深刻な労働力不足と高齢化、そして時間外労働の上限規制強化。建設業界が激動の経営環境下にありながら、埼玉県を中心に圧倒的な存在感を示し、独自の成長曲線を描き続けるゼネコンがある。1963年(昭和38年)の創業以来、「無借金黒字経営」という極めて強固な財務基盤を維持し続ける、株式会社松永建設(本社:埼玉県さいたま市、松永大祐社長)だ。
同社は、経営理念として「我々は強くて良い会社をつくる」を掲げ、「感動創造建設会社」を目指し事業展開している。単に図面通りの構造物を構築するだけでなく、お客様の想定を超える付加価値を提供し、お客様をはじめとする関係者に感動を届けることを事業の本質と位置づけている。
今回は、同社社長室の丸山亮氏と、現場を率いる建築本部の大里祐太氏に、無借金経営を土台とした人材定着の仕組みや、施工管理アプリによる現場DX、そして新たに始動したAIプロジェクトの取り組みについて話を聞いた。
無借金黒字経営の根底にある「感動創造」
――まず、松永建設の会社概要からお聞かせください。
丸山亮氏(以下、丸山氏) 当社は1963年の創業で、経営理念に「我々は強くて良い会社をつくる」を掲げています。名刺などには「感動創造建設会社」と記載しているのですが、これには、お客様に想定以上の成果を提供して感動を創造したという想いが込められています。
もともとは材木業からスタートした会社ですが、そこから道路や橋梁、下水道工事といった土木事業へ進出しました。さらに、経済環境の変化に合わせて建築事業へも本格参入し、現在では土地探しから、有効活用の提案、建物の設計・施工、さらには管理運営から維持・メンテナンスに至るまで、トータルに事業を展開している点が大きな特徴です。建築分野では、マンション、商業施設、工場、病院など幅広い用途の建物を手掛けています。
現在の売上高は約170億円、従業員数は約170名。最大の強みは、創業から現在に至るまで一貫して「無借金黒字経営」を継続している点です。この盤石な財務基盤があるからこそ、人材育成や新たな事業への投資を継続しながら、持続的な成長を実現しています。
「人間力」を磨く育成思想
――人手不足が課題となる昨今ですが、人材育成の基本的な考え方は。
丸山氏 経営思想の根底に「企業は人なり」という人材第一の考え方があります。建設業には製造業のような固定の工場がなく、現場ごとに異なる環境の中で、お客様や協力会社の皆様と力を合わせながらものづくりを進めていく仕事です。だからこそ、建設業は「人と人とのつながり」で成り立つ産業であり、一人ひとりの人間力や信頼関係が、良いものづくりにつながると考えています。
人材育成というと資格取得ばかりに着目されがちですが、私たちが最も大切にしているのは「人間力」です。人間力がなければ、本当に良いものづくりはできないと考えています。
潜在ニーズを汲み取り、想定以上の成果で「感動を創造する」ためにも、当社では年間を通して階層別の研修に非常に力を入れています。
――今期(2026年4月)から「メンター制度」を開始されました。現場での狙いは?
大里祐太氏(以下、大里氏) 新入社員一人ひとりに先輩社員がメンターとして1年間伴走する制度ですが、一番の狙いは若手社員のフォローです。現場所長としても日頃から相談しやすい環境作りを心がけています。所長が常にピリピリした雰囲気では、現場で気軽に相談できなくなってしまうからです。
ただ、直属の上司や先輩には話しにくい悩みも当然あると思います。そこで、実務指導ではなく「精神的な支えや心のケア」を担う役割として、メンターが伴走する仕組みを作りました。若手社員が私には本音を話せなくても、メンターを通じて悩みや状況を把握することで、より適切なフォローにつなげることができます。管理者の立場から見ても、非常に有効な制度だと実感しています。




