川田建設株式会社(川田琢哉社長)と三協立山株式会社(平能正三社長)は、橋梁や高架橋に設置し、点検・補修時に足場として使用できるアルミ製の常設足場「パーマネントデッキ」を共同開発し、首都高速道路東京西局所管の複数工区で実用化した。
パーマネントデッキの大きな特長は、景観に配慮した高いデザイン性だ。三協立山が建材メーカーとしての押出技術や設計力を生かし、より橋梁の美観を向上するデザインを実現した。側面パネルには、フラットタイプのほか、ビル建材で培った外装材の技術を用い、ルーバータイプもラインアップ。裏面パネルはフラットタイプとアーチタイプの2種類を設定し、高架橋を見上げた際の美しさにもこだわった。カラーバリエーションは5色から選択でき、パネルデザインや色の組合せにより、様々な景観に調和した外観意匠を演出する。
そのほか、「送り出し工法」による工期短縮やコスト削減による効果も大きい。共同開発した常設足場は、施工した常設足場内から送り出し治具を用いて横梁を送り出し、橋桁に固定した横梁間に裏面パネルを順に設置。これにより高架下の街路における大規模な交通規制が不要となり、また道路上に設置する仮設足場が大幅に削減できることで、工期短縮、足場リース費用などのコスト削減に繋がった。
そして、点検・補修時での快適な作業環境の実現にもこだわった。側面パネルのルーバータイプには「開放型」と「密閉型」の2タイプをラインアップし、このうち「開放型」を使用することで、採光や換気ができ、快適で安全な点検・補修作業環境を確保する。「密閉型」は、外観は「開放型」と同じだが、密閉することで、海岸近くの潮風による塩害の影響の抑制が可能だ。
今回、パーマネントデッキについて川田建設株式会社の東京支店工事部保全工事担当部長の渡辺智史氏、同支店技術部更新技術担当部長の川合徳男氏、同支店技術部保全技術課課長の柴崎剛氏に話を聞いた。
社会的ニーズに応える、新たな常設足場の開発

左から、川田建設株式会社の東京支店工事部保全工事担当部長の渡辺智史氏、同支店技術部更新技術担当部長の川合徳男氏、同支店技術部保全技術課課長の柴崎剛氏
――まず、パーマネントデッキを開発した背景についてお聞かせください。
渡辺氏 近年、橋梁をはじめとする社会資本の老朽化が深刻化し、計画的な補修・補強による長寿命化対策が急務となっています。2014年の道路法改正で5年に1度の定期点検が義務化され、これまで点検が困難だった箇所を含め、確実な維持管理が求められるようになりました。従来、こうした点検・補修作業は、その都度仮設足場を設置していましたが、とくに鉄道や道路を跨ぐ都市部の高架橋下では、交通規制などの制約から作業が非常に困難でした。こうした課題を解決するため、橋梁に常設できる足場のニーズが高まっており、今回の開発に至りました。
――数ある企業の中で、三協立山と共同開発に至った経緯は。
渡辺氏 川田建設は、首都高速道路の維持補修工事で長年培った設計・施工のノウハウを持っています。今回の開発では、軽くて錆びにくく、長持ちするアルミ合金を材質として選びました。そこで、アルミ建材メーカーとして高い技術力と実績を持つパートナーを探す中で、同じ富山県を発祥とするご縁から三協立山に協力を要請しました。三協立山はこれを快諾してくださり、アルミパネルの意匠設計と材料供給を担当していただきました。当社が把握する現場のニーズを、優れたアルミ加工技術というシーズを持つ三協立山にお伝えすることで、非常に良い製品が生まれたと考えています。
また、以前から川田グループの株式会社橋梁メンテナンス(富澤光一郎社長)が、三協立山と共同でアルミ合金製橋梁検査路「ナ・ロード」を開発・販売していたという関係性もありました。
デザイン性、施工性、安全性を高いレベルで融合
――パーマネントデッキの製品コンセプトと、従来品に対する優位性を教えてください。
渡辺氏 「パーマネントデッキ」は、川田建設の「橋梁で培ってきた技術力」と三協立山の「アルミ建材で培ってきた技術力」を融合し、施工性と美観に優れ、軽くて錆びにくい常設足場です。開発コンセプトの柱は、①景観に配慮した高いデザイン性、②「送り出し工法」による工期短縮とコスト削減、③快適で安全な作業環境の実現、の3点です。
高架橋の常設足場は既に合金アルミ製、チタン合金製、ステンレス製、FRP製など様々な材質の製品が存在しましたが、私たちはコストを抑えつつ、現場対応力、安全性、施工性をさらに高めることを目指しました。とくに、アルミ合金の採用は、耐久性だけでなく、景観性や意匠性にも大きく貢献しています。建材メーカーである三協立山の押出技術や設計力を生かし、橋梁の美観を損なうどころか、むしろ向上させるようなデザインを追求しました。

曲線のデザインが美しく、景観にも優れる
――デザイン性のこだわりについて、具体的にお聞かせください。
渡辺氏 建材メーカーの押し出し技術や設計力を活かして意匠を追求し、橋梁の美観を向上させるデザインを実現し、設置場所の状況や環境に応じて適切なデザインの選択を可能としました。まず、カラーは5色から選択でき、パネルデザインとの組み合わせで様々な景観に調和させることが可能です。高架橋を見上げた際の美しさを考慮し、裏面パネルはフラットタイプとアーチタイプの2種類を用意しました。側面パネルも、フラットタイプに加え、ビル建材の技術を応用したルーバータイプをラインアップしています。
このルーバータイプには、採光や換気が可能な「開放型」と、塩害や排ガスの影響を抑制する「密閉型」があり、設置場所の環境に応じて選択できます。実際に現地を見学された発注者様からは、先行メーカーの製品と比較しても、見た目の高級感や外観デザインを高く評価いただいています。

アルミ製の常設足場「パーマネントデッキ」の構造
――工期短縮、コスト削減など施工面での効果はいかがですか。
渡辺氏 施工性には自信があります。パーマネントデッキの専用送り出し治具も開発し、施工した常設足場内から専用送り出し治具を用いてパーマネントデッキの送り出し架設が可能になりました。送り出し工法は、まず一部を架設した後、その設置済みの足場の中から専用の治具を使って次の横梁をスライドさせて送り出し、橋桁に固定。その横梁の間に裏面パネルを設置していく、という手順を繰り返します。
この工法の最大のメリットは、高架橋下での大規模な交通規制や、道路全面に設置するような仮設足場が大幅に削減できる点です。これにより、仮設足場のリース費用や交通規制に関わるコストを削減できるだけでなく、工期全体も短縮することが可能になります。送出し工法でも桁下道路の養生規制は必要ですが、全面仮設足場を設置する場合に比べて、道路規制に要する期間は削減できます。常設足場の設置後は、点検・補修時に設置する交差点部の規制を伴う仮設足場設置工が一切不要となるため、周辺環境の美観向上にも期待できます。
また、裏面パネルは1枚(幅250×厚さ50×長さ2,000mm)が10kgと軽く、人力施工も十分可能ですが、積載可能荷重は1㎡当たり210kgと通常の維持管理工事(塗装や床版の補修補強など)であれば十分対応可能な足場になっています。

設置後の足場は、内部を常時点検可能な状態に
――実際の現場では、どのような成果がありましたか。
渡辺氏 ある工区の事例では、当初、鋼桁の塗り替え塗装が予定されていました。しかし、全面的な塗り替えは非常にコストがかかります。そこでパーマネントデッキを設置し、今後は内部を定期的に点検しながら、劣化した部分だけを補修していくという方針に切り替えることで、大幅なコスト削減に繋がりました。
川合氏 従来の吊り足場を使った点検では、5年に1度の点検のたびに足場を組立て、点検し、そして撤去するという多大な時間と労力がかかっていました。また、足場の設置期間中は景観も損なわれます。パーマネントデッキを設置すれば、こうした手間や制約から解放され、常に安全で快適な作業環境が確保されます。アルミ合金製で耐久性も高く、少なくとも50年間は機能維持が可能です。
現場の作業性を徹底的に追求
――点検・補修作業のしやすさはいかがでしょうか。
渡辺氏 常設なので、緊急時でもすぐに対応できるのが強みです。内部はフラットで剛性の高い押出成形材で製作しています。首都高速道路の点検班の方からは、「床面が安定しているので脚立を立てやすく、すぐに点検作業に取り掛かれる」と高く評価いただきました。
川合氏 内部床材は隙間のない連結構造なので移動しやすく、工具などを下に落とす心配もありません。また、閉断面構造でたわみにくく、足元が安定しているため、作業者は安心して作業に集中できます。防汚対策では、密閉型常設足場の設置で紫外線・排ガス・潮風などの外的因子を遮断することもできます。

高架下の制約にとらわれず、常時メンテナンス可能な作業環境を構築
――開発に携わった皆さんの役割と、ご苦労された点を教えてください。
川合氏 私たち3名は、開発当時は皆、保全部門におり、長年、首都高速道路の工事に携わってきました。そのため、交通量の多い交差点上では簡単に交通規制ができないといった、現場の厳しい制約やニーズを肌で感じてきました。私は現在は更新技術部門で、床版取替工事の設計などを担当していますが、ここでも工期短縮や効率化が至上命題であり、パーマネントデッキの開発で培った思想が生きています。
柴崎氏 私の担当は保全・補修工事の詳細設計です。開発は最初からスムーズだったわけではなく、試行錯誤の連続でした。現場のニーズを形にするため、改良を重ねてようやく製品化に漕ぎ着けたのが実情です。
渡辺氏 私は現場代理人として首都高速道路の工事を担当しながらこの開発に携わりました。現場を知る我々だからこそ、本当に使いやすく、価値のある製品を生み出せたと考えています。
――インフラメンテナンスの重要性が叫ばれる中、今後の事業をどう展望されていますか。
渡辺氏 笹子トンネル事故や八潮市道路陥没事故のような大きな事故の発生に伴い、「インフラ老朽化」や「維持補修」といった言葉が社会に浸透し、その重要性は誰もが認識しています。橋が落ちるような事態を未然に防ぐため、我々の技術が発揮できる場面はますます増えていくでしょう。川田建設では橋梁の新設、更新、保全を事業の柱としていますが、今後は保全事業の比重がさらに高まっていくと気を引き締めています。
支承取替工事や橋脚耐震補強工事は都市部ではほぼ完了しましたが、郊外地はまだ着手していない状態ですので、パーマネントデッキのような常設足場の需要は、全国的に拡大していくと確信しています。各道路会社・公社も予算が付けばすぐにでも発注したいという意向をお持ちで、実際にNEXCO各社へのプレゼンや、福岡北九州高速道路公社への営業展開も進めています。
――最後に、今後の目標をお聞かせください。
渡辺氏 パーマネントデッキは、景観性、安全性、使用性に優れた良い製品ができたと自負しています。今後は、都市部の高架橋や点検困難な橋梁を中心に積極的な採用を働きかけるとともに、創意工夫を重ねて製品をさらに向上させていきたいです。幸い、2025年3月には首都高速道路の工事で3件目となる採用が決まりました。今後も首都高速道路では常設足場の設置が検討されており、当社としてさらに提案を強化していく方針です。全国の道路インフラの維持管理に貢献できるよう、事業を展開していきたいと考えています。
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