大成建設株式会社はこのほど、株式会社ピーエス三菱に対してTOB(株式公開買い付け)を実施すると発表した。連結子会社化し、ピーエス三菱の強みであるPC(プレストレストコンクリート)橋梁事業などでシナジー(相乗効果)の創出や技術者の確保の狙いがある。
最近では、UNICONグループが主導する「地域連合型ゼネコン」地域を越えた事業連携体制を構築、ゼネコンの合従連衡が進んでいる。大手から地場ゼネコンも含め、M&Aに対してなぜ前向きになっているのだろうか。
この点について、M&Aキャピタルパートナーズ株式会社(東京都中央区、以下MACP)の建設業界プロフェッショナルチームリーダーをつとめる高橋祐基氏は、「外部環境の変化があり、人材確保・2024年問題・建設資材の高騰などの経営課題について建設業界の先行きに強い危機感を持っていることが背景にある」と解説する。今回、その高橋氏に建設業界のM&Aの動向について話を聞いた。
大成建設によるピーエス三菱 連結子会社化で、業界の再編が加速
――取材に先立ってうかがいたいのですが、このほど大成建設がピーエス三菱に対してTOBを開始し、あわせて資本業務提携締結を発表されました。どのようにご覧になっていましたか?
高橋祐基氏(以下、高橋氏) 大成建設はもとより中期経営計画「TAISEI VISION 2030」により、業界再編圧力が高まっている建設業界で先駆的に再編を主導していくことを掲げていました。
PC技術に強みを持つピーエス三菱との資本業務提携により、国内土木事業における強固な事業基盤確立のための体制整備や国内建築事業での競争優位性の確立などへの対応が可能になるでしょう。
建設業界では技術者の高齢化が進んでおり、大手企業も協力会社の確保に注力していますが、技術承継がうまくいっていない企業が多く、技術者の人材不足は今後より顕著になることが予想されます。
今回、大成建設のような業界最大手企業による大型M&Aが成立したことによって、今後、建設業界のM&Aはさらに活発化していくことが予想され、業界再編が加速していくと考えられます。
とくに、地方についても地場ゼネコンは地域になくてはならない存在であり、会社を守り、より大きくするための手段としてM&Aを考える経営者が増えてきています。以前、戸田建設が福島県地場大手の佐藤工業(福島市)を完全子会社化しましたが、大手が県内有力ローカルゼネコンを傘下に収める事例が、少なくとも検討の段階では増えていくと予測しています。
また、大手ゼネコンがある県に営業所を設置したが、人員配置や入札価格等の総合的な観点から受注が想定よりも増加しないといったケースも見受けられます。そこで県内有力ゼネコンをグループ化し、地方に根付いた仕事を展開していく事例も考えられるでしょう。
ナカノフドー建設が長野の地場ゼネコンをM&A
――東京のゼネコンが地場ゼネコンをM&Aした事例にはどのようなものがあるのでしょうか。
高橋氏 当社がサポートさせていただいた企業様ですと、長野県飯田地域で長年建設業を営んできた3社の合併により誕生した株式会社トライネットホールディングスを株式会社ナカノフドー建設が完全子会社化した事例があります。
トライネットホールディングスは創業以来、一般住宅や福祉施設などの建築工事から、道路や治山など災害に強い土木工事まで、高い技術力を活かした多彩な事業を展開してきました。飯田地区はリニアの開通に伴い、街づくりも進展します。街づくりを進めるには建築の技術が必要不可欠です。しかし、同社にはまだ、地域の街づくりを担っていけるほどの力がなかったため、建築に強い会社に後を引き継いでほしいという思いがあったといいます。
そして、今年で創業90周年を迎える株式会社ナカノフドー建設は、建築をメインとした企業ですが、土木部門も大きく伸ばすべきだとの意見も強かった。そこで早い段階で目に見える成果がほしいと考え、M&Aを検討しはじめた経緯があります。
ナカノフドー建設からの視点では、トライネットホールディングスの財務は優良ですし、若い有資格者も揃い、また土木分野への本格的な足がかりになるとのことでM&Aに踏み切りました。
これはナカノフドー建設という中堅ゼネコンがトライネットホールディングスという地場ゼネコンを傘下に収めた事例です。また、合従連衡ではありませんが、県をまたいだ同規模のM&Aも増えていくと想定されます。