工事単価が低すぎて、「これでは建設業は続かんな」
――経営的にはどうですか?
湯浅さん 私が入社した平成8年ごろはけっこう景気が良かったと思います。ただ、しばらくすると、どんどん悪くなっていきましたね。それから平成20年台半ばぐらいまでは、しばらくシンドい状況が続きました。仕事は少ないし、工事単価も低かったです。利益をなかなか残せず、良い仕事がとれたと思っても、頑張ってやっとトントンでした。社員の給料も下げざるを得なくなったときは、かなりツラい思い出です。業界全体でも「建設業は続かんな」という雰囲気が漂っていましたね。
――その後はどうですか?
湯浅さん 東北の震災以降ぐらいから公共工事の労務単価、経費などが改善され、状況はだんだん良くなってきました。ここ数年は工事を安定的に受注することもできているので、経営的には良い状態が続いています。
――高知県発注の仕事がメインですか?
湯浅さん その年によって変わります。林野庁、四国森林管理局発注の仕事が多いときもあれば、高知県発注の仕事が多いときもあります。今は高知県の仕事が比較的多いです。
――県の仕事は林業事務所関係、土木事務所関係だとどちらが多いのですか?
湯浅さん どちらかと言えば、林業関係の仕事が多いです。
――仕事はそれなりにあるわけですか?
湯浅さん そうですね。今のところは。
――災害復旧の仕事なんかもあったのですか。
湯浅さん もちろんあります。道路にしろ山にしろ、災害復旧、応急復旧の仕事はよくあります。今も道路の県道の災害復旧工事を1件施工しています。とくに道路の土砂崩れなどでの応急復旧の仕事は、われわれの見せ場と思って、張り切ってやらせてもらっています(笑)。幸い、ここ数年は大きな災害は起きていませんが、それでも通行止めになることはちょくちょくあります。
意外にも20才台の社員が6人もいる
――技術者、現場技能者の確保はどうなっていますか?
湯浅さん 社員は現在33名在籍してます。年齢別でいくと、60才台が4人、50才台が9人、40才台が7人、30才台が7人、20才台が6人になっています。
――意外と20才台が多いですね。
湯浅さん 今年4月に自分の息子も入りました。
――女性の技術者もいらっしゃるんですね。
湯浅さん ええ。5年前に事務員さんとして入社したのですが、「(技術者を)やってみんかえ」と言っていたら、「やってみる」ということになって、今はいわゆる技術屋さんの仕事をしてもらっています。
――地元の方が多いのですか。
湯浅さん 魚梁瀬が多いですが、馬路、中芸地区、安芸市などの周辺町村から通勤してくれている方もいます。
ウチなら、素人でも一人前の技術者になれる
――リクルーティングはどんな感じでやっているのですか?
湯浅さん とくにこれといってしてないですが、「地元に帰って働きたい」という地元出身者には、昔からよく声をかけています。仕事は入社してから覚えてもらえたら良いので、とにかく入社してもらって。今いる社員のほとんどは素人でスタートですが、数年後にはバリバリと仕事をこなすようになってくれています。
――技術者も入社してから育てていくものということですか?
湯浅さん そうです。
――会社の強みとしてはやはり技術力ですか?
湯浅さん そうですね。長年現場で培ってきた経験をもとにした技術力です。とくに先代社長は丁寧な仕事をすることにこだわってきましたが、それも一つの技術力で強みであると思ってます。
――人を育てるコツとかありますか?
湯浅さん コツかどうかはわかりませんが、あまり細かいことは言わない会社だと思います。もちろん安全に関することや必要な指示は出しますが、どちらかと言えば、「先輩の仕事を見ながら覚えてもらう」というスタイルで、先輩が手取り足取り教えるということが少ないほうではないでしょうか。「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かず」という言葉がありますが、ちょうどそんな感じです。それには先輩後輩の人間関係が重要になってくるので、コミュニケーションのとる機会など、そのあたりには注意しています。
――技術者と技能者だと、育て方が違うのですか?
湯浅さん そこはそんなに変わらないです。もちろん仕事の内容は全然違いますが。
――発注者とのやりとりなんかも「させてみる」のですか?
湯浅さん ええ、させてみます。本人がわからないことは電話横でアドバイスしながら、やりとりさせています。発注者さんにとってはメンドくさいこともあると思いますが(笑)。
――人が足りないということはないですか?
湯浅さん 現時点は大丈夫です。先のことを考えたら不安になってきますが。
集落住民の5分の1は湯浅建設社員とその家族
――湯浅建設が地元雇用を支えていると言えますか。
湯浅さん 言えると思います。建設業以外だと、公務員さんか郵便局、地元のコープの従業員さんぐらいですから。地元雇用はウチに一番求められる大きな役割だと思ってます。
――魚梁瀬の住民数はどれぐらいですか?
湯浅さん 100人ちょっとです。
――湯浅建設の存在は大きいですね。
湯浅さん 大きいですよ。社員の家族も含めると、集落全体の2割は占めると思います。
――住民の高齢化も進んでいるでしょうし。
湯浅さん そうなんです。若い社員もいますが通いが多く、魚梁瀬在住の若い人は減る一方です。
――本業以外でも、地域の困りごとに駆けつけることもあるのでしょう?
湯浅さん ありますね。しょっちゅう会社に電話がかかってきます。昨日も高知市内から来た人が「車のタイヤがパンクした。スペアタイヤもない」という電話がかかってきました。嫁さんの車のスペアタイヤのサイズがちょうどあったので、それで帰ってもらいました(笑)。
地域の困りごとに関しては、「何でも屋」みたいな感じです。地域行事なんかもウチの社員が中心になってますが、副地区長、消防団長、PTA会長、体育会会長、淡水漁協組合長、さらに村議会議員までが社員でいるので、当然かもしれませんが(笑)。
――当然本業のほうでもその地域にないと困る存在ですしね。
湯浅さん その通りだと思います。地域に会社があるからこそ、災害から地域を守る存在になれます。地域から必要と思ってもらえなければ、会社の存在意義は薄れます。政治家さんや国、県の職員さんとの意見交換なんかでは常にそのことについて発言しています。「僻地でもそこに会社が存在することをしっかり評価してほしい」と。