「絶対液状化しない」と言い切れる土地はない
―― 一般論として、新興住宅地は、もともとは居住に適さない湿地や沼地だった場所であることが多いと思いますが、大丈夫なんでしょうか?
村上さん 私自身「新興住宅地は大丈夫か」とよく聞かれるのですが、もちろん大丈夫だとは言い切れません。その土地の地盤が健全かどうかは、数十mピッチの非常に狭い範囲で大きく変わってくるからです。住宅が10軒あれば、その範囲で条件が変わっていることもあるわけです。もともと城の堀だった場所を埋め立てた住宅地があったのですが、一列だけ液状化の被害を受けたケースがありました。古くからある土地だったら大丈夫かと言うと、必ずしもそうとは限りません。
――素人ではまず判断できないと思いますが。
村上さん それはそうでしょう。東北地方太平洋地震の後、茨城県の弁護士さんと一緒に被災した住民相談会に参加したことがありました。液状化して傾いた住宅の補償などに関するご相談を受けたのですが、お話を聞いていて、私としてもツラかったです。まだ若い方で、住宅を買って2年も経っていないのに、家が傾いた方がいらっしゃいました。その方が「自分は変な土地をつかまされたんじゃないか」とおっしゃっていました。
それを聞いて、一般の方は、われわれ専門家と違って、正式な手続きを経て買った土地、住宅は「大丈夫なもの」と思うものなんだと知りました。実際には大丈夫じゃない場合もあるわけですが、知らなかった人が悪いでは済まないところがあると感じました。これはこの方だけの問題ではなく、全ての国民が遭遇するかもしれない問題でもあるわけです。
液状化対策は国家的なプロジェクト
――悪い土地に関する情報がオープンになったとして、それを好ましくないと考える向きも少なからずありそうですが。
村上さん 国土交通省では、液状化ハザードマップ作成の手引きなどを公開しています。ハザードマップには発生傾向図と液状化危険度図とがあり、傾向図は地形図から導きます。埋立地や旧河道などが該当します。危険度図はボーリングデータを使います。これまでは自治体ごとに異なる手法で作成してきたのですが、全国統一ルールで作成できるようになりました。
この手引きに沿ってハザードマップ作成したとしても、もちろんすべての情報がわかるわけではありませんが、国土交通省ではすでにこういう取り組みを行なっています。液状化に関する情報のオープン化を好ましくない向きもあるのではないかとおっしゃいましたが、もうそういうことを言っていられる時代ではないということだと考えています。
確かに、20年ほど前には、ある自治体の方が液状化ハザードマップをつくろうとしていたのですが、「土地の値段が変わるから、やめてくれ」という声が出て、できなかったということがありました。ただ、兵庫県南部地震を契機として、都市部の液状化に関する情報が外に出始めました。自治体が作成する地震防災計画には、液状化に関する項目が必ず入っています。熊本市でも震災前から液状化ハザードマップは公開していました。ただ、ボーリングデータを使っておらず、詳細なものではありませんでしたが。
VRを活用し、災害を疑似体験できるように
――今後の研究の方向性は?
村上さん 「災害を経験しないと、次に進めないのか」という思いがあります。毎回悔しい思いをしています。例えば、兵庫県南部地震を経験して耐震設計が変わりました。東日本大震災を経験して液状化対策推進事業ができました。それら自体は良いことだけれども、後手後手に回っている感が否めません。私自身、災害調査などで現地に入って、いろいろ活動していても、「後出しジャンケンじゃないか」と言われたことがありました。
最近考えているのは、「コンピュータで災害を疑似体験できないか」ということです。VRなどを活用して、リアルな地盤、リアルな建造物を再現して、災害を疑似体験する。例えば、警固断層が動いた場合、天神の地盤だったら、ビルなどはどう動くかを再現するということです。建造物は人工物だし、見えるものなので、再現しやすいと思いますが、地盤は見えないので、これをどれだけリアルに再現できるかが課題です。
地震だけでなく、過去経験したことがないような大雨が降ったとして、博多駅のどう水が流れてどう浸水するかということも、再現することを考えています。専門家であれば、ハザードマップを見れば、どこが浸水するかおおよそイメージできるのですが、一般の方々はなかなかイメージできないところがあります。
私はこの疑似体験システムのことを「バーチャルタイムマシン」と呼んでいます。未来の災害を予想するシステムという意味を込めています。行政や市民が災害に伴う現象をリアルな情報として共有し、そのためにそれぞれが何をしなければならないかを考えるツールとして活用できるようにしたいと考えています。防災訓練にも活用できると思っています。遅くとも、10年後には実現させたいところです。
地元福岡市役所が一番人気
――話はガラッと変わりますが、最近の学生の就職の傾向はどんな感じですか?
村上さん 新入生に聞くと、公務員希望が多いです。学生にとっては、行政の仕事が身近でイメージしやすいからだと思います。おそらく、親などから「将来何になりたいかちゃんと考えたうえで、大学を選びなさい」と言われているからだろうと思っています。熊本地震や豪雨などの災害を経験して、「防災をやりたい」という学生も相当数います。あとは環境、景観などですかね。昔は多かった「大きなモノをつくりたい」という感じではなく、もっと具体的に考えている感じがあります。
――人生設計が立てやすいから公務員志向なのでしょうか?
村上さん 学生本人の希望と言うより、両親の希望という側面もあると思います。実際に「親から言われたから、公務員志望です」という学生もいました。「確実に地元で働ける」という理由もあるでしょうね。公務員の中でも福岡市役所は人気がありますね。福岡市は全国的に見ても住みやすいので、あえて転勤を伴う仕事に就いて、住みにくいまちに住もうとは考えにくいという面もあると思います。
――学生数は?
村上さん 定員の5%増ぐらいまでですね。昔は10%増しまでとっていたらしいのですが、最近は、定員を遵守する方向です。
――大学によっては、専攻を選ぶときに、多くの学生が建築に行ってしまって、土木が定員割れ状態という話を聞きますが。
村上さん ウチの場合は、受験時点で土木と建築が分かれているので、基本的にはそういうことはないですね。
――学生の就職先はどんな感じですか?
村上さん 公務員、ゼネコン、コンサルと、ほぼ同じ割合で就職しています。幸い就職率はほぼ100%で推移しています。その他、「鉄道や電力、ガスなどの事業主系の仕事もあるよ」と多様な進路先のアドバイスをしているせいか、少数ですが、公務員以外の事業主系に進む学生もいます。
就職について、大学の教員の仕事は、「学生に機会を与えること」だと考えています。就活期を迎えた学生には「自分でいろいろ調べて、第3希望まで具体的な就職先を挙げたら良いね」と言っておきます。その中から、学生の個性と合いそうな雰囲気の会社を薦めて、OB・OGや知り合いを紹介したりしています。学生に会社を薦めるときは、個人の感情が入りそうになりますが、なるべくフェアにやるよう心がけています。
――土木のイメージについて、どうお考えですか?
村上さん 土木の仕事は、普通に暮らしていると、なかなかイメージしづらいところがあると考えています。最近は、建設するだけでなく橋梁などインフラの維持管理も重要な仕事の1つになっていますが、そのことについて知っている学生はほとんどいないと思います。
――福岡大学社会デザイン工学科の魅力は?
村上さん 「私立大学のクセに、教員が多い」ところですね(笑)。学生数に対する教員数は地方国立大学並みなので、きめ細かい指導ができると思います。土木だけではなく、防災・減災、環境、気候変動など幅広く学べるので、我々の暮らしを支えること、守ることといった社会に貢献できる技術に加えて、最近注目されているSDGsを将来の仕事の中で実行できる技術を身につけることができます。就職も国立大学に負けていません。福岡大学の学生は元気な子が多く、全国には多くの卒業生がいるので、いろいろサポートしてくれると思います。
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