「建物の安全性には地盤が欠かせない」
住宅を建築する場合、多くの方は利便性や子どもたちの通学などを重点に考え、その地域の地盤に対する関心は少ないのが現状だ。
地盤には強弱があり、かつて海、川、沼であったところが次々と埋め立てられた場所では、地盤の内実はわかりにくい。そこで地盤ネット株式会社では、「地盤カルテ®」を公表、住所などを入力するだけで、100点満点で数値化した地盤が分かるなど、生活者と供給者との情報格差を埋めるビジネスモデルに取り組んだ。
さらに、このほど同社は「地盤から家づくりを考える」を理念とした住宅ブランド「ジバングーホーム」を立ち上げ、地盤の強い埼玉県・飯能市でコンセプトハウス施工を開始、都内の目黒区や世田谷区でも積極的に現場見学会を開催している。
「建物の安全性には地盤が欠かせない」と情熱を持って語る地盤ネットホールディングス株式会社(以下、地盤ネットHD)の新美輝夫代表取締役社長に話を聞いた。
強固な宅地地盤の飯能市と提携
――地盤適合耐震住宅「ジバングーホーム」を立ち上げられた経緯からお願いします。
新美輝夫氏(以下、新美社長) 2018年に住宅会社の事業譲渡を受け、住宅事業をスタートしました。それまで、当社は地盤解析専門会社として、地盤の調査・解析・補償などを手掛けていましたが、住宅を建築するとき、多くの方は地盤のことまで気に留めません。建ててから何年か経って、家が傾くなどの悲惨な事例は少なくないにもかかわらずです。通学や利便性も大切ですが、”地盤の良し悪しも考えて住宅を建築しましょう”と社会的な活動を積極的に展開するために、地盤ネットの地盤に関する知見を活かした「地盤適合耐震住宅」ブランドとして、「ジバングーホーム」を立ち上げました。
また、当社では2015年より、お住まいになられている地域の災害リスクがわかる「地盤カルテ®」を無料で公開し、現在80万ユーザが登録、年間20~30万人がご利用されているのですが、地盤への関心が高まった結果、「どこの工務店に依頼すればいいか」という問い合わせが増えていたことも住宅事業を立ち上げたひとつの背景でもあります。
――今回、埼玉県飯能市にジバングーホームの初のモデルハウスが建てられましたが、なぜ飯能市だったのでしょうか?
新美社長 飯能市は「飯能台地」に支えられた強固な宅地地盤が多く、地震に強いエリアなのですが、定量的にその強さを説明できなかったことが弱点でした。当社の地盤調査により、初めて地盤の強さを数値で確認できたことをきっかけに、これを良いアピールポイントとして活用していこうとした飯能市と、「飯能市への移住定住の促進、企業誘致の推進及び安全・安心なまちづくりをより一層推進していくための連携協定」を2021年3月に締結しました。
また、当社は2016年から11月28日を「いい地盤の日」として記念日に制定し、安全な場所に住む事が重要だという理念に賛同し、実績を上げた企業、団体、人物を表彰していくことを目的として「いい地盤の日アワード」を開催しているのですが、第4回となる「いい地盤の日アワード2021」の大賞を飯能市に授与しています。
飯能市の新井重治市長からは、「飯能市は、豊かな緑と清流に囲まれながら都心から約1時間程度の距離にある自然と都市機能が調和した街。私自身、小さい頃から飯能市の地盤は硬い、ということを代々伝え聞いていました。地盤が硬いということは、地震の被害も少なく定住に適した場所で、多くの方に住んでいただきたいおすすめの土地。本当にうれしく思います」とコメントをいただいています。
いい地盤の見える化
――そこで飯能市に住宅を建築することになったわけですね。
新美社長 今回の物件は、660m2超の広々とした土地で、その地盤にあった住宅を建築しましたが、これを一つのモデルにしていきます。
地盤安心スコアを見ても、西武線は駅によって若干異なりますが、おおむね地盤の数値はいい結果が出ているので、西武線沿線(飯能~新宿)で地盤が良い地域を探し、地元の不動産業者に協力を求めて、一緒にマーケットに出しませんかと呼びかけているとことです。今後、地元不動産や工務店との協業領域を広げていくつもりです。
――ちなみに、良い地盤はどうすればわかるのでしょうか。
新美社長 当社の「地盤安心マップ®PRO」では、被害予測や予防につながるさまざまな災害リスク情報を掲載しています。かつて、海、川や沼などの地域は、明らかに地盤の安全性は低いです。関東地方は縄文時代において海だった地域が多く、そのような場所は、海側だけではなく、内陸にも入り組んでいることが「地盤安心マップ®PRO」のレッドゾーンからわかると思います。このような赤いエリアの土地は、地盤の数値も決して良好とは言えません。
今までは不動産業界が売りたい地域を売る傾向にあり、安全性がおざなりにされた側面もありました。まずはその地域の歴史を知り、ご自身の大切な財産である土地を調査することは家を買うとき、家を建てるときには、非常に大切なことです。
地盤の強い住宅を建築・販売する理念を工務店と共有
――今後、住宅事業を展開するにあたって、工務店との関係はどうお考えですか。
新美社長 理念が重なる工務店様とは協調したいと考えています。当社は別の地盤会社が地盤調査をした土地を再判定するというセカンドオピニオンのパイオニア企業の役割も担ってきました。お互いが対等な関係性を築き、地盤の強い、良い住宅を建築し、販売するという理念を共有できる工務店様と、まずは良好な関係を築いていければと考えています。
飯能市の現場では、当社の理念に賛同いただいた地元の吉澤建設工業様に施工をお願いしました。細部にわたり、緻密な仕事をしていただいています。また、腕のいい大工さんや職人さんを担当につけていただいたことは嬉しく思います。
工務店様とは、数ではなく質を重視した関係を築いていくのが今後の方向性です。これから工務店と地盤の情報を共有化するプラットフォームをつくっていきたいですね。住宅市場を大きく取っていこうというのではなく、安全で安心な地盤に強い関心を持つ顧客にしっかりとアプローチしていくことが重要です。
――住宅建築のBIM活用にも注力されていますね。
新美社長 当社がBIMを導入した背景には、当社のお客様の不利益解消という経営理念に基づきます。一般の方は図面を見てもお住まいになる家のイメージはわきません。そのために、完成時と図面にはギャップが生じます。BIMで三次元空間でのモデリングを行い、そこからCGパースをつくれば、このギャップを解消することが出来ます。
また、大工さんもおさまりの部分について図面だけではわかりにくい部分もありますが、BIMモデリングはその理解を早めます。見た目だけではなく、施工の性能向上という視点でも効果が高いです。
ベトナムの第三の都市・ダナンでモデリングからパース・動画を制作しておりますが、ベトナム人は三次元空間の扱いが得意で高いスキルを保有しています。スタッフは、現地の工科大学を卒業し、大学ではBIMを専門的に学んでいるため、熟練度も高いです。
――地盤に関して様々なサービスを展開されていますが、新たな動きは。
新美社長 新サービスとして、個人向け地盤補償「The Future 10」(ザ・フューチャーテン)をリリースしました。個人のお客様から、直接相談をいただく件数も年間200件を超えるようになった中で、土地購入時には想定していなかった地盤改良工事が本当に必要なのか相談に来られる方が多いのですが、そのタイミングではもう遅いこともあります。転ばぬ先の杖ではありませんが、住宅や土地を購入する前にまずは、このサービスを使っていただければ嬉しいですね。
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正直、ヘクタール単位での参考にしかならないでしょうね。