整えています。
若者ファーストから吹いた追い風
――かつては採用難だったそうですが、どのようにして風向きを変えたんですか?
勝山社長 2024年頃までは、典型的な地方の採用難に陥っていて、年間の採用数が1〜2名、応募すら最大で3名という状況でした。大きな転機となったのは、インターンシップで受け入れた地元の高校生から「勝山電気工事の中身はすごく面白いのに、外から何も見えない。まずSNSを本気でやりましょうよ」と直言されたことです。
そこから、Instagramを軸にした採用特化のSNS運用を本格的にスタートさせました。最もこだわったのは、きれいに作り込まれた広告ではなく、実際に現場で働く若手社員たちの「リアルな日常」や「ありのままの雰囲気」を包み隠さず動画で発信することです。社長である私が偉そうに語るのではなく、20代の若い職人たちが笑顔で、時には失敗しながらも楽しそうに働く姿を届けたのです。
その結果、発信を始めてわずか半年間で20名もの応募をいただくという、私たちが一番驚くような結果が出ました。地方の電気工事会社ですが、SNSを通じて「この人たちと一緒に働きたい」と思ってもらえるようになり、実際に27歳の未経験者が入社するなど、2年連続で20代の若手採用に成功しています。
――選考フローにもユニークな仕組みがあるそうですね。
勝山社長 選考の最上流の「ファーストステップ」から、私自身が求職者と直接向き合います。一般的な企業なら社長は最終面接に臨むものですが、完全に真逆の体制なんです。
会社見学に来た求職者に対して、私がこれまでの会社の歴史や倒産の危機から這い上がってきた軌跡、そして未来への想いを1対1で語り尽くします。この経営理念や熱意に心から共感してくれた方だけが、次の選考へ進む仕組みにしているんです。
続く「セカンドステップ」では、次期社長である大西拓専務と現場の若手社員との面接を行います。これは会社が求職者を一方的に審査するのではなく、求職者側からも当社のリアルな社風を見極めてもらうための、いわば双方向の対話の場です。
そして、最大の核心は「最終ステップ」です。採用の合否を下す最終的な決定権は社長の私にはありません。現場の若手社員たちにすべてのジャッジを委ねています。「実際に現場で毎日一緒に汗を流し、行動を共にするのは若手たちだから」です。面接シートには、「一緒に働くイメージが湧いたか」「自分が教えて育てていきたいと思えるか」「素直さが感じられるか」といった現場目線の5項目をイエスかノーかで記入してもらっています。
これらがすべて「イエス」でなければ、どれほど私が「この人に来てほしい」と惚れ込んだ求職者であっても、絶対に採用はしません。「社長が想いを語り、現場の社員が最終決定する」という一貫したフローを徹底したことで、入社後のミスマッチはほぼ無くなりました。
現場の社員たちも「自分たちが選び抜いた仲間だから、一人前に育つまで責任を持って面倒を見る」という強い当事者意識と責任感を持つようになり、組織の結束力も強固になりました。
2026年11月の社長交代へ。若い世代へ引き継ぐ未来

勝山敦社長(左)、次期社長の大西拓専務
――これから大西拓専務への社長交代をし、若い世代が主役の新たなフェーズを迎えられます。これからどのような未来を目指していくのでしょうか。
勝山社長 今年11月に、創業家である私から36歳の大西拓専務への社長交代を予定しています。大西は血縁関係のない人間ですが、自ら「次の社長をやりたい」と手を挙げてくれて、圧倒的な覚悟と行動で社内、そして現場の職人たちの信頼を勝ち取ってきた非常に頼もしい存在です。
近年では、明確な評価基準の策定や中期経営計画の策定にも意欲的に取り組むなど、次世代への組織改革を力強く主導してくれています。私の経営者としての役割は、会社をただ延命させることではなく、彼らのように若い世代がどんどん主役となって新しい挑戦をしていける、持続可能な組織へとバトンを繋ぐことだと考えています。
当社のチームは学歴という意味ではほとんどが高卒で、決して世間で言うようなエリート集団ではありません。ただ、お客様に対する気持ちの強さ、徹底したホスピタリティ、そして仲間を思いやるチームワークの良さは、大企業のどんなエリートにも絶対に負けない、最高に優秀な集団です。
一人ひとりが持つ潜在能力を引き出し、前向きに活躍できる環境さえ整えれば、組織はここまで劇的に変わるのだと、私自身が社員たちから教わりました。新体制となるこれからの勝山電気工事も、「お客様に喜んでもらうために全力を尽くす」というサービス業としての原点を失うことはありません。地方の電気工事会社という枠組みを超え、これからも顧客や地域に深く愛され、業界全体の未来を明るく照らす先駆者であり続けたいですね。
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