建物が揺れるほどの「ガス爆発」で大火傷
私が作業指示を出した人に、初めて怪我をさせてしまった。反省。
休日作業だったので、事務所には自分と所長だけが出勤し、現場の作業には、屋上の型枠解体、土工の職長さんが出ていた。
窓下の溶接用の刺し筋が長すぎるので、短く切るように所長から命じられた自分は、鉄筋の長さを白のチョークで印をつける作業をしていたところで、土工の職長さんは反対側の印をつけた鉄筋を切断する段取りをしていた。
ガスと酸素ボンベを移動していたのは覚えていたが、突然ドカーンと大音響と地響き、驚いて振り返ると、土工の職長さんが必死でボンベのバルブを手で絞めていた。バルブの口からは炎が出ている。土工さんの顔は真っ黒、頭の毛はチリチリだ。
すぐに所長が飛んできて、会社に連絡、病院へ搬送。救急車は呼ばなかった。上にいた解体屋さんが降りてきて、「建物が揺れたぜ」と言った。
自分は、そこから10mぐらいのところでマーカーしていたが、テラス窓下の鉄筋なので、しゃがみこんでいたのが幸いした。普通なら吹き飛ばされていたが、「無傷は奇跡」と言われた。
翌日、会社の社長と本人が現場へ挨拶に来たが、顔をタオルで覆い、火傷で皮がめくれていた。私は初めて人に怪我をさせたので、ショック受けたが、話を聞けば、本人はガスが漏れていたことは知っていたそうで、修理せずに、大丈夫だろと、ライターで点火したら、充満していたガスに引火、大爆発となったという。
これは30年以上の前の事故だが、今でも鮮明に思い出す。ゼネコンの係員になってまだ1年ぐらいの頃だった。
今の自分なら、間違いなくボンベを点検するはずだ。なによりも経験が大切となる建設現場。この事故が起きて以降、私が関係した工事で労働災害は一度も起きていない。
労働災害は元請会社の安全管理に問題あり?
しかし本社管轄では労働災害が続いていた。安全講習があると、通達である。本社の講堂で安全講習だ。
いきなり、安全部長が怒鳴り出した。「貴様ら、ちゃんと安全管理しとるんか、どうなんだ!」顔が真っ赤だ。三現主義を唱えた有名な部長さんで、手に棒を持っていて、ときおり両手でしならせている。こちらは、あまりの剣幕に怯んだ。「今日はとんでもない一日になりそうだぞ。寝れると思って来たのにガッカリだ」と思った。
唯一の楽しみは、社員食堂で飯が食えることだ。今で言うなら、サラメシだ。女子社員にも会える。美人が多い。なんでも、女子社員のほとんどが、お得意先のお嬢様らしい。コネで入社するらしいのだ。実は自分も、ある大手製薬会社のお嬢様を紹介された事がある。京都大学卒の同僚からだ。しかし自分は長男でいつかは故郷に帰らねばならん。婿に行くわけにはいかないので泣く泣くお断りした。
だいぶ話が脱線したが、三人同時に怪我する事を、重大災害と言う。一人や二人の怪我は、うっかりミスで、本人の不注意で起こる場合がほとんどだ。しかし三人が同時にうっかりミスをするのは、ありえない。現場の安全設備に問題があるか、元請会社の安全管理に問題がある事になる。
管轄の労働基準監督署は、非常事態宣言をして、管轄の建設現場の臨検に出る。現場としても非常事態だ。安全部の職員達が、手分けして朝の朝礼に予告なしで出るそうだ。山手線に安全ベルト、ヘルメットで乗るそうな。
下手な朝礼するものなら、再教育だ。安全としても、やることは、やらんと上が納得しないのでしょう。従うしかない。安全担当の職員さんが、悩み事、困っている事があれば相談に乗ると言ってくれましたが、あるようで、ないのが安全です。安全はお金がかかりますから、そうは簡単にできないのです。
労働災害を防ぐ方法とは?
労働災害を防ぐには、余裕が必要だ。何事においても、いっぱい、いっぱいだと、危ない。周囲を見る余裕がない。危険を予測する余裕がない。お金、工期、人間関係など、これに余裕がないと無理。
「無理しない」これが一番大事です。私が経験したガス爆発も無理したからだった。ガスが漏れていたのなら、修理してからでいいでしょう。今からなら言えますが、1~2日の遅れなんて無いに等しい。そのように指導監督するのも現場の責任だ。
朝体調が悪い人は帰ってもらって結構だ。ある関西のスーパーゼネコンの所長さんは朝礼で「今日ね、昨夜飲み過ぎてね、調子が悪いので今日は帰ります」と言っていた。皆大笑いです。さらに「皆さん、自分が居なければ現場が回らないなんて、考えたらだめです。大丈夫、現場は回る」「遠慮しないで帰ってください」これくらい余裕のある現場は労働災害など起きない。