施主の思い込みと建築施工のプロ
1階の改修は大して苦労は無かった。生徒用のトイレを造ったが、それも既存のトイレの隣に造ったので苦労は無かった。ただ、施主の若い夫婦が工事中もずっと一階に住みながらの工事だったので、工事する側もされる側も大変だったと思う。
2階の小屋組内の下地の処理は、なかなか納得できるレベルまで達しなかった。それは手間を掛ければ掛ける程、表面が綺麗になっていくのが素人目にもハッキリ分かるからで、もう少し、もう少しと、下地処理の時間がドンドン延期されるからだ。結果的に施主の希望で、塗装工事前までで工事を一端終了する事になった。約1ヶ月後に施主から連絡を受け、見に行ったが、「良くぞここまでやったな!」と思うくらい、小屋組の木材と金物は綺麗に表面処理が出来ていた。
この仕上がりなら、表面に膜を造る塗料でなく、浸透性の木材保護材でもいけるレベルだ。が、絵画教室なので、やっぱり色をつけたい!と言う。どんな色を塗るんですか?それはご夫婦でやりますか?それとも我々のほうで塗りますか?と聞くと、施主のほうで場所別に色を指定するから、その通り塗ってもらえないか?と言った。
数日後、さすが絵画教室を開きたいと言うだけあって、細かな色の指定が書き込まれた資料を数枚もらった。実際は施主と塗料卸会社に行き、用意されてる色見本帳から選んで貰う事にした。どんな色を選ぶのか、私は興味深々だった。グラデーションだけは勘弁してもらい、塗装工事は10日で終了した。
工事完成後、その部屋で簡単な会が開かれ、関係者一同が集まった。皆で小屋組を見上げながら歓談し、施主も満足気だった。この一瞬だけは、建築の仕事やってて良かったと思う。
この現場の場合、最初に1階を絵画教室にすると施主が思い込むという無理があった。このような施主の思い込みは多い。施主の希望や意見は勿論尊重するが、明らかに他のアイデアのほうが良い場合は、躊躇なく発言すべきだ。施主だってプロの意見を聞きたいはずだ。