地場の建設業には「とにかく人が来ない」
――土木技術者確保に関する動向、活動はどうなっていますか?
大野 会員各社での土木技術者確保の状況などについて、福岡市土木建設協力会として調査したわけではありませんが、個人的に何人かの経営者の方々に話を聞くと、おおむね「若い子が入らんよね」「どうしようか」という意見で一致します。
――慢性的に「土木技術者が足りない」という状況があるわけですか?
大野 そうです。私自身、建設会社を経営していますので、「とにかく人が来ない」という実感があります。とくに新卒採用はほぼ皆無ですね。地元の工業高校、高専、大学には一応求人を出しているのですが、誰も来ません。
土木系の学生数が少なくなっています。10年前2クラスあった高校が、今は1クラスです。しかも土木だけのクラスではない。
そして、数少ない土木の学生は大手ゼネコンに行ってしまう。地場の建設会社に学生は来ません。30〜40歳の経験者を中途で採用するしかありません。私の会社だけでなく、他の多くの会員会社も同じ悩みを抱えています。
――中途採用が多いのですか?
大野 中途採用も少ないです。中途で採用できれば、「お前んとこ、運が良いね」ぐらいのものです。中途も人がいません。
――やはり待遇の問題がある?
大野 そうですね。給与や福利厚生ですね。大手ゼネコンに比べると、どうしても待遇面で見劣りしますし、「現場の面白み」にも欠けるところがあります。
地場の建設業だと、道路や下水道、河川ぐらいの小さな仕事に限られるわけです。橋梁やトンネル、港湾などの大きな仕事は、地場建設業にはなかなか手を出せません。
非常に残念なことですが、われわれ地場の建設会社は、技術を学べる大きな仕事ができる環境にないのです。
福岡市土木建設協力会としても、技術委員会などの活動を通して、技術を磨く努力をしているのですが、なかなか追いつかない現状があります。
良い現場監督の条件は「キチンと段取り」できること
――丸三工業の社長として、学生採用のため、学校に行くこともあるのですか。
大野 行きます。学校の就職担当の先生と話をするのですが、厳しい状況です。ある先生には「地場の建設業に学生は行きませんよ」と言われたこともあります。
土木の勉強をしていない学生もOKなのですが、それでも来ません。女性もウェルカムですが、現場の受け入れ態勢がまだ整っていないところがあります。
――丸三工業の技術者は中途が多い?
大野 ほとんどが中途ですね。10数年前に大学卒を3名新卒採用しましたが、それ以降、新卒はないです。
その3名は辞めずにまだいます(笑)。わが社にとって今、彼らは大事な戦力です。
――若手をどう育てるかも難しいところがあると聞きますが。
大野 「若い子はとにかく2〜3年現場に出て、スコップ持って、汗をかいて覚えろ」というのがわれわれの従来のやり方でした。そういうやり方は、今の子には合わないところがあるかもしれません。
今はパソコンを使ってやる仕事もあるので、体を動かすだけが能じゃないと考えています。原価管理もできない、書類もつくれない現場代理人では困りますし。
ただそれでも、私自身は、まず現場でいろいろ経験するのが、やはり一番の近道だと考えています。土木の仕事は、うまいことやれば、一朝一夕で身につくものではないからです。急いで育てようとして、ケガでもされたら仕事が止まってしまいます。
現場で経験を積んで、各工程の段取りをちゃんと把握して、いつ何をすれば良いかを理解することが、一人前の現場代理人になるための必要なステップだと考えています。実際、現場代理人への要求事項は多いので、一つひとつステップを踏む必要があります。
――良い現場代理人の条件は、キチンと「段取り」ができること?
大野 そうですね。少なくとも、1週間ぐらい先の段取りがキッチリ頭に入っていて、そのために必要な動きができるのが、良い現場代理人の条件の一つだと考えています。