ゼネコンの受託スキームから生まれた闇
A氏 特に、この”福島復興バブル”の大きな要因となったのは、除染工事における労務単価の高騰だ。福島の一部地域ではインフラの復旧に当たり、除染工事が先行した。この除染工事自体にゼネコンの高度な技術・ノウハウの多くは必要ない。ゼネコンが担った役割の一つが”除染作業員集め”であった。
だが、実質的には、ゼネコンは下請け業者へと依頼し、彼らが労務者集めに入るわけだ。このフローの中で、本来、これまでの労賃に加え支給されるはずの特殊勤務手当(一人当たり日額1万円。現在は日額6,600円)が、多重下請構造の中で中間搾取された。ここで設計予算上では莫大な金額で組まれていた労務費がどこかへ消えていった。
最近でも、福島県での除染作業や建物解体などを受注したゼネコン幹部が、下請け業者から多額の金銭や過剰な接待を受けていたことが報道されたが、このような”労務賃金バブル”は、そのほとんどにおいてゼネコン業界の受託スキームの中で生まれたものだ。
今でこそ、会計検査院から疑義が入るなど、遅ればせながら正規のビジネスに戻そうという機運になってはいるが、当時は緊急事態のために国も看過してきたし、我々ゼネコンも特措法に甘えすぎていた。この事実は大いに反省し、改善していかなければならない。
また、人材という観点についても、通常、10年間も業務をしていれば、立派な中堅どころとなるはずだが、除染工事に携わってきたゼネコンの技術者がどうなったかと言えば、先に話した工事の実態によって”ほとんど育っていない”のが実情だ。会社としても自社の社員、派遣社員・契約社員も含め、育てようとしてこなかったことも事実である。
概観すれば、この10年間はゼネコンの業績には大きく寄与したと言える。しかしながら、会社の体質・人材という実態経営にはほとんど寄与しておらず、極めてもったいないことだ。
“中間貯蔵”の安全性を明確に示すべき
――今後、ゼネコン業界はどのような形で福島復興に携わっていくべきか。
A氏 まず忘れてはならないことは、放射性物質であるセシウムとトリチウムの問題だ。これらの取扱いについては、ゼネコンの責務として技術的な回答を出すべきだろう。
セシウムの含有、つまり除去土壌については、中間貯蔵開始後30年以内(2045年3月12日まで)に福島県外での最終処分を完了することとなっているが、個人的には不可能だと考えている。搬出先の同意が取れないからだ。除去土壌の処分に関して100%ベストな答えはないが、中間貯蔵施設での管理・保管の期間延長に伴う金銭的な補償の問題などは些末なことだ。
それよりも重要なのは、“中間貯蔵施設で除去土壌を長期に維持・保管管理することに対し、本当に安全性に問題はないのか”という技術的見地を明確に示すことだ。福島県内で保管し続けるにせよ、県外搬出するにせよ、そこが担保されなければ、自治体・住民の同意は得られない。これは中間貯蔵施設を造った我々ゼネコンが示さなければならないものだ。
また、トリチウムについては、海洋放出が有力案の一つとなっている。私個人としては海洋放出による安全性に問題はないと考えているが、住民の方々の心情を勘案すれば、たとえ問題がなかろうが海洋放出をすべきではない。時間が掛かろうとも、トリチウムの除去技術に関する研究開発をゼネコン各社も取り組んでいくべきだ。
「甘えすぎた」のではなく大手ゼネコンや天下り企業が「甘い汁を飲みすぎた」の間違いではないですか?