「野丁場」から「町場」へ
――それでも、RC造住宅を事業に選択した決め手は?
磯﨑 当社はビル建築をメインとした、いわゆる「野丁場」仕事が多い。一方、住宅事業を中心とする「町場」の仕事もあります。はたから見ると同じ建設業界なのに、仕事内容は「野丁場」と「町場」でまったく異なるわけです。
「町場」の人は元々、大工の棟梁であり、職人気質の人もいますが、業界的には大手のハウスメーカーが牛耳っており、技術や品質よりもマーケティングで競い合います。一方、「野丁場」は「自分たちはこんな難しい仕事もできるんだ」と各社が技術力を競い合う文化が残っています。
ただ、売ることばかり考えて”建てる”というそもそもの行為を軽く見ることはよくないことですし、技術ばかり競いすぎると、エンドユーザーを見ていることになりません。
幸い当社は、「野丁場」で鍛え上げた技術がありましたから、それを「町場」のお客様に提供したいという思いがあったんです。
木造にもRC造にも、それぞれ良い点はあります。RC造は「耐震性が高い」「夏は涼しく、冬は暖かい快適空間をつくれる」「長く住めばライフサイクルコストは安くなります」などのメリットがあります。こうしたメリットをエンドユーザーに新しい選択肢として提供したいという思いから、RC造住宅に力を入れることに決めました。
岡山県で有名な設計事務所から独立した、旧知の間柄の所員がRC造住宅に関心を寄せてくれて、「私は設計を担当するので、施工は磯﨑さんがやってください」という話になり、まず2件を施工するところから始まりました。
これをキッカケに、オリジナルRC造住宅を改良するとともに、木造も手掛け、さらに木造とRC造のハイブリッド住宅と次々と手掛け、ホームページからの集客で、正式に住宅分野にも参入しました。

事業のもう一つ柱に成長したRC造住宅建築
――RC造と木造とのハイブリッド工法、RC造住宅の施工の違いは?
磯﨑 ハイブリッド建築と木造は、それほど施工面で変わりはありません。基礎をつくった段階で、一部RCの壁を造る方式ですから、特に難しくありません。一壁くらいでしたら、木造の基礎屋さんでもできます。
ただ、オールRC造となると、通常の型枠大工や鉄筋工の職人を連れてこないとできません。業者のラインナップがまったく異なるわけです。それに、そもそも地盤から施工は異なりますから。確認申請も、木造であれば図面6~7枚を用意すれば、後は建てるだけですが、RC造であれば、さらに構造図を作成し、構造設計をアウトソーシングする必要もあります。
RC造住宅はブルーオーシャン
――そうなると、昔ながらの地域工務店や住宅に参入していない地域ゼネコンでは、RC造住宅事業を行うのはハードルが高い。
磯﨑 そうですね。住宅コストに見合うRC造プランが必要になりますから、RC造建築を経験したゼネコンの元現場監督などを新たに雇用する必要があるでしょう。
また、人材面に問題がなくても、取引先を「町場」から「野丁場」へ変えなければなりません。民間や公共建築メインの地域ゼネコンでは「B to C」の経験が乏しいこともあるので、イキナリ参入するのは難しい。そもそも、ハコモノと住宅では施工ノウハウも異なりますから。

RC造住宅の現場のもよう
――地域ゼネコンの生き残り策を垣間見た気持ちがします。
磯﨑 当社は、民間や公共建築メインの地域ゼネコンですが、地域の事業が縮小する傾向にある中で、長く生き残っていくことは難しい。そこでもう一つの事業の柱である「RC造住宅」に活路を見出しました。
ここだけはハウスメーカーやビルダー、地域工務店が参入できないブルーオーシャンなんです。地域ゼネコンなら技術的には可能でしょうが、1つの物件が2~3,000万円では恐らく参入しないでしょう。それに、1つの物件に腰を据える傾向が強いゼネコンの現場監督だと、複数の現場を兼務することに慣れていないですから。
ところが、当社のような規模の小さい地域ゼネコンならフットワークも軽く、常に現場監督は数現場を兼務しています。現場ごとのターニングポイントを理解し、数か所の現場を監督するノウハウがあるんです。
ただ、当社以外にも岡山県で「RC造住宅」を売りにした建設会社は存在していたんですが、彼らはすべて倒産しています。