給排水管の汚染状態は大丈夫なのか?
解体作業前に、私を含めた現場監督や作業員全員に、入念な新規入場教育が行われた。
放射線の専門家を呼び、注意事項をかなり細かく指導され、胸には放射線に反応するバッジをつけるように義務付けられた。
「万が一にも、心配ないから!」と言われていたのだが、誰もが「じゃ、なんでこんな重装備をするんだ?」と思っていた。
当時のメディアによる連日連夜の原発事故に関する報道が、否が応でも恐怖心をあおった。
神経質になっていた私は「絶対あやしい!」と思い、上司に詰め寄って聞いてみたが、「建物そのものはおそらく、もう心配ない。ただ、躯体の中に埋め込まれた給排水管の中の水が汚染されてる可能性がある。しかし、その水も全て吸引したはずだし、何も問題はない」と言い切った。
【過酷】防護服とマスクを着用した工事
初めて経験した、防護服とマスクを着用したままの作業は、かなり過酷だった。
呼吸も苦しく、視界も遮られる。話が出来ないので、身振り手振り、場合によっては 紙に書いての筆談が必要だった。
しかも、分厚い手袋をしてるので、文字を書くこともままならない。
そうした状況の中で、お互いに胸に付けたバッジを確認し合いながら、壁の中の埋め込まれた鉄筋を外し、配管の撤去には細心の注意を払った。
防護服を着用した長時間の作業は、体力的に無理である。しかも、暑さが体力を奪った。
現場から出てきて、真っ先に防護服を脱ぎ、現場事務所で扇風機の風の当たった時の快感は、今でも忘れられない。
福島県の原発事故に対応する作業員たちをテレビで観ていたが、いかに過酷な作業なのか分かった気がした。