大正11年(1922年)に創業し、2021年に100周年を迎えた株式会社橋本組(静岡県焼津市)は近年、M&Aを進めながら全国に事業を展開している。近年では、公共土木に強い株式会社市原組(千葉県千葉市)と補強技術に優れる株式会社宏和エンジニアリング(神奈川県横浜市)をM&Aし、静岡県から千葉県までを一体化したエリアでの事業活動が可能になった。
今回、この3社に加え株式会社シーエーの合計4社を傘下に収めグループ経営資源の効率的な運用を目的に設立された、橋本グループを統括する中心企業「株式会社橋本ホールディングス」を結成。中核企業である橋本組と橋本ホールディングスの橋本真典代表取締役は、これらの事業の拡大と並行して、従業員ファーストに基づき「社員数1,000人」「売上1,000億円」「給与平均1,000万円」の「トリプル1,000」の達成を2033年までに目指し、人材採用や育成手法にも様々な発想で施策を展開している。
首都圏への進出を契機に全国展開へ
――橋本組は1922年の創業から100年を迎えました。これまでの100年と、これからの方針についてお聞かせください。
橋本真典社長(以下、橋本社長) 1922年に創業してからの80年間は、公共土木が売上の80%を占めていました。ですが、小泉純一郎内閣の時代に構造改革が進められ、公共事業費についても毎年5%ずつ削減していくという方針を示したときに、実際に削減されたらどうなるのかを試算したところ、「このままでは当社はつぶれるかもしれない」と危機感を抱いたんですね。それ以降は民間建築工事の受注にシフトし、現在は民間建築が公共土木を上回る構成になっています。
また、今後の100年を考えたときに、今回の宏和エンジニアリングのグループ入りとも関係しますが、老朽化したインフラへの対応に注力したいと考えています。この分野に手を入れていかないと、一昔前の「荒廃するアメリカ」のように、あちらこちらの橋梁が崩落し、クルマが走るに堪えられない凸凹の道路となってしまうような未来を迎えてしまいます。私自身、35年前にニューヨークで前職の仕事をしていたとき、毎日の様に、橋梁の崩落のニュースが流れているのを見て、これからアメリカは一体どうなってしまうのだろうという不安を抱いた記憶があります。
我々建設事業者や建設業従事者は年々減少していますが、老朽化したインフラ整備に手を入れないと手遅れになります。この国のインフラを守る立場から、当社グループは持続可能な会社を主眼に置きたいと考えています。もう一つは、世界的に見ても高いレベルにある日本の建設技術をもって、海外展開も見据えて世界中に当社グループの仕事を拡大していきたいと考えています。
――いまのお話にも出ましたが、今回、宏和エンジニアリングをM&Aなされた背景は?
橋本社長 宏和エンジニアリングは、一般建物や橋梁などのコンクリートや鋼構造物の耐震補強、補修を得意としていますが、同社の技術は非常に高く、特許も多く保有しています。神奈川県横浜市に本社を構えることも地政学的に大きな意味を持つのですが、それ以上にこれから我々が直面する「荒廃する日本」の主役に躍り出る可能性を秘めた会社です。今後は、グループの橋本組や市原組にも彼らの技術を移転していきたいと考えています。
――市原組もグループ化されていますが、その狙いは。
橋本社長 橋本組は静岡県・焼津市に本社があり、主に中部地方を商圏としていますが、この地域は工事量が薄く、景況感が非常に悪い状況です。一方で、市原組の本社がある千葉では仕事量が多い反面、技術者は不足しています。とにかく、仕事があるところで我々の力を発揮するために、静岡県から千葉県に技術者を送り込むことで仕事の獲得を進めています。
また、橋本組と市原組では得意とする分野はそれぞれ異なります。これまで、橋本組では不得意分野は外注してきましたが、その見積もりを精査するレベルではありませんでした。ですが、市原組が得意とするシールド工事をはじめ内容の精査が可能になったため、入札対応や仕事の進め方などでシナジー効果が表れています。逆に、市原組の民間建築はまだまだこれからの分野ですので、橋本組の技術者を派遣することで建築分野も伸長させることができています。
――さらにM&Aを続け、他の地域への進出も検討されているのでしょうか。
橋本社長 グループ全体では、以前から「社員の平均年収1,000万円」の目標を掲げていますが、これを達成していくためには、技術者+バックオフィスの仕事量を考えると社員数で1,000人が必要で、さらに利益率から逆算すると、約1,000億円の完工高が必要になります。これを当社グループでは「トリプル1000」と呼び、2033年までの達成を目指していますが、現在の橋本ホールディングスの4社グループ体制ではこの目標を達成できません。
ですので、M&Aという手段を採用するかは分かりませんが、進出するエリアの拡大には動いています。具体的には、静岡県、神奈川県、東京都、千葉県というエリアを確立しましたので、それ以外の地域でなおかつ仕事があるエリア、基本的には政令指定都市プラス沖縄を中心としたエリアを検討しています。
――規模の経済により競争力をアップし、社員の処遇を向上していくことは優れた経営手段の一つと思います。
橋本社長 経営のベースは規模の経済ですが、景況感はエリアによって変わることが多いため、様々なエリアに展開してリスクヘッジをしつつM&A戦略を検討しています。
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「建築・土木」「文系・理系」の垣根を取り払う
――「トリプル1000」の達成のためには技術者の確保が重要かと思いますが、大切にされていることはありますか?
橋本社長 まず橋本組という会社を知ってもらわなければ求職者にドアをノックしてもらえませんので、知名度を向上するための努力は継続しています。では、そのために何をしなければいけないのかということですが、最近ですと完全フリーアドレスかつペーパーレスのコンセプトで本社を新築しました。新オフィスはキャリア採用・新卒採用を問わず求職者の方々から好感触で、インパクトの大きい取組みでした。また、当社では女性従業員の比率が25%を超えています。この数字は建設業界では珍しいので、求職者の方に当社を知っていただく良い機会になっています。
また、最も重要なことは「社風」をしっかりと認知してもらうことです。挑戦して失敗しても笑い飛ばせる、明るい社風を全社員が共有している点は採用活動においても大きいと考えています。

新社屋のコミュニケーションエリア
――橋本組では、文系出身からの応募も多いようですね。
橋本社長 世界中を見渡しても、”文系”と”理系”で区分けしているのは日本だけで、同じく”建築”と”土木”で分けているのも、これまた日本だけです。当社ではベトナムからの技術者も採用していますが、彼らから「建築と土木の違いってなんですか?」との質問されたことがあります。諸外国では両方まとめて”シビルエンジニアリング”と呼び、橋梁を架け、ビルを建築しています。
それに、日本では経済学部は一般に文系に区分けされますが、数理モデルを扱うわけですから、厳密に文系と分類できるものではありません。経済学部出身の社員に構造計算を教えると、すらすらと覚えることもありますから。率直に言えば、文系・理系の区分け自体ナンセンスだと考えているので、当社でも採用に当たって文系と理系の垣根を設けていません。
当社でも文学部出身の女性が現場監督として活躍していますから、文系出身者が現場監督の仕事を担うことは決して不自然なことではないと考えています。

橋本組の女性現場監督
資格制度の観点で考えても、従来は1級施工管理技士の第一次検定を受検する場合、指定学科以外の大学を卒業した技術者は卒業後4年6か月以上の実務経験が、指定学科以外の高校を卒業した技術者では11年6か月以上もの実務経験が必要でした。ですが、2023年5月の施工技術検定規則及び建設業法施行規則の一部改正により、2024年度からは19歳以上であれば卒業学科不問で誰でも1級施工管理技士の第一次検定を受検できるようになりました。
一次検定の受検資格を学科不問とする動きは7年ほど前からありましたから、当社でもその当時から学科不問の採用を先んじて進めてきました。

参考:施工管理技術検定の受検資格の改正内容 / 国土交通省
――文系学生ですと、建設業界以外の業種の就活を並行して進めている学生も多いと思いますが、就活生をグリップするために必要なことは。
橋本社長 建設業の仕事の魅力ばかりを全面的に打ち出してしまうと、独りよがりな訴求になりがちですから、仕事の魅力以外で就活生たちが企業を比較する要素を把握することが重要です。とくに今の時代に合う要素ですと、具体的には「お金より休み」を大切にしていますから、休日をしっかり取れる企業であることをアピールすることはポイントです。グループ会社の市原組でも、しっかりと休日を確保しながらでも高い工事点数を取れていますので、こうした具体的な事例も含めて就活生に自信を持ってアピールしています。
建築・土木学科の学生については、その数自体が減っている中で半数は建設業界以外に就職し、さらにその半数は公務員に就職するため、民間の建設会社に就職する学生は全体のわずか25%です。この25%をスーパーゼネコンも含めて取り合うとなると中小企業には難しいことですので、こうした現実に目を背けずに採用活動を考えていくことが重要だと思います。

2023年4月入社の新入社員。女性社員が男性社員の数を上回った。
14か月かけて、新入社員の適性を見極める
――「社員の成長なくして会社の成長なし」というのが橋本社長の信念とうかがいました。採用後の高い定着率を維持するために行っていることはありますか?
橋本社長 就職は「職に就く」と書きますが、「この仕事がしたい」と明確な志を持って建設業界に就職する学生はほんの一部で、実際のところは「会社に入る」という感覚の方が多いと思います。すると、働く環境によっては「入ってみたはいいけれど、こんなはずではなかった」と退職する方も出てきます。私も辞める社員に理由を聞いてみたのですが、ほとんどは建設業という仕事自体が嫌いになったわけではなく、人間関係の悩みでした。「部下は上司を選べない」との言葉もありますが、配属されたタイミングでミスマッチが起きていると、「この人とずっと仕事をしなくてはいけないのか」と思い悩み、辞めてしまうリスクがあります。
では、どうしたらこのミスマッチを解消できるかと考えたときに生まれたのが、新入社員の「14か月研修」でした。一般に、配属は入社後のごく短い期間で決定するか、もしくは入社時点で決まっていることが多いかと思いますが、当社では入社後にローテーションで12ある全部署を回ってもらい、本人の希望や適性などを考慮して配属先を決定しています。建設業は現場以外にも様々な仕事がありますから、全部署を回ることで本当にやりたいことを見つけてもらうきっかけにもなります。
ただし、1週間程度の研修では”お客様扱い”で終わってしまいますから、部署ごとに長さは変えますが、各部署で1か月ほどの研修期間を設けるために14か月に設定しています。
また、当社は5月決算で6月から新年度がスタートするので、4月からの2か月間は前年に入社した2年目の先輩社員の継続研修期間と新入社員の研修期間が重なります。先輩社員は後輩たちに活躍ぶりを見せるために奮起することで、大きく成長する機会にもなっていますね。
――社員の定着には、生産性の向上も求められるかと思います。
橋本社長 私が前職ではコンピュータを扱う仕事をしていましたので、業界に先駆けてITの導入をしてきましたが、この分野についてはようやく時代が追いついてきたとの思いがあります。とくに、最近では人間でなければできないと思われていた作業を機械が代替できるようになってきています。当社としてもコマツ(東京都港区)らが2021年に設立した株式会社EARTHBRAIN(東京都港区)と業務提携を結び、最先端のICTの技術を我々が活用・検証し、それをEARTHBRAINが実用化する取組みも展開しています。
DX関連では、3年計画で設計から施工まで一括したBIM体制構築のプロジェクトも開始しています。BIMの素晴らしい点は、おさまりが悪い場所はエラーで弾いてくれます。今までの図面では、現実的には施工ができなくとも図面として成立するケースがありましたが、BIMを活用すれば現場監督の仕事の一つであった干渉チェックもバーチャル空間の中で実施できますので、仕事の無駄を省くことが可能になっています。
当社ではペーパーレス化を進めていますが、当初は設計や積算部門から「紙でないと、我々の業種は成り立たない」という声もありました。ですが、今は「紙の時代には戻れない」という話をしています。BIMも同様で、一度運用さえすれば、昔の非効率的なやり方に戻すことは、きっとできなくなるため、今後ともデジタルの活用は積極的に推進していきます。
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釣り記事でしたか…。
あくまで目標なんですよね?
人材集めの記事って事ですよね。
非常にがっかりです。