TOTO株式会社は、非住宅の商業・オフィスなどのパブリックトイレ向けの商品を強化する。TOTOのアンケートによると、パブリックトイレではコロナ前は「しっかりと手を洗っていた」が55%だったが、コロナ後の現在は「しっかりと手を洗う」が81%と意識が大きく変わった。公衆トイレでは「自動水栓を使いたい」と回答した人が91%にものぼり、より清潔で快適な手洗いの提案が必要となっている。
そこで今回、新商品としてハンドドライヤー「クリーンドライ」に吸引・高速両面タイプなどを投入。今後各社とも戸建て住宅工事が減少していく中、オフィスや商業施設などの分野への展開は大きなカギといえる。
商品営業推進部部長の千葉寛哉氏は、「パブリックの分野はこれから可能性があり、リモデルも増えている。社会環境の変化に応じて、ニーズをとらえながら、商品開発を進めていきたい。パブリックも規模が大きければゼネコンに対して商品を拡販し、町場の規模の小さいところの施設改修では、地域工務店へ訴求していく」と語り、今後、パブリック分野への意欲をのぞかせている。
病院、福祉、商業やオフィス施設に対する配慮が重要
そもそも「パブリックトイレ」とは、住宅以外のあらゆるトイレの総称であり、病院・福祉、商業、オフィスなどの非住宅分野のトイレ全般を指す。住宅トイレであれば、利用者・管理者・施主がほぼ同じとなるが、パブリックトイレはそれぞれに配慮が必要になる。
たとえば利用者であれば、不特定多数の人が使い、器具の利用頻度が多い。管理者は、清掃頻度が高く、ペーパー、水石けんなどの定期補充が必要となる。施主は、建物全般を考えると、トイレ以外にもイニシャルコストがかかるため、売り場や執務室など主スペースに面積をとりたいとの思惑がある。また、設計者・施工者としては、ニーズやトレンドにあった設計や短工期で新築や改修したいとの希望がある。
このパブリックトイレの歴史だが、TOTOが「霞が関ビルディング」の施工の際、壁付サニタリーユニットという最先端の技術を導入。衛生器具や仕上げ材とともに配管も壁に組み込んだユニット式で、施工性が高く、工期短縮に効果があった。のちに新橋駅チップ制トイレや松坂屋銀座店などでの実績を積み、1980年代からは清潔で機能的なパブリックトイレ空間の普及に向け、「トイレ空間の提案活動」への積極的な取組みを開始した。
パブリックトイレのニーズに合わせた空間提案型商品としては2005年に「ニューラバトリースペース」を発売、「女性の化粧直し」に着目し、コンパクトな洗面器、小物置きを配置し、限られたスペースを最大限に活用できる洗面商品を提案している。
2008年には、建築専門家とTOTOで、4年の歳月を経て、「RESTROOM ITEM 01(ゼロワン)」を開発。空間の統一感を意識し、すべての人にとって使いやすいユニバーサルデザインが評価され、2009年にグッドデザイン賞の金賞を受賞している。
2018年に入ると、TOTOがこれまで培ってきた利用者や設計者視点をさらに進化させ、パブリックトイレの空間提案でしっかりと実現できる「PUBLIC RESTROOM ITEMS」で7つのコンセプトを打ち出した。
- 空間を選ばない、豊富なバリエーション。
- 器具のモジュールを統一する。
- トイレをもっと、心地のよい場所へ。
- きれいのために、トイレにできることすべて。
- 使う人の声に耳を傾けること。
- 先進のテクノロジーで、省資源化に取り組む
- あたりまえに使えることを、あたりまえに。
この7つのコンセプトをもとに、同じ空間に設置する他の器具とデザイントーンを統一しているため、空間に美しい調和を生み出している。
公衆トイレではタッチレスの希望者が増加
このコンセプトをもとに、直近の取組みでは2021年に、利用者の「空いているトイレを使いたい」、設備管理者の「トイレの維持管理を効率的に行いたい」といった社会環境の変化とともに生まれた新たな要望に対して、IoTを活用した新たな提案として「パブリックレストルーム設備管理サポートシステム」を発売した。
また、TOTOの「日本の人々の公衆トイレでの手洗い等の調査」(2020年5月実施)のアンケートでは、「非接触(タッチレス)」に対する意識が変わり、「公衆トイレで自動水栓を使いたい」と希望する人が91%にものぼり、TOTOの自動水栓「アクアオート」の販売台数の推移ではコロナ前とコロナ後ピーク時を比較すると実績は約2倍となった。そこでTOTOでは、こうしたニーズの増加に対し、より清潔で快適な手洗いの提案が必要と考えた。
厚生労働省でも「石けんで手の汚れを落とし、しっかりすすぎ、乾燥まで」を推奨しており、TOTOは「手洗い」から「乾燥」までをタッチレスで実現するため、今回各新商品を投入した。今回の新商品は、ハンドドライヤー「クリーンドライ(吸引・高速両面タイプ)」(2023年1月発売)、「ハイバックカウンター」(奥行400mm)(2022年8月発売)、自動水栓「アクアオート」品揃え追加(2022年8月発売)の3商品となる。
ハンドドライヤー利用停止が解除の動き
「クリーンドライ」投入の背景については、商品営業推進部主幹の大塚孝一郎氏が語った。
2020年5月の政府発表を受け、各業界団体のガイドラインにハンドドライヤーの利用中止を記載してきたが、2022年10月に内閣官房より、新型コロナウイルスに関する各業種別のガイドラインを見直すため指針が発表され、その中に「ハンドドライヤーは使用できる」と記載された為、各業界団体で順次、利用停止が解除していることも追い風になっている。TOTOの「外出先におけるトイレ利用及び手指乾燥行為の実態調査」(2022年2月)によると、外出先トイレでハンドドライヤーを利用しない理由(複数回答)についてはコロナ前が「自分のハンカチやタオルなどのほうがよいから」が37%と最も多かったが、コロナ流行後は、「ウィルスがまき散らされるときいたから」が48%と最も多く、ウィルスの飛散に対する不安が一気に高まったことが明らかになった。また、ハンドドライヤーを利用停止していた際、トイレ内の状況で不快に思ったものについては、「ペーパータオルのちらかり」「床・ドア取っ手の水濡れ」「手をきちんと乾かさない人がいる」などが多かった。
また、ハンドドライヤーの稼働停止後に、代替となるペーパータオルのゴミ処理や消費量の増加、手洗カウンター周辺や床の清掃頻度の増加といった課題が顕在化した。そこで今回、新たに吸引式とHEPAフィルターを搭載したハンドドライヤーを投入することでこれらの課題を解決することとなった。
また、機器水栓開発八グループの入江恭亮氏が新商品の「クリーンドライ」の進化した点について説明した。
「クリーンドライ」は、乾燥室内の吸気口から乾燥風と周囲の空気を吸引することで、風の吹き返し・水滴飛散を抑制し、HEPAフィルターで浄化した高速風で水滴を吹き飛ばすことで、より清潔な風で素早く乾燥することが特徴だ。吸引した風をHEPAフィルターで浄化し、より清潔な乾燥風として提供するクリーンな循環システムとなっている。
風・水滴を吸引する「クリーンドライ」を投入
また、「クリーンドライ」は不特定多数が使用するパブリック空間に設置される商品。従来から、子どもから高齢者まで多様な人々が使いやすいアプローチやデザイン面での配慮に加え、使用感などにも配慮した設計をしており、設備管理がしやすい清掃性配慮の機能を充実してきた。
希望小売価格は24万9,700円で従来品と比較とすると2~3割ほど高めになるが、TOTOによると、クリニックや病院関係などは衛生面で配慮するため、拡販を期待する。新商品や従来品の「クリーンドライ」シリーズ合計で2024年度には年間約4万台の販売を目指している。
このほか8月に発売された「ハイバックカウンター」は、「奥行きコンパクト設計」「スムーズな動線配慮」「キャビネットに器具をコンパクトに収納」という3つのポイントがある。同じく8月には自動水栓「アクアオート」の品ぞろえを強化したが、「発電タイプの組合わせ拡大や取換えによるタッチレス化の促進」などをポイントに置いた。コロナ後、特にリモデル用途で発電タイプの出荷が大幅に増加、コロナ前とコロナ後ピーク時を比較すると、リモデル用では約2.5倍に拡大している。
近年、トイレなどの関連商品も含め、改めてパブリック空間への拡販が注目をされている。大規模な施設や再開発であれば拡販先はデベロッパーや大手ゼネコンであり、一方、小規模な施設であれば、町場の工務店とアライアンスを組むケースが考えられる。近年、地域工務店が非住宅建築にもフォーカスを充て、ビジネスの対象を拡大していることを考えれば、TOTOの今回の非住宅分野への取組みはさらなる拡大も期待される。