既設橋梁と新設橋梁との接合時に注意すべきこと
橋梁工事は今後、新設工事よりも、リニューアル工事や補強工事が増えていく。それに伴い橋梁の既存施設と新設施設を接合する工事も出てくると考えられる。
今まで橋脚の梁同士を接合して橋を造る、という事例はあまりないが、一部ではすでに供用中の道路橋に車線を増やして、新たに橋を架けるプロジェクトが進められている。
私が担当した工事は、供用中の橋脚天端の梁に、新設橋脚の梁を接合して一体化させるという工事だった。今後増えていくだろう「既存橋梁と新設橋梁の接合工事」において注意すべき点を簡単にまとめておく。
既設橋梁と新設橋梁の接合工事におけるメリットとデメリット
既設橋梁と新設橋梁との接合工事のメリットは、当然、建設コストを削減できる点にある。既設橋梁を使いながら新設橋梁を造ることで、新設の橋梁を別に建設するよりも用地取得面積が小さくて済むため、用地補償の交渉がラクになり買収費用を圧縮できるのだ。
しかし既設橋梁と新設橋梁とを接合する場合、設計の地震時の検討で問題が起こる可能性が高い。 常時検討では構造物自体は健全であり、車が走るのに全く問題はないが、東日本大震災のような巨大地震が発生した場合、供用中の橋脚もしくは新設の橋脚の根元がやられる可能性がある。
既設橋梁と新設橋梁の一体化をすると、全体のエネルギーが最も弱い箇所に集中することになる。特に地震が発生すると橋梁上部工・下部工単体ではなく、全体に広く影響するため、橋全体で検討する必要がある。さらに、新たに車線を増やすことで荷重は大きくなり、地震時の動きはとても複雑になる。つまり、接合部の形式を適切に設定することで、地震時でももたせるしかない、ということだ。
構造物の補強計算で必要なこと
具体的な懸念としては、橋脚同士の接合部と橋脚天端に、大きな曲げモーメントとせん断力が作用する点が挙げられる。既設の橋脚にはこれ以上負荷をかけられないので、新設橋脚に負荷をかけることで、既設の橋脚への負担増を回避させることが重要となる。
実際の対策としては、接合部の中心部に鉄筋を配置することで、接合部に発生する曲げモーメントを、他の場所で負担させることになる。つまり、接合部をヒンジ形式にして発生する外力を新設部にできる限り伝達することにより負担軽減を試みる、ということだ。
また、この箇所にはせん断力が発生するので、中心部に鉄筋を集中的に配置し、その鉄筋にせん断力をもたせるようにする。その際、特に気を付けなければならないのが、既設の橋脚に配置されている鉄筋に干渉しないようにすることだ。鉄筋にぶつかって壊してしまえばアウトなので、事前に鉄筋探査を行って配置されている箇所を適切にマーキングして、その位置に配置することが必要となる。
業務内容と受注金額のバランスが必要
もう一つ懸念点がある。
これまで、このような事例はあまり蓄積されていないため、類似事例を参考にしつつ試行錯誤を繰り返す必要がある。そのため、設計や検討にかかる費用がかさむ可能性が高くなるのだ。
実際、この橋脚の梁同士を接合する工事では、耐震検討にかなりの労力を要し、設計費をどうするかで議論が長引いた。
モデル化して、地震波を入力し、適切に初期外力や部材の寸法、材料を入れて計算し、おかしなところを探し当てて、また計算……の繰り返しになる。
既存施設と新設施設との接合が絡む場合は、普通の設計や工事とは異なり、かなり特殊なので、それを頭に入れて費用見積りをすることが必要だ。想定以上に人手も時間も必要になり、費用のバランスが崩れる可能性がある。
工事においても事例蓄積が少ないので、施工計画や手順書作成には労力が必要になる。細部にわたる検討、安全面の問題の有無、資材調達や重機配置などが問題になるため、じっくり腰を据えて検討し、時間や費用のバランスを考えて見積りすることをおススメする。
受注段階や入札段階でそこまで把握することは難しいが、最近は総合評価方式の入札が多くなっており、その中での提案もできるので、ある程度目安をつけることが可能だ。提案を検討していく中で、どこが懸念点か、どこが最もクリティカルなところか、などが浮き彫りになるため、それらの検討を含めて見積もりを上げる必要がある。
前例にとらわれず柔軟な発想で施工方法を検討しよう
今後は橋梁工事に限らず、前例のない工事がどんどん増えてくると考えらる。
限られた用地、限られた空間での施工が条件となる現場が増加すれば、設計での考え方も変わってくる。
今回のヒンジ形式だけではなく、接合部に繊維シートを巻いたり、既設の橋脚基部に影響があればそこにも繊維シートを巻いて補強したりする可能性もある。そのときに何層巻くのか、どの材料を使えばいいか、などを総合的に検討する必要も出てくる。
そうした場合、前例に従うのもいいが、施工条件や設計条件がすべて同じ、とも限らない。前例はあくまで参考程度にしておき、もう少し柔軟に考え検討すべきだ。
新設構造物に限ったことではないが、大事なことは前例に縛られないこと。前例はあくまで参考にしておき、それに縛られることなく、可能な施工方法をどんどん検討していくことが求められる時代になってきていると思う。