東亜建設工業株式会社(東京都・新宿区、早川毅社長)は、稼働中の冷蔵倉庫内をマイナス温度に保ったまま、常温での施工と同等の耐震性能を確保できる耐震補強工法「THJ®耐震補強工法」について、建築技術性能証明をビューローベリタスジャパンから取得した。
冷蔵倉庫内をマイナス25度以上の冷凍温度帯に保持した稼働状態でも、常温環境下と同等の耐震性能を有する耐震改修を実現できることが特徴だ。対象の建屋は、RC造やSRC造の冷蔵倉庫やF1級(マイナス30度~マイナス20度)の冷蔵倉庫の中で最も需要が高い「マイナス25度以上の冷凍温度帯」で適用できる。
冷蔵倉庫を稼働しながら耐震補強工法が実現
同工法は、RC造やSRC造の部位には柱梁構面内に鉄骨枠付きブレースを増設、S造の部位には既存鉄骨ブレースを交換・増設する。
一般に鉄骨枠付きブレースを増設する場合、鉄骨枠付きブレースはグラウトを介して既存躯体に間接接合する。しかし、マイナス25度冷凍で稼働中の冷蔵倉庫内では、打ち込まれたグラウトは瞬時に凍結するため、施工ができない課題があった。また、マイナス25度冷凍の環境では、間接接合部の構成部材として既存躯体に埋め込まれる接着系あと施工アンカーも一般の製品では硬化反応が不十分となり、接着強度を発揮できなかった。
そこで、同工法では間接接合部の型枠に面状発熱体や断熱材を設置し、鉄骨枠のウェブにも断熱材を設置した上で暖を採りながらグラウトを打込むことで、常温環境下でのグラウト打込みと同等の品質確保が可能になった。さらに、同工法では接着系あと施工アンカーにマイナス25度冷凍環境でも十分な接着強度を保つことが可能な製品を採用した。
また、S造の部位は、既存鉄骨ブレースを交換・増設する際、ガセットプレートを取り付けるための溶接工事が発生するが、マイナス25度の冷凍環境では溶接機器が凍結するため施工ができなかったものの、同社独自の方法により、溶接機器を保温することで、稼働中の冷蔵倉庫内でも溶接工事の施工を可能にした。開発に際しては、実際にマイナス25度冷凍で稼働中の既存冷蔵倉庫内にスペースを借り、実大施工実験を実施して同工法の性能を実証した。
冷蔵倉庫を稼働しながら耐震補強「THJ®耐震補強工法」 / YouTube(東亜建設工業株式会社)
進展する冷蔵倉庫の耐震改修
開発の背景では、旧耐震基準に基づいて建築したF級(フリーザー級)冷蔵倉庫は、現在も多くが稼働しているが、その多くは耐震改修促進法での耐震性能の判断基準となる構造耐震指標を下回っているため、地震による倒壊や崩壊のおそれがあり、耐震改修の早急な実施が望まれている。
しかし、冷蔵倉庫を建て替えるには、倉庫内の荷物を他の倉庫へ一時的に移動する必要があり、仮保管できる倉庫も限られるため、事業に多大な影響を及ぼす。また、冷蔵倉庫の耐震改修工事を実施する場合、冷凍機を一旦停止し、倉庫内を常温に戻してから施工する必要があるため、建て替えの場合と同様に一時的に荷物を移動する必要がある。これらの対応は事業上、非常に困難であるため、耐震改修が進まない実情がある。
そこで同社は、稼働中の冷蔵倉庫内で常温環境下での施工と同等の耐震性能を確保できる「THJ®耐震補強工法」を開発、今回の建築技術性能証明の取得に至り、今後、本格的に普及へ本腰を入れる方針だ。
冷蔵倉庫の分野強化で相談室ページを設置
今回の建築技術性能証明の取得により、同工法の耐震性能に対する信頼性がさらに高まるとともに、今後、同工法を採用する施主にとって耐震改修工事に関する自治体などから補助金を得られやすくなるメリットがある。また、旧耐震基準の冷蔵倉庫の建物寿命を延命できることになるため、同社は「冷蔵倉庫の相談室」を窓口として、同工法の普及・促進を図る。スクラップアンドビルドによる環境負荷の低減により、SDGs(持続可能な開発目標)の実現に貢献する。
「冷蔵倉庫の相談室」は、2021年2月に、冷蔵倉庫新築・改修での結露・結氷や防熱不良を防止する計画段階の相談や、 既存冷蔵倉庫における不具合を改善する技術的な相談を幅広く受けるため新設した。