開かれた魅力あふれる土木学会を目指す
土木学会は6月11日、東京・飯田橋のホテルメトロポリタンエドモントで定時総会を開催、第109代会長に谷口博昭氏が選ばれた。谷口新会長は、東京大学工学部土木工学科卒後、建設省(現・国土交通省)に入省、近畿地方整備局長、道路局長などを経て、事務次官に就任。退官後は、日本道路協会会長等を歴任し、現在は一般財団法人建設業技術者センター理事長。
谷口新会長は、「開かれる魅力あふれる土木学会」を目指し、エビデンスに基づくタイムリーな提言として、「コロナ後の日本創生と土木のビックピクチャー」をまとめることを明らかにした。
インフラの計画的な整備のためには、国際的視点に立ち、国民が信頼し得るレベルの全体俯瞰図が必要と強調。ビックピクチャー策定にあたり、「開かれた学会」として広く国民の声を受け止めたいとした。そこでインフラに関する過去の長期計画の推移と投資額に関する調査も実施し、いくつかのケースを検討、しかるべく投資額を提示する。
また、オープンで忌憚のない意見交換等を踏まえ、土木技術者の社会的地位向上を目指す提案も行う考えも示した。なお、第110代である次期会長は、上田多門氏(北海道大学名誉教授、深圳大学特聘教授)に決定した。総会後、プレス各社が参加する中、谷口新会長は記者会見を行った。
歴史的大国が衰退する教訓、日本も例外ではない
――インフラの投資額はいつ頃発表されますか。
谷口博昭氏(以下、谷口) しかるべく投資額の提示についてはそれほど時間をかけずに発表したいと思います。アメリカのバイデン大統領はGDPの1%と言われているのでそれが一つの目安になります。中国の第14次5か年計画はまだ詳細に確認しておりませんが、まずは各国の計画や投資額等について調査する予定です。
ただ投資額が独り歩きするだけでは意味がありません。防災、減災、国土強靭化、維持管理・更新に加え、交流・連携を促進する陸・海・空の交通網、デジタルや夢のあるプロジェクトを盛り込みたい。
――「防災・減災・国土強靭化」やインフラ投資額についての考え方について
谷口 『なぜ大国は衰退するのか 古代ローマから現代まで』(日本経済新聞出版)では、ローマ帝国、明朝中国からオスマントルコやスペイン帝国、大英帝国、果ては日本についても言及した大書です。
世界の大国はその時代で最大の経済力、政治力、軍事力をもつ国として台頭しましたが、最終的には衰退した理由について追及しております。具体的には、経済の不均衡を解決できない国家の政治的停滞こそが衰退の原因であることを明らかにしています。特に、財政的不均衡を国家の責任として解決していかなければならないことが大きく教訓として明示されています。
この考え方が正しいかわかりませんが、私はこの考え方に賛同しています。現在のアメリカはこの考え方にならっているのではないでしょうか。
また、著名エコノミスト、ポール・マカリー氏は、アダム・スミスの「見えざる手」から、「強まる政府の見えるこぶし」の時代だと指摘しています。公共投資を復活させることで中間層が潤うと語っています。彼は、バイデン大統領のインフラ投資計画「アメリカン・ジョブズ・プラン」に注目しており、分断されたアメリカの中間層を復活し、ウィンウィンの関係をつくりあげることが大きな狙いであると解説しています。アメリカは、新たな雇用、経済を再構築し、台頭が著しい中国に対抗していきますが、日本はそういうマインドがあるかわからないということも指摘しています。
――インフラ投資は国際競争力を高めるという意見もあるが。
谷口 イギリスは地域間格差是正のため、「国家インフラ戦略~より公正に、より速く、より環境に優しく」を2020年11月に発表しています。各国ともインフラ削減をチェンジしております。
ただし、順序としてはインフラありきではなく、この国の生活経済社会をどうあるべきかを第一に考え、家田仁前会長が言われたように、「人を中心とした社会」へと移行すべきです。
南海トラフ巨大地震や首都直下地震も発生が懸念されております。一方、テレワークも浸透しつつあり、2居住生活も可能になってきました。首都圏近辺だけではなく、もう少し各地方へと分散すべきで、今がチャンスです。
デジタルを活用しながら、陸・海・空の交通体系を構築するときです。しかし、このままであれば、「限界集落」ではなく、さらなる地方の衰退により「限界市町村」も生まれてしまうかもしれない。
一方、中国の第14次5か年計画では、2035年までに鉄道は20万km前後、高速道路は16万km前後を整備するといっています。今の日本がインフラ面で中国に太刀打ちできるのかと思います。「防災・減災・国土強靭化」はややファジーなところがありますが、最後は政治決断だと思います。
我が国も「コロナ後の日本創生 持続的発展」を目指し、グローバルな競争に打ち勝つためには、削減してきたインフラ投資に対する考え方をチェンジするときに来ています。
やはり、政治に訴えていかなければなりませんが、私の任期満了前の2022年6月頃に「ビックピクチャー」を発表したい。