株式会社長谷工コーポレーションは、創業70年を超える戸建住宅の老舗・株式会社細田工務店を、2020年にM&Aにより完全子会社化するとともに、新たに株式会社長谷工ホームを昨年5月に設立、一体的に連携しながら戸建事業の強化を目指している。
両社の代表取締役には2022年4月に野村孝一郎氏が就任。RC造と木造のコラボレーションの実現と、戸建住宅事業の全国展開を図る方針だ。細田工務店はこれまで、東京・杉並区や世田谷区を始めとした東京西部や横浜エリア、加えて仙台市青葉区の東北支店で分譲戸建・注文住宅事業を展開してきた。最近でも宮城県・名取市で85区画・約2.5haを戸建分譲用地として購入し事業展開している。また、長谷工ホームも長谷工グループの支店や営業拠点のある地域で事業を本格的に始動させた。
今回、細田工務店・長谷工ホームの代表取締役社長の野村孝一郎氏が今後の両社における戦略を余すことなく語った。
歴史ある細田工務店をなぜM&A?
――細田工務店をM&Aをした経緯を教えてください。
野村孝一郎氏(以下、野村社長) 長谷工グループでは、かねてより「集合住宅における木造活用の推進」を行っておりました。2021年12月には「長谷工グループ気候変動対応方針」を策定し、その中で”脱炭素”に向けた目標を設定し、気候変動に対する取組みを進めています。木造住宅については、戸建分譲事業をグループ会社の総合地所が行っていますが、同社はデベロッパーであり、設計・施工部隊は持っていません。
一方、細田工務店は木造住宅の設計・施工の機能があり、かつ首都圏・東北ではデベロッパーとしても活動していたこともあり、長谷工グループとしては長谷工コーポレーションの豊富な用地情報を活用するとともに戸建分譲事業のさらなる推進と木造建築の知見を活かし、RCと木造のコラボレーションが実現できるとの考えから細田工務店のグループ化を決めました。長谷工コーポレーションでは現在、15の木造に関する委員会、ワーキンググループを立ち上げ、積極的に活動しております。
――どのような委員会、WGがあるのでしょうか。
野村社長 木造推進委員会のほか、「木造設計」「木造環境」「木造外装」「木造建設」「ハイブリッド木造推進」「木造遮音」「木造内装」などをテーマにワーキングを設置しています。
――野村社長は、細田工務店の社長に就任されていかがですか?
野村社長 偶然ですが、私自身、阿佐ヶ谷出身ということもあり、阿佐ヶ谷に本社があり、昔からよく知っていた細田工務店に着任したことには縁を感じていますし、特別な思いもあります。細田工務店は長谷工コーポレーションにグループ入りをして2年が経過しましたが、テレビCMをはじめ長谷工グループの協力も功を奏し、グループ入り後は順調に業績を伸ばしています。
今後については、安定的に収益を上げ成長させることが大切だと考えています。現在は、戸建分譲事業が業績をけん引していますが、戸建分譲は景気に左右され潮目が変わると事業環境が急激に変わります。そのためにも、注文住宅事業や法人受注事業などでしっかりと利益が出せるような体制を構築し、収益の基礎を育てていきたいと思います。
2022年12月時点で14万回再生されている細田工務店のウェブCM(「02 Hosoda TVCM 30s」 / YouTube(細田工務店))
また、細田工務店は杉並区阿佐ヶ谷で70年以上の業歴があり、コロナで中断していましたが、今年は地域のイベントである「ジャズストリート」に協賛するなど地域と密接な関係を築いてきました。こうした活動を引き続き実施しながら、地域への良質な住宅の供給や地域住民の住宅に関する困りごとを解決し、地域貢献を目指していきます。
新規に「長谷工ホーム」を立ち上げ全国展開へ
――細田工務店のM&Aにとどまらず、長谷工ホームを設立された意味は。
野村社長 長谷工グループでは、全国で分譲マンションの設計・建設・販売・管理、賃貸マンションの設計・建設・管理、ホテル建設・運営、物流施設の建設などを手掛けていますが、今回、細田工務店をM&Aしたことにより、戸建分譲の知見を得ることができました。長谷工ホームは長谷工グループ各社の用地情報を活かし、戸建分譲事業の全国展開を目的として設立し、長谷工グループとして総合不動産企業を目指しています。
――長谷工ホームと細田工務店はどのように棲み分けているのでしょうか。
野村社長 事業エリアについては、長谷工ホームは長谷工グループ各社支店や営業拠点があるエリアで、細田工務店は、東京、神奈川(横浜、川崎)や宮城(仙台)を担当しています。重複する事業エリアについては明確な線引きは行っていませんが、今後、両社の棲み分けを考える予定です。なお、施工エリアについては、関東、東北は細田工務店が、その他エリアは他社へ発注します。
今後の方針としては、長谷工ホームは首都圏の東京近郊も対象とし、特に埼玉、千葉で事業化を検討します。商品戦略は細田工務店の知見を活用し、「安全・安心・快適」をベースとして組み立て、各エリアの特色を反映しつつも、基本性能を維持します。細田工務店については、今後も東京近郊を深堀することで、得意エリアを拡大する方針です。東北では、宮城県名取市から85区画・約2.5haを戸建分譲用地として購入しました。仙台市や近郊を足場にし、新潟県や岩手県などの近県へのエリア拡大を目指しています。
ZEH採用など省エネ化に注力
――今後の住宅部門の戦略については。
野村社長 戸建分譲住宅では、コロナ禍でおうち時間が増えるなどのライフスタイルの変化により、住まいに対する関心が高まりました。住宅ローンの低金利と政府の各種住宅取得支援策の継続が追い風になった一方、事業用地の高騰は継続中で、用地仕入れ競争は過熱が続き、建築に関しても、人手不足や物流の停滞などによる世界的な供給制約やウッドショックなどにより原価は上昇しています。結果、平均販売価格は上昇していますが、1億円を超える物件も販売は好調です。用地取得価格と建築費の上昇は課題ですが、細田工務店・長谷工ホームともに、昨今お客様の高まりつつある地球環境に対する意識にも対応していきます。
――商品の供給なども変化しますね。
野村社長 現在、検討していることは省エネを全面的に打ち出すことです。具体的には、長期優良住宅や断熱等級6の標準採用、ZEH採用による一次消費エネルギー量実質ゼロの住宅などです。これはお客様のマインドが脱炭素、カーボンニュートラル社会の実現に向けて大きく変わっていることや、「住宅ローン減税」について最大限のメリットを享受できる点も大きいです。
そのほか、巨大地震への備えとして、地震の揺れを吸収する鋼製ダンパー制振壁、地震を感知し電気を止める感震ブレーカーや3日分の生活用水を確保できる設備の搭載(マルチアクア)、雨水利用タンクの設置も考えています。
「あざみ野」ではスマート住宅を供給
――宮城県名取市で用地取得された戸建分譲事業では、どのような特徴的なことを検討されているのでしょうか。
野村社長 開発に当たっては、医療モールを備え、街の中心には多目的広場を設け、災害時に有効な「非常用飲料水生成システム」「非常用マンホールトイレ」、炊き出しができる「かまどスツール」の設置など、災害対策を考えた街づくりをしていきます。
――スマート住宅にも注力されるとのことですが。
野村社長 今販売中の「グローイングスクエアあざみ野プルミエール」ではスマートスピーカーを活用したシステムを導入し、IoTにも対応しています。家電、設備機器の音声操作、外出先での、鍵の施錠や照明、電動シャッターの操作など、お客様にとって従来よりも増して安全、安心、快適を実現していきます。
――こうしてみると、顧客も住宅に対する要望が変わっていることがわかります。
野村社長 さまざまな付加価値の追加は、販売価格の上昇要因になるため、価格と商品内容のバランスが重要です。設備に加え、外観、内装、間取りでの差別化を図ることで、お客様のニーズに応えていくことが戦略のメインになります。
一方、顧客もコロナ禍によるライフスタイルの変化により、立地に関しても、都心や最寄り駅からの距離に対する意識も変わりつつあります。住環境が良好であれば必ずしも至近の物件にはこだわらない感がある一方、建物については、プラス1ルームの広さが求められる傾向があり、今後は周辺環境をより重視し、広さの確保できる商品づくりを推進していきます。
――注文住宅についてはいかがですか?
野村社長 細田工務店の主軸エリアである杉並周辺及び都下では、賃貸併用などの資産活用型の受注が増加したことや、先ほど申し上げたようにコロナ禍による生活様式の変化で、テレワーク用のプラス1スペースなどの要望が多くなり、建物面積も広くなる傾向にあります。
戸建分譲住宅でも、「LATO(ラト)」という名称で採用している可変多目的スペースがありますが、メディアに取り上げられるなど、反響は大きいですね。
――注文住宅の集客面ではどのような方針がありますか?
野村社長 注文住宅は、まず住宅展示場などに出展し、モデルハウスを見て感じていただく必要があると考えています。今後の受注増大のために、住宅展示場への出展数は大きな武器と考えます。
そこで、今回多摩エリアの拠点として、東京都小金井市の東八道路沿いにある「小金井・府中ハウジングステージ」に出展を決めました。2023年1月にモデルハウスオープンを目標に、現在施工中です。さらに、2021年12月に細田工務店の建物の外観を「レガート」「アルディート」「マルカート」の3パターンに一新し、系統化を進めています。これを皮切りに、セミオーダーシステムの構築も進めることで、よりお客様のニーズに寄り添った商品を提供していきます。
近接エリアで職人を効率よくローテンション
――大工不足などへの対応、工務店DXなど生産性向上については何かお考えですか?
野村社長 長谷工グループ入りしたことで、長谷工コーポレーションの協力会社への発注が可能になり、労務の確保がしやすく、ボード、床、収納ユニット、雑金物など工事内容を分業化して発注することで効率をアップしています。作業時間の短縮により、近接エリアで職方を効率よくローテーションするように管理できており、工程ごとに職方を確保し、一定範囲までの工事を受け持ってもらえる工務店と協力関係を築いています。具体的には、基礎~上棟~雨仕舞などワンストップで施工ができる地場の工務店を現場で採用することで現場管理や労務管理を効率的に進めています。
次に生産性の向上ですが、施工現場の一元管理するツールを導入し、工程管理と細田カスタマーサポートで行っている監理業務に活用、現場間での監督と職方や現場と本社との進捗共有などがスムーズに行われ、設計変更・納期変更・工程管理などが、アプリ上で可能になりました。
現在、電子発注に取り組んでおり、活用を請求関係まで広げて工事管理やスタッフの負担省力化を進め、同時に効率向上へつなげるほか、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション、業務の自動化ツール)・OCR(印刷された文字の読み取り装置)・音声認識(音声テキスト化)・オンライン会議の活用で業務の効率化や竣工検査時の省力化に取り組んでいます。そのほか、マンション施工のノウハウで、木造の施工に取り入れられるものは積極的に採用し、さらなるDXを推進していくつもりです。
社員の処遇向上を目指し施策を継続実施
――働き方改革については。
野村社長 グループ入りしてから、会社の業績が飛躍的にアップしています。この状況を恒常的に継続できる体制づくりと社員の働く環境と処遇の改善を同時に進めていくことが大きな使命だと考えています。働き方改革についても、長時間労働の抑制のため、ノー残業デーの設定やパソコンの利用制限など、一般的なことはすでに実施済です。今後はDXを踏まえつつ、在宅勤務の採用や業務の効率化を進めることで、長時間労働を減らすよう取り組んでいきます。グループ入りの前後を比較すると、生産性は向上してきていますね。
現場レベルではこういった取り組みが功を奏していますが、一方では社員が永く安心して生き生きと働き続けられる環境の整備にも取り組んでおり、今期から社員の定年年齢を60歳から65歳へと引き上げました。60歳定年で再雇用ではなく、定年年齢を引き上げて65歳から再雇用するほうが、社員の安心感とモチベーションが高まり、エンゲージメントの醸成につながっていきます。また、産休・育休は法律で定められていますが、取得しやすい環境を作れるかどうかがカギとなります。細田工務店では、育休取得者や育児での時短勤務の取得者は現時点で5名おり、比較的取得しやすい環境です。最近では男性社員が1か月間育休を取得しており、今後は男性社員の取得も当たり前になってくるでしょう。また、産前・産後休暇取得後の職場復帰も順調です。将来的には、乳幼児がいる女性社員だけのフロアーを設け、その中でお互いに助け合いながら仕事を行う、こうしたこともできたらいいですね。
また、社員の退職理由として多いのが、親の介護です。誰でも避けて通れないことかと思いますが、一つは介護をしなければならない社員への支援策、また介護理由でやむなく退職した社員の復職制度を検討しています。
長谷工コーポレーションの建設現場では、すでに4週8休が実現しつつあるため、DXの活用など長谷工コーポレーションからのノウハウの取得などを通じて協力業者の手当増加や工期延長に伴うコスト増、発注者の理解などの課題解決をし、労働環境の改善につとめたいと考えています。
マンション共用棟を木造化など非住宅にもシフト
――最近、工務店は住宅プラス非住宅へのシフトの動きもありますが。
野村社長 戸建分譲住宅の受注は競合他社が多く、かつ市場が縮小すると薄利受注に陥りやすい業界のため、利益を稼ぎづらい傾向にあります。また、昨今の人手不足や物流の停滞などによる世界的な供給制約やウッドショックによる原価の高騰に対しても、請負金額に転嫁しづらいという非常に厳しい状況にあります。
そこで細田工務店では、脱炭素の流れの中で長谷工コーポレーションが施工するマンションの共用棟やマンション最上階の専有部を木造で施工するなど、戸建分譲住宅の受注だけでなく非戸建への受注に徐々に舵を切っています。これまでも案件は常に10物件ほどあり、今後は新たな施主の開拓を行い、長谷工コーポレーション施工以外のマンションの共用棟も受注できるよう営業活動を推進していきます。また、これまで培った木造建築の技術をいかし、保育園、賃貸、事務所、ショールームなど非戸建の木造施工の受注も視野に入れ、受注拡大を目指しています。
100棟エリアを10拠点開発へ
――長谷工ホームの今後の方向性については。
野村社長 事業エリアを長谷工グループ各社の支店、営業拠点があるエリアとしており、全国で事業用地の取得を進めていきます。特に政令指定都市などをメインに、地方での有力なデベロッパーとのJVも視野に入れ、用地の取得、設計・施工・販売のネットワークの構築に取り組み、年間100棟程度の供給ができるエリアを10拠点程度開拓していく考えです。
商品については、細田工務店の分譲商品を踏襲する一方、長谷工コーポレーションのマンションで培ったノウハウを取り入れつつ、長谷工ホームのブランドである「ブランシエラガーデン」としての特徴を出し、ブランディングを進めていきます。
RC造や木造のハイブリッド建築を強化へ
――今後強化したい分野は。
野村社長 昨今の脱炭素やSDGsの流れもあるので、細田工務店が今まで培ってきた技術を活用し、グループ各社と協業しながらRCと木造のハイブリッド建築や従来RC、SRC、S造で建築されている建物の木造化などに積極的に取り組んでいきます。
注文建築については、「小金井・府中ハウジングステージ」へ出展し、本格的に受注拡大を目指すステージにきています。小金井を含めて3モデルハウスが揃いましたが、今後は展示場のブラッシュアップを行うことで、展示場効果によるフルオーダー案件の獲得を狙っていきます。
また、空き家の建て替えも含め潜在的な需要はあり、それにどう応えていくかが重要だと考えています。杉並区と連携した「空き家対策協議会」が発足し、8月には「杉並区空き家利活用相談窓口(モデル事業)」も細田工務店内に開設されました。活動の活発化に合わせて空き家対策を通じた地域貢献と将来の事業用地確保を兼ねたリースバック、木造賃貸物件の保有など、資産価値の高い地元ならではの取組みも推進していくつもりです。
細田工務店には、認定低炭素住宅・長期優良住宅・ZEH・環境共生住宅など、あらゆる住宅に対応できる技術を保有しているので、環境、防災を踏まえたうえで、お客様のニーズに合った商品を取り揃え、これからもお客様の期待に応えてまいります。
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