ドライバーなどへのアピールが足りていない
――他の道路管理者との連携はどうなっていますか?
見坂さん 作戦遂行に当たっては、他の道路管理者との連携は非常に重要です。当然のことながら、八方向作戦の訓練には、他の道路管理者である東京都、首都高速道路株式会社、NEXCOなども参加しています。
都心の西方向からの道路啓開を例にしますと、八王子にある相武国道事務所が作戦を担当しますが、中央自動車道、首都高速4号線、国道20号などが道路啓開の候補路線として挙がっています。
仮に国道20号の復旧に非常に時間がかかる場合は、中央道と首都高4号線を復旧ルートに選定することになります。この場合は、それぞれの道路管理者であるNEXCO中日本と首都高速道路株式会社と関東地整が連携して、復旧に向けた資材や人員を集中投下するということも、場合によってはあると考えています。逆に、高速道路がかなり被害を受けている場合は、国道20号の道路啓開を最優先とし、資材や人員などを集中させ、都道などと組み合わせてルートを確保することになります。
――八方向作戦の都民へのアピールについて、どうお考えですか?
見坂さん 都民の方々へのアピールについては、現時点では、まだ不足していると認識しています。地震が発生すると、道路上がたくさんの車両で埋まります。関東地整では、作戦に際し、車両から避難する際には、車をすぐに移動させられるよう、キーをつけたままにしておくことをドライバーさんにお願いしているところですが、都民の方々の理解はまだまだだと感じています。
訓練などを通じて、理解を求めているところではありますが、今後は、政府広報とかTV広告なども活用しながら、「地震発生時にドライバーさんはどうすべきか」について、もっとアピールしていく必要があると感じているところです。
インフラの耐震化は進んでいるが、建物の耐震化が遅れている
――インフラなどの耐震化については、どうお考えですか?
見坂さん 橋梁などインフラの耐震化はかなり進んでいますので、地震が起きても、主な幹線道路では落橋するようなことはまずないと思っています。ただ、建物の耐震化は遅れています。新しいビルはまず大丈夫だと思いますが、耐震基準を満たしていない古いビルは、都内にはまだ数多く残っており、倒壊するリスクがあります。都内には木造住宅がたくさんあります。こちらは、倒壊だけでなく、火災のリスクもあります。これは、東京都が抱える課題ですが、現時点では、これらの課題解決に向けた答えは、まだ出ていないと認識しているところです。
――無電柱化の推進は順調ですか?
見坂さん いえ、順調には行っていませんね。進まない原因は、コストです。都内では、すでにいろいろな構造物などが地中に埋まっているので、工事の調整などでさらにコストがかかってきます。地中化に関する予算を確保できたとしても、電柱の撤去作業に伴う費用は電力会社の負担なので、やはりコストがネックになってきます。
――大雨や台風などの水害に見舞われるリスクはそれほど高くないとお考えですか?
見坂さん 既往の降雨量に対しては、水害への備えは相応に実施してきていると認識していますが、水害のリスクは高くないとは言えないと考えています。やはり、想定を越える大雨が降るリスクは残るからです。例えば、想定外の降雨により、ひとたび荒川の堤防が決壊すると、とんでもない被害が出てしまいます。想定外のリスクに備えるには、やはりスーパー堤防といった更なる治水対策を講じる必要があると考えていますし、上流から下流までの流域全体での総合的な治水である「流域治水」にも取り組んで行く必要があります。
23年度までに原則BIM/CIM全面適用へ

インフラDXのイメージ(国土交通省資料より)
――DXにも力を入れているようですね。
見坂さん 国土交通省では2016年度から「i-Construction」として、ICT施工などを進めてきました。2020年度からは、これにインフラ分野のデジタル化、DXを加え、「インフラDX」として進めているところです。
関東地整では、2021年度を「インフラDX元年」と位置づけ、今年4月、松戸市に「関東DX・i-Construction人材育成センター」を開設したほか、さいたま市にある本局内にDXルームを開設しました。人材育成センターは、国交省職員のほか、自治体職員、施工業者社員などがインフラ分野の様々なデジタル技術について学ぶ施設です。ICT施工や無人化施工などの実地研修も受けることができます。ただ、コロナの関係で、今は実地研修はやっていませんが。
7月には、局長をトップとする「インフラDX推進本部」を立ち上げました。推進本部には、河川、道路、営繕、港湾空港、防災、情報インフラ、総務、建政、用地の各ワーキンググループが設置されています。
推進本部の目的として、大きく2点掲げています。1点目が、「建設生産プロセスの変革による抜本的な生産性、安全性、効率性の向上」です。2点目が、「建設従事者の仕事の進め方の変革による働き方改革の推進」です。
7月30日に推進本部会議の初会合を開催し、今後5年間のロードマップと2021年度の取り組みなどについて、議論しました。各ワーキンググループの2021年度の取り組みについても、近いうちに公表することにしています。
――ロードマップはどうなっていますか?
見坂さん 国土交通省では、2023年度に、小さなものを除くすべての詳細設計、工事への「BIM/CIM原則適用」を目標としています。関東地整でも、この目標達成に向け、取り組んでいきます。関東地整の2021年度の取り組みとしては、トンネルや橋梁など大規模な構造物の詳細設計については、BIM/CIMを原則適用することにしています。工事については、2022年度から原則適用していきたいと考えています。
遠隔臨場については、一定規模以上の工事についてはすべて導入し、課題抽出などを行い、導入拡大を進めていきます。コロナ禍の環境下でもあるので、試行と言いながらも、実際は全面的に導入しているところです。