【新型コロナ】相次ぐ工事中断で、小規模建設会社は倒産・廃業か?

【新型コロナ】相次ぐ工事中断で、小規模建設会社は倒産・廃業か?

大手ゼネコン、ハウスメーカーによる工事中断の衝撃

新型コロナウイルス感染拡大や緊急事態宣言が全国に拡大したことで、スーバーゼネコンや準大手ゼネコン、ハウスメーカーなどが工事を中断することで建設業界に激震が走っている。

大林組、鹿島、清水建設、大成建設、戸田建設、前田建設工業、熊谷組、安藤ハザマ、西松建設、東急建設、奥村組、フジタなどの名だたるゼネコンやハウスメーカーの大和ハウス工業、アパート建築を手掛ける大東建託が相次いで一時工事中断を発表や方針を示している。

一連の報道に建設業界に激震が走ったが、さらに拡大する可能性もある。その現場を追った。

4月20日時点の情報。数字は、各社の2019年3月期 決算短信〔日本基準〕連結)より

大規模工事現場は3密そのもの

「大規模現場は、3密そのもので、いつかこうなることはわかっていた」――。そう指摘するのは、ある都内の現場で働く建設職人だ。特に朝礼の時は、技術者や技能者が集まるため、なんらかの感染防止対策を施すべきであったと語る。

しかし、それでも急に仕事がなくなったことについて戸惑いを隠せない。

承知の通り、建設業界は他業種と比べ裾野が広く、影響が多岐にわたる。まず直撃を受けるのは実際に現場の実務をこなす一次下請けの専門工事会社で次に、現場で作業する建設職人だ。

まず、専門工事会社は、出来高払いのため、手持ちに現金がない場合、急激に資金繰りが悪化する。そこで金融機関等に相談に駆け込む事例が増えているという。


1社専属の建設職人の悩み

建設職人は日給月給の割合が高い。顔が広い建設職人であれば、工事をストップしたゼネコンやハウスメーカー以外で仕事を探すことも可能だが、1社専属下請けであれば状況は厳しくなる。

建設職人がいわゆる会社と雇用形態を結ぶ正社員であれば、会社から休業補償をもらう方法もあるが、近年、増加している一人親方は個人事業主であるため、手持ちの現金がなくなると生活に事欠くことになる。

ほかにもゼネコンに資材や建材を納入しているメーカー、メーカー販売代理店、警備員、交通誘導員、仮設リース会社など多くの企業が影響を受ける。

それでは、ゼネコンがこれらの下請けに金額的に配慮する余裕があるのだろうか。そこで、工事中断措置を行うゼネコンとハウスメーカーの経営状況を決算短信から明らかにする。

意外とゼネコンは保有現金が少ない?

スーパーゼネコンの連結売上高は、大林組の2兆396億円を筆頭におおよそ1兆円台をキープ。その一方、大成建設や大和ハウス工業は売上利益率9%を確保しているものの、ほかのゼネコンは7%台などと決して高いとは言えない水準だ。

実は異業種からの視点では、ゼネコンの利益率は低いという声があった。これはほかならぬスーパーゼネコンのある社員も、「われわれが大儲けしていると思われているのは心外だ。利益率も高くない中で経営を回しているのが率直のところで、悪者にされるのは面白くない」と心情を吐露している。目立つのは売上高の高さゆえかもしれない。とはいえ、保有している現金は決して高い水準とはいえない。

たとえば、大林組の連結売上高を月商に直すと、おおよそ1,700億円。一方、保有している現金は1,686億円であり、決してキャッシュフローが良好でないことは分かる。1か月になにか大きな問題が発生すれば現金が枯渇する可能性も否定できない。

ちなみに、ほかのゼネコンの現金の保有金額を見てわかる通り、潤沢に現金があるわけでもなく、余裕のある経営をしていないことが分かる。

完成工事未収入金等は工事が竣工したが、まだ現金をもらえていないというほかの業界では売掛金にあたる。工事未払金等は、下請等にこれから支払う予定のお金だ。

たとえば、鹿島を例にとると、完成工事未収入金等が7,019億円、工事未払金等が5,304億円。施主からお金をもらえていないなかで、下請けにも支払いを行わなければならない立場にあるため、スーパーゼネコンでも資金繰りは楽ではない。

これが未上場・非上場で規模の小さいゼネコンの資金繰りはさらに楽ではないことが想像できる。

要するに、ゼネコンの体質として、決してキャッシュフローが良好ではなく、債権と債務が多いという構造的な問題を抱えている。


工事中断の費用負担は力関係に決まるのか?

データを見る限りゼネコンが工事ストップさせた分の支払いを一次下請けなどに行う余裕があるかと言えば、実はかなり難しいのでないかと想定できる。

次に問題として浮上するのは建設機械、足場などのリース代だ。工期を延長すればその分の費用負担が発生するが、ゼネコンとリース会社の力関係で両社がどのような判断が下すかは不透明だ。従来であれば、リース会社が泣くケースが多い。

国土交通省は今回の新型コロナウイルス感染に伴う工事中断については、「不可抗力」と判断。この不可抗力とは、「発注者や受注者のいずれにもその責めを帰すことのできない事由」を指す。そこで3月19日には、国土交通省は、「施工中の工事における新型コロナウイルス感染症の罹患に伴う対応等の解釈等について」という事務連絡を土地・建設産業局建設業課長名で発出。

そのなかで、「受注者は、発注者に工期延長を請求できるとともに、増加する費用については、発注者と受注者が協議して決める」ことを明記している。

そのため、ゼネコンとしては、発注者に費用負担を求めることも可能だが、これまでの力関係では発注者が圧倒的に強く、どれだけの費用負担を求められるかは未定だ。逆に、ゼネコン側も、リース代や下請・孫請けへの支払いなどの費用負担には、明確に示しておらず、下請やリース会社は不安な日々を過ごしている。

これまで見てきたようにゼネコンのキャシュフローは決して健全ではないため、費用負担にも限界があるのも現実のようだ。

小規模事業主は会社を畳む決断も

一方、これを機会に小規模事業主をメインに休廃業、解散の動きも浮上してきた。ここ数年、建設業界では倒産や廃業・解散が減少が続くトレンドであった。

東京商工リサーチの2019年「休廃業・解散企業」動向調査によれば、建設業は前年比22.6%減の7,027件にとどまった。

しかし、これは五輪景気や首都圏の再開発が引き続き活発になっていたことが要因であった。もともと、建設業者の小規模事業主や個人事業主が高齢化しており、いずれは会社畳むかもしくは事業承継の決断を迫られているのが実情で、一部の小事業主からは、「キャッシュがあるうちに会社を畳みたい」と漏らし、黒字倒産の決断も行っている。

そのため、2019年度では減少していた倒産、休廃業、解散はこれから一気に増えるのではないかと言う観測も建設業界内ではある。もともと、景気が良かったことから、休廃業、解散を引き延ばしてきた経緯があり、年齢的にも引き際と判断する動きが出ているのは当然のことと言えた。

また、中規模のリース会社や専門工事業者は、キャッシュの確保に奔走している。ここ数年間、悪くなかったボーナスも一気に悪化する可能性がある。

中小企業の建設会社からはすでに社内でボーナスをめぐり駆け引きや様々なうわさが駆け巡っている。今や、ボーナスは生活給の一部でローンの支払ではずいぶんと助けられている。しかも、ここ数年で建設業界が好景気となっているため、ボーナスが出るのが当たり前の生活様式になっている。


中小ボーナス「冬は絶望、夏寸志」の観測

都内のリース会社社員も、「冬はあきらめたが、夏が寸志であれば絶対に許さない」と言うが、リース会社の内実は、思ったほど現金がないという。

建設業界は好景気が続いていたことから、専門工事業者もキャシュフローを良好にするチャンスはあった。都内のある税理士は、以前ある専門工事会社にこう忠告したという。

「節税のためにベンツを買う社長が多いが、私は勧めない。確かに税金を払わなくて済む場合もあるが確実に手元にある現金が減る。会社は来期も成長する、あるいは利益を確保できることが約束されているわけではない。だからこそ税金を払っても手元に現金を残す方が大事だ。今回の一件で、現金による内部留保が再評価されるのではないか」

緊急事態宣言の動向にもよるが、一部では解除には悲観的な見方も多い。

そうすると、さらに工事中止が続くのかという疑問も生じる。一部には5月6日からさらに延長されると懸念の声がある。

新型コロナウイルス感染では建設業界は一気に緊急事態に陥った。しかも先の見えない不安に、今後の動向が注目点だ。

ピックアップコメント

年度末にコロナ以外の会社都合で契約解除になった者です。減給はまだ遥かに良い方で、失職した後は悲惨ですよ。行政の救済は当てにしてはいけません。今こそ各々知恵を絞り、可能な限り知人のツテを頼り、家族と助け合い、この国難を乗り切りましょう!

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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