書類作成の負担を軽減する建設ディレクター
――「建設ディレクター」として、女性事務員にフォーカスした理由は?
新井 建設業界で働く女性の割合は、約2割ですが、そのうち8割を一般事務が占めています。「できれば、書類づくりを事務の方にやって欲しい」と現場担当者が思っても、業務を伝える時間もなかなか取れない中で、現場のことを知らない事務の方になかなか頼みにくいと感じ、結局、現場が終わった午後6時以降に自分で書類を作成されているケースが非常に多いのです。
一方、事務職の方の目線で見れば、書類づくりを手伝いたいと思っても、現場のことがわからない、使っている用語も知らないということで、現場と内務のコミュニケーション作りが難しいという面もあります。
建設業の方々からは、現場担当者の業務内訳は、現場業務が50%、書類業務が50%と聞いています。つまり、業務全体の半分もの時間を書類作成に費やしているわけです。書類に求められる品質も年々高まっているので、時間がかかる傾向にあります。そこで、この50%の一部を社内の女性にリアルタイムでおこなっていただくことができれば、現場の方の労働時間の短縮につながるのではないかと考えました。
先ほど例に出した積算業務は、建設に関するさまざまな業務の一部ですが、業務遂行には、建設業法とか用語に関する理解が必要なので、一足とびに習得できるものではありません。事務職の方が「助けたい」と思っても、助けられない状況が長く続いていたように思います。
共通の知識や用語を増やすことで、互いのコミュニケーションも活発になり、会社にとっても良い効果が期待できると思います。人手不足を新たな人で補うことだけに頼るのではなく、配置転換やワークシェアリングという方法もあることを知っていただきたいのです。また、現場担当者が現場に専念できる環境を作ることで、建設業全体の労働生産性の向上につなげることができると捉えています。
――建設業の構造に起因する部分にニーズを見出したわけですね?
新井 そうですね。新たな「職域づくり」ということを提唱しています。業務によっては、外注するケースもあるわけですが、同じ会社の中で解決できるのであれば、そちらのほうが良いですよ、という提案です。現場と事務のコミュニケーションを深めるためにも、事務の方が、現場はどういう流れで動いているのか、何で困っているのかなどについて、体系立てて理解することのメリットは大きいと思います。
――対象となる顧客は中小零細企業?
新井 建設ディレクター育成講座は、1期生、2期生合わせて33名の方に受講していただきましたが、土木、建築、電気、内装業などさまざまな業種、規模の会社からご参加いただきました。
建設ディレクター育成講座は、入札情報の確認や積算についての基礎知識を知るところからスタートします。
建設ディレクター育成講座で仲間意識も芽生える
――顧客は関西が中心ですか?
新井 今までは京都のお客様が中心でしたが、建設ディレクターに関しては、関西以外からもお問い合わせをいただいています。今後、京都以外でもセミナーを開催する機会に向けて、準備を進めています。
――建設ディレクターをどの程度まで広げたいですか?
新井 2期生には、新潟県の方がいらっしゃいました。今後、遠方からの参加者も見込まれています。東京都をはじめ、京都サンダーと協力体制にある会社さんが5つほどあるので、全国で活動を展開していきたいと考えています。
今は対面形式でセミナールームでの講義を実施していますが、今後は、遠方のお客様に対してどのようなフォロー体制を整えていくかが課題になります。クラウド型カスタマーサービスプラットフォームの仕組みが必須となり、ウェビナー、ライブトレーニングなど遠隔地からでも受講できるコミュニティーを開設し、必要なサポートを受けられる体制の準備を進めているところです。
建設ディレクター育成講座を通して、印象に残ったことは、個々の受講者の単なる知識、技術アップだけではなく、受講者同士の横のつながりができたことに喜びを感じていただいたことです。事務所内で少人数、もしくは一人で仕事をする環境にいる事務の方は、なかなか大勢でコミュニケーションをとることが少ないので、受講生同士ゆるやかな仲間意識が芽生えたようです。受講後も、SNSを通じて交流を続けていると聞いていますので、地域や年齢、性別を超えたつながりが生まれています。このような建設ディレクター同士のコミュニティーは大切にしていきたいと考えています。