地域建設業の従来のやり方を変えたい
松尾さんは、父親の営む建設会社の三男として生まれる。19才で実家の会社に入社。その後17年間、現場仕事に汗を流した。仕事を続ける中で、「カネをかけず、ラクして稼ぎたい」という思いが湧いてきた。そこで20年ほど前からスケッチアップなどツールを使った3Dモデリングなどについて勉強し始める。要らなくなった会社のパソコンをもらい、Linuxを使い、自分で会社のWEBサーバーを作成し、会社の連絡ネットワークの構築したこともあった。
そんなあるとき、父親である当時の社長に対し、「これからはICTの時代が来る。ウチの会社でも3Dなどをやろう」と提案する。ところが、「そんな時代は来ない」と一蹴されてしまった。現社長の兄にも理解されない。その後、悶々とした気持ちが松尾さんを襲うようになる。「このままこの会社にいても、自分のやりたいこともできずに、終わってしまう」と考えるようになるのにそんなに時間はかからなかった。
あるとき、株式会社山口土木(岡崎市)の社長から「ウチでやらないか」と誘いを受ける。2009年、二つ返事で山口土木に転職した。「地域建設業の従来のやり方をカイゼンしたい」というのが主な転職理由だ。「父親や兄には、自分に見えている未来が見えなかったということ。これは価値観の違いだからしょうがない」と振り返る。実家の会社を飛び出し、その後、絶縁状態になった。
社員にiPhoneを持たせたら、売上が倍増
山口土木で最初にやったことが、iPhoneの導入。主要社員に持たせ、ネットワーク、連絡網を充実させた。導入に際しては、どのキャリアが良いか、iPhoneで何ができるかなどについて、社長にプレゼンし、GOサインをもらった。iPhoneの設定、社員への使い方の説明などすべて松尾さん独りでやった。「山口土木は現場監督も作業員をする全員野球の会社。とにかく『みんなをつなごう』という思いがあった」と言う。
社員グループのやりとりなどには全て無料アプリを使用。極力お金をかけず、iPhoneによる社内ネットワークを構築した。アプリを通じたコミュニケーションは、今でこそ当たり前だが、当時はiPhone5が出たばかりのころ。ガラケーによる通話やメールでのやりとりが主流で、地方の建設会社では一般的なツールではなかった。アプリによるグループへの一斉配信により、社内での情報共有が格段に向上した。システムはGoogleの無料のWEBサービスを使用。GoogleDriveに工事図面などのファイルを保存し、いつどこにいても誰でも全ての現場の図面などを確認できるようにした。
とは言え、試行錯誤はあった。あるWEBシステムを試したところ、社員から「ブラウザへのログインがメンドくさい」という声が上がった。作業中に、いちいちブラウザを立ち上げて、ログインキーを打つのは確かに手間がかかるということで、アプリを開けば操作できるように工夫するなどした。試行錯誤の結果、実際に使えるシステムに仕上げていった。
松尾さんは当時のことを「最初にやったことは本当にちょっとしたこと、簡単なことだった」と振り返る。ただ、効果はてきめんで、2年で売上は2倍に伸びた。しかし3年目は純利益は増えたが売上は横ばいだった。このとき、「iPhoneだけではこれが限界」だと悟る。