建築物の設計は、建築士や設計士がおこないます。一般的にどちらも同じ職業と思われがちですが、実は、資格の有無や業務内容が異なります。
この記事では、設計士と建築士の違いや、設計士になる方法を紹介します。設計士を目指している方は、ぜひ参考にしてみてください。
設計士の定義は? 設計士になるためには?
設計士と建築士は、どちらも建築物の設計に関わる人を指します。一般的には、設計士と建築士はどちらも同じ職業を意味する場合が多いですが、実際には明確な違いがあるのです。
仕事で設計に関わる場合は、しっかりと区別する必要があるでしょう。では、設計士と建築士の違いを紹介します。
設計士と建築士の違い
「設計士」とは、建築士の資格を持っておらず、設計や建築士の補助をおこなう人を意味します。一方、「建築士」とは、国家資格を取得した人のみ名乗ることができます。
建築士には、一級建築士、二級建築士、木造建築士と全部で3種類の国家資格が存在します。設計や工事監理に携わることができる建築物は、資格別で異なります。
建築士の資格を持たない設計士は、建築士と比べておこなえる業務が限定的です。建築の設計や管理には、建築士の資格が必要なため、設計士の仕事は建築士をサポートすることが基本となります。
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設計士という資格はない
建築士と異なり、設計士という資格はありません。原則、設計業務は建築士がおこないます。設計士はあくまで建築士のサポートをする立ち位置です。
資格が存在しない設計士には明確な定義が存在しないため、設計士になる方法としては、設計を学ぶことができる学校に通い、その後、設計事務所や建築会社・工務店などに就職するケースが多いでしょう。会社で設計業務に携わっていれば、設計士と名乗ることができます。
基本的に建築物の設計は建築士がおこないますが、延べ面積が100平方メートル未満の木造建築物では、建築士の資格がない設計士でも設計が可能です。
ただし、建築士試験になるためには、学歴や実務経験などの受験資格が設けられています。二級建築士を受験するには、建築に関する学歴がない場合は7年間の実務経験が必要です。一方で、大学などで指定科目の単位を取得している場合は、受験のための実務経験年数は必要はありません。一級建築士を受験する場合も、二級建築士や建築設備士の合格者か大学などで指定科目の単位を取得していなければなりません。
実際に、最新の令和5年「一級建築士 設計製図試験」に合格した3,401人の学歴(受験資格)を見てみると、 大学が72.3%、二級建築士が17.6%、専修学校が5.1%、建築設備士1.1%、その他(短大、高専など)が3.9%と、7割以上の合格者が大学卒業となっています。そのため、早期に資格を取得をしてキャリアアップを目指す場合は、指定学科を専攻していたほうが有利となります。
設計士と建築士では年収も異なる
建築士が国家資格なのに対し、設計士は特に資格が必要なく、設計業務に携わっていれば設計士と名乗ることができます。そのため、建築士に比べて、設計士の平均年収はやや低くなるでしょう。
設計士は資格があるわけではないため、会社規模によって年収が大きく変動します。中小企業の場合、設計士の平均年収は500万円前後です。
一方、建築士の平均年収は、取得している資格や年齢・会社規模によっても差がありますが、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によれば、一級建築士の場合、平均年収は650万円前後と言われています。
女性の設計士の数は?
建設業界は男性社会のイメージが強いですが、建設現場に出て働く職人や現場監督と比較して、内勤の設計職は女性が多く活躍しています。
先ほど説明した通り、設計士には明確な定義が存在せず、正確な就業者数を調査したデータがありませんが、参考として建築士の合格者数を見てみると、令和5年「一級建築士 設計製図試験」に合格した3,401人のうち、女性の割合は30.8%と3割以上が女性が占めています。
設計士の業務内容は?
建築士の主な仕事は、法律に基づき、さまざまな建築物の設計や工事の監理をおこなうことです。建築士は、建築物の設計から現場監督など、幅広い業務を担うことができます。
顧客から依頼を受け、理想の建物をイメージしたり、予算を見積もるのも建築士の仕事です。建築士になれば、将来、自分の住む家を建てることもできます。一方、設計士とは一体どんな業務をおこなうのか見ていきましょう。
資格は存在しないが重要な役割を担う設計士
設計士は、建築士をサポートする役割として住宅建築に深く関わります。設計士の主な仕事は、施主との打ち合わせや、延べ面積が100平方メートル未満の木造建築物の設計、建築士の設計補助や書類作成です。
設計士という資格は存在しませんが、おこなう業務はどれも建設には欠かせません。では、設計士がおこなう業務内容を紹介します。
施主との打ち合わせ
建築士と同じく、設計士も施主と打ち合わせをおこないます。しかし、設計士と施主のみで打ち合わせをすることはほとんどありません。設計士は、建築士の打ち合わせに同席するか、営業担当者とともに打ち合わせをおこなうことが一般的です。
注文住宅の場合、施主の建築イメージを具現化することが重要になります。設計士には、施主の要望や細かいこだわりを上手くヒアリングできるスキルが要求されます。設計士が打ち合わせに参加する目的は、施主の要望を聞くことに加え、提案することも含まれます。
小規模木造建築物の設計
建築士法第3条によると、延べ面積が100平方メートル未満の木造建築物は、建築士の資格を持たない設計士でも設計できるとされています。そのため、小規模な木造建築物を設計する場合は、設計士が設計を任されるケースもあります。
100平方メートル未満の木造建築物は誰でも設計可能とされていますが、建築基準法やそれに付随する告示および条例などを遵守しなくてはならないため、設計は専門知識を有する設計士がおこないます。
建築士の補佐的業務
業務範囲が広い建築士の補助や雑務も、設計士の大切な仕事です。建築士の補助は、設計士の経験を積むうえで非常に役立ちます。
書類作成では、施主の需要や傾向を学ぶことができるため、補助や雑務でもキャリアアップや建築士の資格取得につながるでしょう。また近年では、建物外観の芸術性が話題になることもあり、設計補助でも自身の個性や感覚を磨く勉強にもなります。
設計士に必要な4つのスキル
ここまで説明した通り、設計士は住宅建築などには欠かせない存在です。そんな設計士から、建築士にキャリアップするためには、一級建築士、二級建築士、木造建築士の国家試験に受かる必要があります。
建築士を目指す場合、設計士として勤務することで実務経験と知識を身に付けることができます。では、設計士に必要な4つのスキルを見ていきましょう。
感性
建築物を設計するうえで、デザインを生み出す感性が非常に重要です。建築を依頼する施主は、利便性や快適性はもちろん、デザイン性などの見た目も要求します。
建築士のサポートや自身が設計をおこなう際、顧客に満足してもらうには、過去の建築デザインだけでなく、最先端のデザインに関する知識を身に付けておくことも大切です。さらに、設計はまっさらな状態から完成を目指すため、創造性も身に付けましょう。
空間把握能力
空間把握能力とは、目視した物体の位置関係を正確かつ迅速に認知する能力です。設計において、住居者の住み心地が良く、使いやすい空間をイメージすることが重要といえます。
空間把握能力は、年齢とともに衰えるといわれています。日頃からさまざまな建築物を見たり、設計図の寸法と実際の大きさがイメージ通りか確認することで空間把握能力を鍛えましょう。
コミュニケーションスキル
建築士や営業担当者と共に打ち合わせに参加する設計士は、施主の要望や細かいこだわりを上手くヒアリングし、満足してもらえる設計を考える必要があります。施主の年齢は幅広いため、自身と離れている年代の方からも話を引き出せるコミュニケーションスキルが重要です。
施主とのコミュニケーションを通じて、設計士が施主の要望やこだわりに対して最適な設計を提案します。自身が提案した設計に対する説明が上手くできれば、スムーズに打ち合わせが進むでしょう。
理系のスキル
建物の設計には、地盤や室内に発生するであろうカビや微生物、塗料や材料に含まれる化学物質に関する知識が必要です。さらに、強度な建物を建てるために、物理の構造力学などさまざまな理系のスキルが設計士には必要といえます。
地震などで簡単に建物が倒れてしまわないように、設計する際には、構造を計算する数学の知識を身に付けるなど、設計士は幅広い理系に関する知識への興味、関心を持つことが重要です。
設計士になるにはコミュニケーションスキルも重要
この記事では、設計士と建築士の違いや、設計士になる方法を紹介しました。
設計士と建築士の大きな違いは、国家資格の有無です。建築士は国家試験に合格しないと名乗れませんが、設計士には資格がないため、設計業務に携わっていれば誰でも名乗ることができます。
設計士の主な業務は建築士のサポートですが、小規模な木造建築物を設計する場合は、設計士が設計を任されるケースもあります。
設計士も建築士と同じく、施主の要望に応えた建物の設計をおこなうことが重要になるため、上手く話を引き出せるようにコミュニケーションスキルを身に付けましょう。