福岡市土木建設協力会の大野太三会長に聞く“地場建設業者の近未来”
多くの自治体で人口が減少する中、福岡市は人口増が続いている。インフラ面でも九州大学箱崎キャンパスの移転に伴う再開発事業や、地下鉄・都市高速の延伸工事などが進められ、博多駅と博多港をロープウェーで結ぶ構想もあった。
福岡市内の公共、民間の投資は活況で「地元の建設業界もさぞかし潤っていることだろう」と思われがちだが、実際のところはどうなのか。
一般社団法人福岡市土木建設協力会の大野太三会長(丸三工業株式会社 社長)に、福岡市の公共工事の動向などについて聞いてきた。
話は「修正協議」や「i-Construction」「都市土木」の難しさに及んだ。
(一社)福岡市土木建設協力会は、福岡市発注の土木工事を請け負う地元建設会社を中心メンバーとして組織された建設業界団体である。
「今までにない雨量」で災害復旧活動
――福岡市土木建設協力会の沿革を教えてください。
大野太三 福岡市土木建設協力会は、福岡市発注工事を請け負う市内業者の集まりです。
前身となる福岡市土木請負業組合が1950年5月に設立されたのが始まりで、その後、1971年4月に現在の名称に変更されました。1980年に社団法人化され、2012年に一般社団法人化されました。
会員は、福岡市内の建設関連企業などで、2018年11月時点の会員数は106社です。
――どんな事業を行なっていますか。
大野 福岡市土木建設協力会の設立目的は、「土木建設事業の円滑な推進と技術的・経済的向上を図り、公共の福祉の増進に寄与する」となっており、様々な事業を行なっています。
事業としては、関係法令や制度などに関する講習会、安全大会などのほか、技術、技能、経営の向上のための調査研究、土木技術懇談会などを開催しています。
福岡市との共働としては、2018年に市が進める「一人一花運動」について、ボランティアで基盤整備の協力や、自治協議会と連携した防災教室の開催などを実施しています。
防災教室では、地元のお年寄りや子どもを主な対象に、近年全国各地で豪雨災害が多発しているなか、避難のための“い・ろ・は”の教室。避難場所の確認など災害への備えの一環として、特に力を入れて取り組んでいるところです。
2016年2月から、防災士の資格を持つ会員社員102名が中心となって、災害予防支援などの活動も行なっています。
――福岡市で大雨による災害復旧活動はありましたか。
大野 2018年7月の西日本豪雨の際に限って言えば、早良区や西区などで、道路の法面崩壊や山間部の崖崩れなどの被害が発生しました。
福岡市土木建設協力会では、災害発生時の活動に関する協定を福岡市と結んでいます。この協定に基づき、福岡市からの要請を受け、地区を担当する協力会会員が現地で土砂の取り除きなどの復旧活動を実施しました。
この豪雨では、市内のため池が決壊する危険性もありました。今までにない雨量になってきています。
「儲からない」「後継ぎがいない」
――福岡市の公共土木工事の推移は?
大野 ここ2〜3年は、年間1,600億円〜1,700億円の間で、ほぼ横ばいで推移しています。実感としては、仕事が増えているという感じはありません。
――会員数の推移は?
大野 若干ですが、減っています。主にC.Dランクの業者の廃業に伴うものです。
一般的に言って、C.Dランクの業者はA.Bランクの業者に比べ、工期が短期的で、仕事が途切れると経営的に厳しい面があります。
いわゆる「仕事の平準化」という問題です。「儲からない」「跡継ぎもいない」となると、「こんな仕事やっとられんね」という話になるわけです。
――会員数は多い方が良いのですか?
大野 福岡市の土木業界を考えれば、必ずしも多ければ良いということにはなりません。ただ、会員数は、協力会としての発言力に影響してきます。一定の会員数は必要だと考えています。
――仕事が途切れないよう、赤字でも仕事を取りに行く業者もあると聞きますが。
大野 それは福岡市でもあります。会社の体力を一番失うのが「低入札」です。最低価格で仕事を取ってしまうと、「適正利潤」を確保できないからです。
適正利潤がないと、会社の利益を確保できない。それを続けると会社の体力がなくなる。会社を続けられなくなるわけです。
地場の建設業には「とにかく人が来ない」
――土木技術者確保に関する動向、活動はどうなっていますか?
大野 会員各社での土木技術者確保の状況などについて、福岡市土木建設協力会として調査したわけではありませんが、個人的に何人かの経営者の方々に話を聞くと、おおむね「若い子が入らんよね」「どうしようか」という意見で一致します。
――慢性的に「土木技術者が足りない」という状況があるわけですか?
大野 そうです。私自身、建設会社を経営していますので、「とにかく人が来ない」という実感があります。とくに新卒採用はほぼ皆無ですね。地元の工業高校、高専、大学には一応求人を出しているのですが、誰も来ません。
土木系の学生数が少なくなっています。10年前2クラスあった高校が、今は1クラスです。しかも土木だけのクラスではない。
そして、数少ない土木の学生は大手ゼネコンに行ってしまう。地場の建設会社に学生は来ません。30〜40歳の経験者を中途で採用するしかありません。私の会社だけでなく、他の多くの会員会社も同じ悩みを抱えています。
――中途採用が多いのですか?
大野 中途採用も少ないです。中途で採用できれば、「お前んとこ、運が良いね」ぐらいのものです。中途も人がいません。
――やはり待遇の問題がある?
大野 そうですね。給与や福利厚生ですね。大手ゼネコンに比べると、どうしても待遇面で見劣りしますし、「現場の面白み」にも欠けるところがあります。
地場の建設業だと、道路や下水道、河川ぐらいの小さな仕事に限られるわけです。橋梁やトンネル、港湾などの大きな仕事は、地場建設業にはなかなか手を出せません。
非常に残念なことですが、われわれ地場の建設会社は、技術を学べる大きな仕事ができる環境にないのです。
福岡市土木建設協力会としても、技術委員会などの活動を通して、技術を磨く努力をしているのですが、なかなか追いつかない現状があります。
良い現場監督の条件は「キチンと段取り」できること
――丸三工業の社長として、学生採用のため、学校に行くこともあるのですか。
大野 行きます。学校の就職担当の先生と話をするのですが、厳しい状況です。ある先生には「地場の建設業に学生は行きませんよ」と言われたこともあります。
土木の勉強をしていない学生もOKなのですが、それでも来ません。女性もウェルカムですが、現場の受け入れ態勢がまだ整っていないところがあります。
――丸三工業の技術者は中途が多い?
大野 ほとんどが中途ですね。10数年前に大学卒を3名新卒採用しましたが、それ以降、新卒はないです。
その3名は辞めずにまだいます(笑)。わが社にとって今、彼らは大事な戦力です。
――若手をどう育てるかも難しいところがあると聞きますが。
大野 「若い子はとにかく2〜3年現場に出て、スコップ持って、汗をかいて覚えろ」というのがわれわれの従来のやり方でした。そういうやり方は、今の子には合わないところがあるかもしれません。
今はパソコンを使ってやる仕事もあるので、体を動かすだけが能じゃないと考えています。原価管理もできない、書類もつくれない現場代理人では困りますし。
ただそれでも、私自身は、まず現場でいろいろ経験するのが、やはり一番の近道だと考えています。土木の仕事は、うまいことやれば、一朝一夕で身につくものではないからです。急いで育てようとして、ケガでもされたら仕事が止まってしまいます。
現場で経験を積んで、各工程の段取りをちゃんと把握して、いつ何をすれば良いかを理解することが、一人前の現場代理人になるための必要なステップだと考えています。実際、現場代理人への要求事項は多いので、一つひとつステップを踏む必要があります。
――良い現場代理人の条件は、キチンと「段取り」ができること?
大野 そうですね。少なくとも、1週間ぐらい先の段取りがキッチリ頭に入っていて、そのために必要な動きができるのが、良い現場代理人の条件の一つだと考えています。
修正協議は、良いものをつくるため「むしろ当たり前」
――現場では「修正協議が多くて大変だ」という話を聞きますが。
大野 土木の仕事は、9割方が土の中での作業になるので、設計と違う状況というものがどうしても発生します。設計変更も現場代理人の大事な仕事になります。
私は、土木の仕事と建築の仕事は違うと考えています。建築の仕事は目に見えますが、土木の仕事は土の中なので、目に見えません。設計段階では、土の中がどうなっているか、何が入っているかわからないことは多々あります。
いろいろな修正協議が発生するのは、良いものをつくるためには、むしろ当たり前のことだと考えています。
良い仕事をするためには修正協議は必要であり、それをやるのが現場代理人だと思っています。
地場の建設業者とi-Construction
――国の施策ですが、i-Constructionについてどうお考えですか。
大野 私の個人的な意見ですが、近未来を想像して考えれば一般的な土木の現場で言えば、現場の状況によっては、生産性が向上する現場もあると思います。ただ、地場の建設業者が請け負う都市土木の現場の場合、現状ではまだまだだと考えています。
i-Constructionを推進するためには、地場の建設業者にとってメリットが出るような環境を整えることと、地場建設業者の努力、好奇心が必要ですね。
――環境と言いますと?
大野 まずは、ICT施工が目的ではなく、われら土木業者が持っている「ものづくりへの情熱」を引き出すための手段としてのICTと考えれば、自ずと何が必要なのか見えてくると思いますし、そのためにはどういう環境なのかが分かると思っています。
今後私たち業者の勉強が必要です。それと同時にモデルケースが当局より示されました。2018年11月にICT対応の工事が出ています。そういう土木工事が人手不足の解消と労働環境の改善につながっていくと思います。
「都市土木」を普通の土木と一緒にするな
――一般的な土木と都市土木は違う?
大野 工事に対する考え方が全然違います。「一緒にするな!」と言いたいぐらいです。地下埋設物、また地上・空中の構造物も多いわけです。こんな施工環境で、まして人も車両も多いので細やかな心配りと安全対策が重要になります。
――現場代理人に求められるスキルも違う?
大野 そうです。まず現場で注意するポイントから違ってきます。現場の付近を通行する人、車両などが非常に多いので、事故を起こさないよう細心の注意が必要になります。
事故を起こしたらアウトなので。都市土木における現場代理人の最大の仕事は、事故をどうやって回避するかを考えることなのです。まさに「安全第一」です。
――都市土木の難しさとは、例えばどういうことでしょう?
大野 施工方法から言うと、道路を掘削する一つをとってみると、道路の下にライフラインがあります。各々この場所にあるというのは、事前調査で分かりますが、図面通り入っているとは限りませんし、大昔に入れた「不明管」もあります。
機械で掘削しても、慎重に人が目視して掘削しなければなりません。掘削ひとつをとっても制限があり、思うようにはいきません。
それ以上に気を付けなければならないのが通行人や車です。夜間だと酔っ払いや車が突っ込んでくるなど、色々な事に気を配りながら予定の工期に間に合わせ完成させる。これですかね。
私が思っているのは、近い将来、色々な条件でICTが機能して土木工事を完成させる。そのために協力し知恵を使い作り上げ、土木が本来持っているものづくりへの情熱を絶やさないようにすべきだということです。