工事用道路をつくれないので、モノレールを設置した
――松岡さん、モノレールの設置について、ねらいなどを教えてください。
松岡さん ナカズ谷工区は、山自体が地すべり防止区域に指定されているため、山を掘削することができません。地すべりを誘発することになるので、2m以上の掘削、地山からの2m以上の盛土ができないんです。なので、工事用道路を抜くことができません。道路さえあれば、400m3ぐらいなので、生コン車でコンクリートを運んで短期で終わる作業ですが、それができないわけです。
それで、現場にアプローチするために、モノレールで設置することにしました。谷自体は小さく、現場周りに住宅が非常に多いんです。索道も検討しましたが、家の上を架線が走るカタチになってしまいます。第三者災害を考えると、このルートを採用することはできません。それもあって、モノレールを採用したわけです。
――過去にモノレールを設置した実績があったのですか?
松岡さん 1tとか2tとか、小さいモノレールを設置したことがありました。これほどのモノレールは初めてで、施工能力も工種により対応できるスグれものでした(笑)。しかし1台では施工能力が落ちるため、モノレールを2路線設置しタイムラグを少しでもなくすため協議し設置しました。令和4年度の掘削の残土処理、今回の施工と順調に施工できたかとは思います。
――モノレールのメーカーを知っていたわけですね?
松岡さん 設計検討書の参考資料に載っていました。それで電話を入れて、注文しました。ポンプでコンクリートを打つカタチとなっていましたが、作業構台を設置し、資材積み込みのための小型の移動式クレーンを据え、コンクリートバケットで打つようにしました。
――それらは松岡さんが1人で考えてやったのですか?
松岡さん 高木建設の前任の主任技術者の方などと相談しながら考えました。私だけの考えではなく、同じレベルで意見を交わせる相手がいたので、より良い施工計画を練ることができました。私1人で考えていたら、頭を抱えていたでしょう。梶浦さんとも日々意見交換して、お互いの良い意見を取り入れながら、作業を進めているところです。JVを組んでいたからこそ、できたことだと思っています。
――それぞれの会社とのやりとりはあったのですか?
松岡さん 施工に関しては報告していますが、全部現場に任してもらっているので緊張感・責任感を持ちながら施工しています。
――いろいろ技術提案して、お金のほうは大丈夫でしたか?
松岡さん 費用の計算をした上で発注者と協議するので、そこは大丈夫でした。施工に当たり予算の管理もしていくので慎重にはなりますが…。
「なんかあったら、ボクらが助けに行くからね」
――地元住民への対応で苦労したことはありましたか?
松岡さん 苦情や要望を受けたことは、とくにないです。ただ、ヤナギ谷工区は、県道沿いに1軒だけ民家があります。もし水が出たときのことを考えて、住民の方と一緒に避難訓練を行いました。ヘルメットもお渡しして、「なんかあったら、ボクらが助けに行くからね」という話をしています。やはり、砂防の仕事は、「地域を守る」のが基本なので。
ナカズ谷工区では、現場報告ということで、毎月工事だよりのチラシをつくって、現場周辺の150戸ほどに各自治会長さんを通じて配っています。現場では今こういうことをやっていますということについて、写真付きで情報提供し、ご理解をいただくよう努めています。集落の中の狭い道を工事車両が通行するので、しっかり情報をお伝えしながら施工しています。
梶浦さん 工事用車両は極力、集落の中を走らないようにしています。
松岡さん 道を譲るように、ホコリを出さないように、汚したら掃除するようにといったことは、周知しています。
「工事が終わるのがさみしい」という方もいる
――地元住民との関係は良好ですか?
松岡さん 3年も現場にいると、住民と顔見知りになって、この人がどこの誰か、だいたいわかるようになるので、気軽にお話するようになっています。住民には温かい方が多いので、助かっています。
――事業に対して理解してもらっていますか?
松岡さん 堰堤の恩恵を受ける住民はご理解を得やすいですが、堰堤の恩恵を受けない、関係ない住民の方は、ご理解を得るのが難しいという面はあります。そこのご理解を得るのが、ボクらの仕事です。
梶浦さん ナカズ谷工区は、関係のない集落の中をドンドン工事車両が走っていたりするんです。
松岡さん 住民にしてみれば、「ウチらは関係ないのに、騒音が出て、道もイタむ。そんな工事せんほうが良い」ということになるわけです。そこを理解してもらうには、いろいろ工夫が必要です。それと逆に、「賑やかで良い」とか「工事が終わるのがさみしい」という方もいらっしゃいます。
足場などが台風で全部崩れて、ボケーっとなってしまった
――改めて聞きますが、それぞれの現場のヤマ場はなんでしたか?
松岡さん ヤナギ谷工区で言えば、先ほどお話しした山を36m切り開く工程ですね。まさにヤマ場でした(笑)。一番危なくて、一番苦労しました。ナカズ谷工区で言えば、やはり山を掘削した1年間です。
――梶浦さん、どうですか?
梶浦さん 私が現場に入ってから、仮設構台が完成し機械を据え置いて、「さあ、本工をしようか」となった矢先に、台風の影響で、それらが全部崩れてしまったんです。それを見たとき、ボケーっとなってしまいました。「これ間に合うか!」という状況だったからです。
撤去してまた設置とやり直したんですが、それがヤマ場でしたね。たくさんの作業員の方にも理解していただき、協力してもらえたおかげで工期に間に合いそうなので一安心です。
松岡さん 私も「どうしよう」と思いました(笑)。