床面積300m2未満では説明義務に
他の4月1日からの改正点では、小規模(床面積300m2未満)非住宅・住宅では、省エネルギー基準適合を努力義務としたほか、建築士から建築主への説明義務を新たに設けた。説明義務の中身は、この建物が省エネルギー基準に適合しているか否かの点等で、適合していなければ、建築士が建築主に対して、”この取り組みをすれば、省エネルギー性能が向上する”等の説明が義務化された。
一般的に小規模のオフィスビルや住宅オーナーは、実際にその建物を使用することが多いため、説明を受ければ、省エネルギー基準に適合するビルや住宅にする意向を持つ人も一定数いると想定され、効果は期待される。実際、先行的な条例で説明義務を定めた長野県では、約80%の省エネルギー基準適合の建物や住宅になった実例もあり、これまで大規模・中規模非住宅がメインであった省エネルギー基準適合の舞台は、小規模非住宅や住宅にも拡大しそうだ。
加えて、気候・風土の特殊性を踏まえて、地方自治体が条例でより独自に省エネ基準を強化できる仕組みを導入した。国土交通省は、法改正の趣旨をスムーズに学んでもらうことを目的に、全国版のオンライン講座テキストを作成し、全国の建築士事務所や工務店にダイレクトメールで発送するとともに、専門サイトでも公開し、改正建築物省エネ法の普及徹底に努めている。
「改正建築物省エネ法の周知・徹底等では、2019年度は対面による説明会を開催してきましたが、2020年度は新型コロナウイルス感染症のために対面による説明会の開催が困難だったため、動画を公開し、オンライン講座による説明を実施しています。ご自身のペースで話を聞けるということで好評を得ています」(上野課長補佐)
2019年11月に施行されたポイントは?
法改正は2段階によって施行されたが、2019年11月に施行された点もおさらいしよう。
建築物省エネ法では、新築や省エネルギー改修を行う場合に、省エネルギー基準の水準を超える誘導基準等に適合している際、所管行政庁による認定を受けることができる。具体的な例としては、高効率熱源であるコージェネレーション設備を導入し、省エネルギー性能を高める等の取り組む事例があるが、認定を受けた建築物については、容積率等の特例を受けることができる。改正建築物省エネ法では、この容積率特例の対象に、複数の建築物の連携による取り組みを今回、追加した。
「こうしたプロジェクトに対して新たに補助金制度を創設し、1プロジェクトあたり最大5億円を支援する措置を行っている」(上野課長補佐)
次に、建築物省エネ法では床面積300m2以上のマンション等の住宅の新築を行う際、着工の21日前までに省エネルギー計算をした結果を所管行政庁に届出を行うこととなっている。加えて所管行政庁は、届出に係る計画が省エネルギー基準に適合せず、省エネルギー性能確保のため必要があると認められるときは、計画の変更等の指示・命令ができる。
改正建築物省エネ法では、所管行政庁の審査手続きを合理化し、チェックを簡易化する一方で、指示・命令等の監督業務の実施を重点化した。具体的には、BELS(ベルス、新築・既存の建築物において、省エネ性能を第三者評価機関が評価し認定する制度)などで第三者の審査を経て、審査結果の書類を提出すれば、届け出期限を従来の着工21日前から、3日前に短縮できる。
なお、国土交通省は2019年度末に、届出義務制度における省エネ基準不適合の建築物に対する指示等の円滑な運用をはかるため、ガイドラインを策定し、指示等の対象とする住宅や指示等の内容の考え方が盛り込まれた。
さらに、住宅では従来から、建売戸建てを年間150戸以上供給している事業者に対して、省エネ基準よりさらに高い目標を定め、断熱性能の確保、効率性の高い建築設備の導入等により、一層の省エネルギー性能の向上を誘導する住宅トップランナー制度を設けている。今回、対象を、注文戸建て住宅を年間300戸、賃貸アパートを年間1,000戸以上供給している事業者にも広げ、省エネルギー基準以上の取り組みを行うよう新たに追加した。
今後の国土交通省の省エネ戦略の展開
政府は、2050年までにカーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を描いているが、その一環として次世代の省エネ住宅・建築物産業の構築を目指している。
そこで国土交通省は引き続き、省エネ性能の高い住宅・建築物や省エネ改修に対する支援を強化、省エネ建物の普及状況を踏まえ、住宅についても省エネ基準適合率の向上に向けて、更なる規制措置の導入を検討する。
例えば基準の見直しでは、カーボンニュートラル化に向け、住宅や建築物のエネルギー消費性能に関する基準や長期優良住宅の認定基準・住宅性能表示制度の見直しを実施し、住宅・建築物の長寿命化をはかる。
具体的な施策では、省エネリフォーム拡大に向けた支援措置を講じ、広報・メリットのPRも行う予定だ。さらには、ライフサイクル全体を通じて二酸化炭素排出量をマイナスにするLCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)住宅・建築物の普及を通じた二酸化炭素排出削減を強化する。
これらを通じ、国内市場におけるLCCM住宅・建築物、ZEH・ZEBなどの先端的な住宅・建築物需要を開拓するとともに、豊かな市民生活も実現する。そのため、各ゼネコンやハウスメーカー、工務店は競って技術開発に注力することが想定され、提案力も求められる時代に突入したと言える。
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