住宅・オフィス以外の第三の選択肢
――東京23区でも空き家は社会問題化している。
大河 2014年に成立した「空き家対策特別措置法」により、空き家問題がクローズアップされ始めました。
他社は空き家パトロールや、管理や売買の仲介をメインとしていますが、私は空き家をなくすライフスタイルを築いていくことが重要だと考えてきました。とはいえ、これから少子高齢化は避けられませんし、人口も減少していきます。
今は、自宅と職場の両方のスペースとして活用されることの多い空き家ですが、これからの空き家活用の視点では第三のスペースとしての再生が求められます。そこで、空き家をリノベーションして、趣味、あるいは職場以外で仕事をする、商業施設、保育園など住居以外で活用できるように仕組み化したものが「アキサポ」です。
空き家を所有している方々が空き家の活用に二の足を踏む原因となっているのが費用面です。実際に当社が今年3月に実施した『アキサポ空き家総研「空き家所有者」の意識・実態に関する調査』でも、空き家所有者のうち約7割以上の方々が自己所有の空き家を「活用したい」という意向があるにも関わらず、「金銭面の不安」という理由から「空き家活用」をあきらめ、空き家を放置したままにしている、という現状が明らかになっています。
そこで、リノベーション費用を当社が全額負担することで空き家を所有している方々が前向きに空き家の活用を検討できるのではと考えました。
この「アキサポ」は空き家を所有している方々がリノベーション費用を負担することなく活用することができ、さらに、活用した物件で発生した収益(賃料収入)も得られるという特徴があります。
また、活用に向けては単純に空き家をリノベーションして住居用に再生するよりも、その空き家のポテンシャルを見定めて、住居以外になにが合っているのかをしっかりと調査し、そして地道に聞き込みをしながら、その街に適した施設をつくっています。
――例えば?
大河 文京区茗荷谷にある昭和30年代築で、長年空き家だった長屋の真ん中部分の住居が、お洒落なカフェバル「小石川かふぇ」として生まれ変わりました。
近隣にヒアリングをしてみると、この地域はオフィスや住宅が多いのに飲食店が少なかったんです。それなら、住民の方が集まりやすいカフェやコミュニティ系の飲食店として活用してもらったほうが良いだろう、と。
また、国道15号線に奥に入った大田区区雑色に元々、工場兼事務所で使用されていた施設がありました。
ここは、15号線沿道、横浜市から近いという事情もあり、大型バイクを保有している住民が多かったんです。大型バイクを保有している方には、セキュリティーの高い駐車場を望む方が多いので、大型のバイクガレージを作りましたら、すぐ満車になりましたね。
ほかにも、墨田区東向島では、元は飲食店舗でしたが長年テナントがつかず、長屋物件の真ん中であるため売却も困難な物件がありました。ただ、近所には貸し倉庫がないということが分かったので、加瀬倉庫とアライアンスを組んで、トランクルームへ再生しました。
時計修理店をブックカフェにリノベ
――ほかに、独特な空き家再生の事例は?
大河 豊島区はアニメ・マンガの聖地として旗を振っていますが、地元には手塚治虫や藤子不二雄、石ノ森章太郎、赤塚不二夫ら、著名な漫画家が居住していたトキワ荘があります。
そこで、全国に「古本市場」などを展開する株式会社テイツーとアライアンスし、ふるいちトキワ荘通り店にブックカフェをオープンしました。
元時計修理店であった物件にリノベーションを施し、視認性が高い白を基調とした外装とウッド調のエントランスを構えたデザイン性の高い店舗となっています。
「トキワ荘マンガミュージアム」に隣接しているため、トキワ荘に関連する書籍や雑貨商品の販売をしたり、カフェスペースも設置しています。
こうした事例にも見られるように、空き家を本当の意味で活かすためには、アナログ手法ではありますが、近隣の方からのヒアリングが重要になります。
――空き家が生まれ変わったときは嬉しい?
印南俊祐氏 そうですね。空き家は、私の田舎でも大きな問題でした。実家は栃木県那須塩原市なのですが、空き家になって解体もされずに放置されて、自然に朽ちていく家を近所でも見ています。これでは家があまりにもかわいそうです。
その場所を借りたいという人もいますが、なにも手を加えられていないと多くは空き家になってしまいます。そこにリノベーションを施し、住む人と地域に適切な施設に生まれ変わせることができ、再び人々の活気を感じたり家に明かりが灯る瞬間はとてもうれしく、現場が終わる毎に幸せなことだと思います。