前回、KDDIスマートドローン代表取締役社長の博野雅文氏のインタビューでは、創業当時の想い、川上ダム建設工事における大林組(東京都・港区、蓮輪賢治社長)との連携事例やドローンを活用した橋梁点検サービスの提供事業について話をうかがった。
後編では、飛島建設(東京都・港区、乘京正弘社長)との連携事例や全国初の荒川下流における「河川上空ルール」への参画の動向、さらには教育事業であるドローンアカデミーの話をうかがう。KDDIスマートドローンの今後の戦略について博野社長は、「ドローン産業を創設し、業界をリードしたい」と語った。
飛島建設との共同検証は、レベル3飛行による実証試験

飛島建設が施工する「令和2年度北勢BP坂部トンネル工事」でドローン活用
――改めてうかがいますが、博野社長がドローンに着目した点はどこにありますか。
博野社長 やはり、通信との親和性が高い点が大きいですね。これから遠隔操作による目視外でのドローン飛行が当たり前の時代が到来しますが、機体や運航状況の把握であったり、遠隔制御を実施するためには、高速通信が必要となります。だからこそ、モバイル通信事業者の役割は非常に大きくなると考えています。
また、建設業界では点検や測量などでドローンの活用が進んではいるものの、今はまだ黎明期と言える段階です。KDDIスマートドローンとしては、建設業界にドローン産業を創出し、それをリードしていく存在でありたいと考えています。
――国土交通省も2016年に「i-Construction」を提言し、建設現場へのドローン導入が進んでいますが、現在に至るまでの技術の進歩の速さには驚いています。
博野社長 レーザー測量の精度や写真の解像度、機体の安定度も向上し続けていますが、ここにモバイル通信技術を活用することで、点検や測量業務での適用範囲が広がり、さらなる業務効率化に結び付けることができると考えています。
――飛島建設との検証内容はどのようなものでしょうか。
博野社長 「令和2年度北勢BP坂部トンネル工事」で実証を行いました。坂部トンネルは標高70~80mの丘陵地を貫きますが、上部はほぼ全線にわたり営業中のゴルフ場です。中でも、実証を行った第Ⅲ期工事ではトンネル上部の土被りが最小約3mになる区間があり、ゴルフ場の地表面に近い場所で掘削作業が行われるため、これらの地表面を重点的に監視・点検することが求められました。

令和2年度北勢BP坂部トンネル工事の現場
同現場では、大林組との実証実験でも使用した自動充電ポート付きドローン「G6.0 & NEST」を活用し、さらにモバイル通信を用いた運航管理システムで制御することにより、遠隔地からドローンポートの開閉、ドローンの離発着、自律飛行を可能としました。ドローンポートをヤードに搬入し、無人地帯での補助者なし目視外飛行にあたるレベル3飛行の承認を受けた上で、2022年7月に全自動による飛行をし、本格的な実証試験をスタートしました。

ドローンポート・モバイル通信を活用して、遠隔拠点(現場事務所)からレベル3飛行を制御している様子(飛島建設の現場の導入事例)
同現場では、工事による影響で変状が起きる可能性のある幅30m×長さ100mほどの場所を計測対象エリアとし、そのすべてが含まれるように最適な飛行高度・ルートを設定、モバイル通信を使い、遠隔で自動飛行を行いました。計測対象エリアに到着すると、機体のカメラ角度を変えて自動で百数十枚もの写真を撮影していきます。着陸後には自動で写真をアップロードし、その画像を解析して3Dモデリング化し、地表面に異常がないかの確認が取れました。これら一連の作業により、常に異常の有無を監視する業務をドローンで自動化できました。
これまでは地表面に近い場所での掘削については、陥没などの異常を発見するためにセンサーを設置して計測していましたが、現場の状況を詳細に確認するためには技術者の目で確認することが重要です。今回のように定期的・突発的に全自動ドローンによる解析やその映像を利用する評価を実施すれば、安全性の確保と省力化に効果を発揮できることになります。
――飛島建設の現場での実証で得られた成果と課題を教えてください。
博野社長 地表面での計測については、広域な地表面の変状をmm単位で計測できることが確認できました。課題としてはドローンで取得したデータと、これまで飛島建設側で取得されてきたデータをいかに融合させていくかだと考えています。別々のクラウドやデータベースで管理すると、すべてを統合した進捗管理やプロセスの整備ができません。ゼネコンが所有しているシステムとの連携を進めていくことが今後の方向性です。
荒川河川事務所の「河川上空利用ルール」策定にも参画
――そのほかにも、国土交通省関東地方整備局荒川下流河川事務所は、全国初の「河川上空利用ルール」策定に向け動き出していますが、ドローンの実飛行による実証実験に御社も参加されていますね。
博野社長 国交省としても河川監視のデータプラットフォームを整備する意欲が高い中で、そこで事業者も含めて、実用的な観点から使いやすいガイドラインを作成していくことがポイントです。
現在のドローンではできる点をご理解いただき、ガイドライン整備を国交省と他の事業者と共同で進めている段階です。今、いろんな領域でドローンの活用ガイドライン化が進められております。たとえば国交省は2022年1月、建築基準法令改正でドローンによる外壁調査を明文化し、また経済産業省は、消防庁、厚生労働省と連携し、プラント保安分野におけるドローンの安全な活用の促進に向け、ガイドラインを改訂しました。さらに国交省は2023年3月に、「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドラインVer.4.0」を公表し、ドローン物流の社会実装を推進する方針を示しています。
いま、各領域でドローンの活用、ガイドラインの整備も進められており、今回の「河川利用ルール」も有力なガイドラインの一つと受け止めています。

荒川でドローンを飛ばし、対岸へ飲食物を運ぶ
KDDIスマートドローンアカデミーが開校
――ドローン教育事業も進展しているようですね。
博野社長 ドローンの操作自体は容易になり、「ドローンの民主化」も実現されつつあります。ですが操作を誤れば、当然ながら落下するわけです。より多くの方がドローンを安全に操作いただけるよう、2023年1月にドローンの操縦ライセンスやスキル習得を目的としたカリキュラムを提供する「KDDIスマートドローンアカデミー」をスタートしました。

Skydio 2+を操縦するインストラクター
栃木県・小山市と千葉県・君津市で直営のスクールを開校し、さらにカリキュラムを全国各地で受講いただけるよう、パートナーとなっていただいた提携スクールでもKDDIスマートドローンの認定コースを受講できる体制も構築をしておりまして、岩手金ケ崎校、会津校、埼玉三郷校、愛知豊田校、伊勢志摩校、滋賀草津校、佐世保校と徐々に拡大しています。

現在KDDIスマートドローンアカデミーの直営校と提携しているドローンスクール
スクールでは、2022年12月に国家資格として制度化された「一等無人航空機操縦士」「二等無人航空機操縦士」の資格取得コースをはじめ、今後普及が進むドローンのレベル3飛行(無人地帯での目視外飛行)やレベル4飛行(有人地帯での目視外飛行)に必要な運航管理システムを扱うためのコース、点検/物流/空撮などドローンのビジネス活用を学ぶ実践的なコースなどを用意しています。また、機体種別ごとの習熟も行っています。
将来は都市部の建築現場でもドローンが飛ぶ時代に
――いまお話いただいた内容にもありましたが、航空法の改正により、有人地帯での目視外飛行、ドローンのレベル4飛行が解禁になりました。都市部でのドローン活用では、どのような現場を想定されていますか?
博野社長 建築現場では、まだまだ人の目で進捗管理を把握するケースが多いですが、このあたりはドローンの活用により、自動化・無人化が進展すると期待しています。また点検領域についてもドローンによる自動化が進んでいますが、これはガイドラインの整備と一緒に展開していくことが重要です。関係省庁や建設業団体の仕様書に「目視での点検実施」と書かれているとドローンの導入は難しいですので、理解を得ていくことは必要です。これはKDDIスマートドローンだけではなく、建設業界の皆さまと取組んでいくことが重要になります。
いずれにしても、これまで人が行ってきた危険業務や、労力の掛かる作業についてはドローンで代替していくことが今後の流れです。将来的には、都市部でのドローン飛行、つまり有人地帯での目視外飛行(レベル4)も視野に入れています。レベル4飛行のためには、まず操縦者が国家資格を取得する必要があることと、機体もレベル4の認証を取得する必要があるため、現時点では川上ダム建設工事のような無人地域での工事進捗の監視が現実的な導入になっていますが、レベル4飛行の実現に向けて取り組みを進めていきます。
――最後に、今後の方向性について教えてください。
博野社長 前提として、いかに建設業界が所有しているデータベースにドローンの価値を付加していけるかが重要だと考えています。ドローン単体でできることには限界があります。建設プロセス全体のDX化を進めるためには、我々のシステムだけでは完結できませんので、KDDIスマートドローンのシステムをみなさまの基幹システムに組み入れていただき、常に業務の中で利活用できるような体制を各ゼネコンとともに作り上げていくことが、望ましいかたちだと考えています。
もちろん、大手ゼネコンだけでなく、地域ゼネコンの中にもドローンを活用したいけれど、最初の一手が分からない、というお悩みをお持ちの会社もあるかと思います。その際には、ぜひ当社にお声がけいただき、ともに建設業界のDXを進めていきたいですね。
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