改修工事より新築工事のほうが工費が安い?
すぐ思い浮かんだのが、溝型鋼で柱を挟み、ボルトで止め、開かぬように鋼材の下を溶接とボルトで締め、その下部でその柱を切断し、柱無しの空間を確保する方法だった。溝型鋼で木軸を支える訳だ。
天井の高さも一般的な高さなので、その部分は全部表しとする。溝型鋼を支える柱には、もう一本支えの柱を添わせ、ボルトで締め、角には補強の三角形の部材を付ける。その部材を平行に渡した後、それぞれを直角方向に繋ぐ鉄骨の梁を造る訳だ。
が、どんなに考えても100%の確信は持てなかった。部分的に補強しても、耐力は弱い箇所に集中し、弱い所が耐力の基準になるからだ。本音としては、「費用も時間も大変だ、いっそ新築したほうがいい」と思った。
若い施主は、もっと簡単に出来ると思ってたらしい。説明を聞いて黙ってしまった。
施主の話によると、この住宅は父親の家で、自分は一人息子だが、折り合いが悪くずっと付き合いが無かった。父親が関西に転勤になり、しばらく誰も住んでなかったが、そのまま誰も住まないのは家も傷むだけなので、好きなように改修していい、その費用も出すから住んでくれと言われて、最近住み始めた。1階を大きな空間にして絵画教室を開く、そのために引っ越してきたそうだ。
施主にプロの意見を伝えよう!
その話を聞き、私はそう言う事ならと、すぐ逆転プランを提案しようと思った。
個室は1階に集中させ、生活全般を補い、2階を絵画教室にする提案をした。2階を大きな空間に改造したほうが遥かに無理がない。玄関から2階に向かう動線さえ自然に確保できれば、1階のプライバシーの確保も十分可能な事を説明。2階屋根の小屋組みと床組を調べ、中心に一本だけ柱を立て、その柱から傘の骨状に筋交いを造って支える案を提案した。下から見上げると、傘を下から見上げたような骨組みになる。
既存の梁を支える新たな梁が必要であり、かつ天井高さを確保するために、小屋組みは全て表しとした。屋根裏面は断熱材充填後、全てコンパネで覆った。既存の表しになる小屋組材は、当然化粧材ではないが、そこは施主が自分でペンキを塗る事を申し出た。上手く塗れなくても、それはそれで自分の作品だからと言い、特色ある絵画教室の目玉にしたいと言った。
しかし、床に養生用のシートを敷き、その上部で塗装作業をする訳だが、足場も必要だし、構造材の粗削りの表面にはペンキがうまく乗らず、作業の見通しが中々たたなかった。やむをえず表面を可能な限り、サンダー掛けをする事にした。工具の入らない場所は全部手作業だ。これは本当にキリがない。ペンキの仕上がりの是非は、下地で決まるのは事実だが、元来仕上げ用の木材ではない上、さらに接点には、錆びたボルトや金物が、無造作に木材に食い込んでいる。
が、若い施主は、職人が夕方5時に引き上げた後も、延々と自分で木材と金物にサンドペーパーを掛け続けていた。自分の絵画教室、自分の家の工事に関わりたい!という気持ちがそうさせるのだろう。