曳家の上腰工法と下腰工法
近年は基礎ごと曳家工事を施工する業者も出てきましたが、やはり曳家といえば、土台から持ち揚げて、別の新しい基礎に据えつけるという「下腰工法」がオーソドックスです。
しかし、下腰工法では家を持ち揚げるために使ったH網を抜く穴を、基礎梁に開口しなくてはならないという問題が生じます。これはあまり良いことではありません。
なぜなら、家の荷重を受けるだけであれば、木造住宅の荷重の9割は柱で支えているわけですから、柱の下さえ、しっかりとした基礎があれば良いわけですが、基礎の立ち上がりを「基礎梁」と考えたならば、そこに大きなカギ込を何か所も入れることは良いことではありません。地震の多くなってきた昨今では、これは心配というか、なるべく避けたい。
それゆえ、私はここ最近、「上腰工法」での曳家を推奨するようにしています。上腰工法とは、敷居より上に鋼材を組んで持ち揚げる工法です。上腰工法で施工すれば、ほぼ新築同様の基礎を造って据えつけることができるので安心です。
ですが、上腰工法で曳家するということは柱をつかむわけですから、床は全て、壁もある程度は撤去しなくてはなりません。なので、「荷物もそのままでお住まいしながら曳家できますよ」というセールストークは使えなくなるばかりか、費用も結構かかります。
道路拡幅に関する補償額算定は、全て上腰工法で積算されているとお聞きしました。なので、やむを得ず下腰工法(土台から持ち揚げる)で曳家する場合、基礎の修復に関しては基礎屋さんではなく、曳家にお任せいただき、そして、それは築浅物件であり、費用対効果が充分見えるものだけにするのが賢明だと思います。