健康リスクが高い低断熱の中古住宅
――断熱と耐震性向上にこだわった理由は?
岩崎 武さん(YKK AP) まず、低断熱の中古住宅は健康リスクが高く、特に冬は命の危険性があります。ヒートショックと言われる冬の入浴中での心肺機能停止者は年間1万7,000人です。年間に交通事故で亡くなられる方が3,532人ですから、ほぼ約5倍に匹敵します。
同じく冬場では窓辺に結露が発生し、その湿気・水分を媒介として、カビやダニが発生することから、そのカビの胞子やダニの死骸を吸い込むことでアレルギーなど健康不良になります。高断熱の家に住むことは、良好な健康生活を送るうえで重要です。
次に、現行での建築基準法に求められる耐震性能は、「耐震等級1」です。これは一応、倒壊はしないので人命は守れるレベルですが、建物の大破もありえるため、建物や資産を守れるレベルではありません。住宅品質確保促進法で定められている「耐震等級3」は、人命だけではなく倒壊しないため、建物という財産を守れるレベルとなります。
さらに一般的な中古住宅は、従来のリフォームを施しただけでは、価格帯としてはそれほど高くありませんが、「性能向上リノベーション」を施すことによって販売価格も新築並みか、あるいはそれよりも多少低い水準までアップします。ですので、これまで手掛けた全13物件での実証結果では、売上拡大に活用できる感触を得られました。これからも、全国の工務店や事業者に発信し、プロジェクトを展開していくつもりです。
――反響はいかがでしたか。
山田英司さん(アイジーコンサルティング) 一般のユーザーに土曜、日曜日にもモデルルームとして開放していますが、「新築じゃないの?」というお声掛けもいただきました。中古と言わなければ分からないほどの外観と質感に仕上がっています。
また、近所にはローコスト新築住宅が建設され、そちらを見たお客様が住宅の知識はなくとも使っている設備やフローリング、サッシなどで歴然とした差があることに気づいていただけるので、『for LONG名古屋の家』に足を運んでいただいた方にはその魅力を伝えられたと感じました。
リノベは優秀な設計者と現場監督がカギ
――今回、実証プロジェクトを行った株式会社アイジーコンサルティングの概要を。
立田 裕樹さん(アイジーコンサルティング) 当社は、創業が1899年で、今年で122年目を迎えます。元々は、鉄道の枕木、電柱の木などを食べていたシロアリを駆除し、社会インフラに貢献していたことが創業の出発点です。
現在は、シロアリの予防や防除を行う住宅メンテナンス事業、戸建ての新築事業、リフォーム事業、不動産事業等を展開し、売上高は41~42億円と推移しています。住宅メンテナンス事業は、東は千葉・埼玉から西は岐阜県と東海関東圏の16店舗で、新築事業はこの東海圏で3店舗、不動産事業は名古屋、浜松、横浜でそれぞれ展開しています。
――実証プロジェクトになぜ参加を
山田英司さん(アイジーコンサルティング) コーポレートブランド「for LONG」との親和性があり、お互いの目的が合致したからです。「for LONG」とは、”長持ちのプロフェッショナル”として「長持ちさせる文化」で世界を豊かにし、今ある家をより永く住み続けることで、愛着のある人生を提供することを大義として掲げています。
また、名古屋圏の中古住宅リノベーション市場は、首都圏と比較して温度差があり遅れている一方で、人口や商圏の観点から見ると魅力的なエリアです。名古屋という大きな市場で中古リノベーションの活性化という視点もあり、今回、名古屋でのプロジェクトにチャレンジしました。
――戸建て住宅のリノベーションだと、躯体構造の施工面で配慮する必要があると思うのですが。
山田英司さん(アイジーコンサルティング) 今回の『for LONG名古屋の家』に関しては、北側との隣地の隙間が2cmしかなかったので、40cmセットバックしました。次にいったん基礎を壊して、新設してそこに柱を立てて、なおかつ既存の梁を活かすなど全体のバランスを考えて、「耐震等級3」を実現しました。躯体構造での施工ではマンションにはない配慮が必要でした。
とくに、リニア駅ができる名古屋市中村区のエリアは昔ながらの地域です。空襲でも焼け残ったエリアもありますので、再建築不可のエリアもあります。今後、開発されない密集地エリアについて、中古住宅を活かしたリノベーションのニーズに期待しています。
――施工面での感想は。
山田英司さん(アイジーコンサルティング) 耐震は得意ですが、断熱やサッシ部分の細かい数値までは出せないので、やはり安全・安心・快適な住生活を実現するためには、YKK APさんのお力をお借りして良かったというのが感想です。
また、リノベーション事業でカギとなるのは、耐震と断熱への理解が深い設計人材と、現場監督だと考えています。リノベーションは、品質と確実性が重要になので、優秀な設計者と監督がいれば、リフォームの事業育成は可能です。この2者の成長こそが、事業の成長へとつながると思います。
――実証プロジェクトは、これからどのようにブラッシュアップしていく?
岩崎武さん(YKK AP) これまで実証プロジェクトでは、耐震と断熱性能向上の視点で実施してきましたが、それ以外では防災の切り口も必要です。近年、台風の大型化、多発化が顕著になり、台風が襲来し、窓に飛来物が当たると窓が割れ、風が建物内に入り、屋根が吹き上げられ、飛ばされる危険性があります。実際、「令和元年房総半島台風」ではそうした事例もありました。
そこで窓を守るためにシャッターをつけ、防災フィルムをガラスの間に挟み込んだ「防災安全複層ガラス」を実証プロジェクトに取り込み、台風被害に備えていければと考えています。
また、今は各県1社とコラボレーションしていますが、性能向上リノベーションをもっと全国に普及するため、今回のアイジーコンサルティング様のような住宅会社を各エリアのリーダー的存在と位置づけ、それからさらに工務店や事業者に広げていくような取り組みが必要であると考えています。
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