10年ぶりに永田佳文さん(株式会社Hauoli 社長)から連絡をいただく。
永田さん 「簡単な補修で構造物を長寿命化できるって、そういうの記事になりますか?」
記者 「えっ、そんな便利なのあるんですか?新技術ですか?」
永田さん 「いえいえ、ブラッシャブルSですよ」
記者 「10年前の開発時に取材させてもらったあれ?今ですか?」
永田さん 「予算と人手が不足するなかで、劣化措置に予算措置が遅れないよう尽力されている自治体さんからの需要が伸びてきているんですよ」
記者 「確かに簡単な補修で構造物を長寿命化することを狙った技術だった記憶がよみがえってきましたけれど、ただ・・・」
永田さん 「ただ?」
記者 「有料道路の交通規制を最短化したい高速道路会社で需要が伸びている規格がハイグレードで価格がハイエンドな商材って気がしていましたけれど・・・」
永田さん 「予算と人手がタイトな時代に合わせて、自治体さんの発想というか手法の転換っていうか、そうした対応で、インフラの安心安全は確実に守っていくような内容なんですけれど」
記者 「どんなですか?」
永田さん 「ざっとお話しすると、従前の延長線上で行くと、予算も人手もパンクしそうな心配があるから、予算繰りと人繰りの圧迫を避けつつ、長寿命化させる一つのツールとしてブラッシャブルSで簡単に部分塗替えをして時間を稼ぎながら、長寿命化させる発想です。橋梁だけじゃなく、上水道にも採用が広がってきたんですよね。読者さん、ご興味ありそうですか?」
そして、取材に訪ねた。
予算も人手も圧迫を避けながら、でも進捗ははやい
――ブラッシャブルSなんですけれど、簡単な補修(部分塗替え)で鋼橋の長寿命化を狙った技術なので、その部分ではどんな管理者さんでも重宝すると思うんですけれど、規格がハイグレードで価格がハイエンドな商材が、予算と人手の不足でご苦労されている自治体さんにどう寄与できるのか、仕組みがよくのみ込めません。原資が税となると、オーバースペック感が否めないものに高額を払う負担感についてのコンセンサスも気になります。性能試験の細かい数字とか、どういう仕組みでどのように施工が簡単なのかとか、ほとんど忘れてしまいましたので、その辺も改めて教えて欲しいです。
永田さん そうですよね、一見そう思いますよね。まず自治体さんのほうのお話からしましょうか。次に技術の話をしますね。
確かにブラッシャブルSは首都高速に在籍したころに企業と開発した技術なので、規格がハイグレードで価格がハイエンドな商材であることは確かです。高速道路をはじめとする橋梁で実績を伸ばしてきました。
なぜ今自治体さんから関心を集めるのか?間接費にフォーカスしてお話すると分かりやすいと思います。
――どういうことなんですか?
永田さん 高速道路会社の発想は、料金収入をいただいて道路サービスを提供しているので、お客さまのご不便となる通行規制は極力最小化したいんです。そしてこの通行規制って間接費が膨大なんですよ。修繕したい個所は多くありますし、直接工事費に少しでも多く使いたいですから、間接費に流失する経費を縮減したいとなると、工事自体をコンパクトにすることや、再劣化による再工事なんかを増やさないとか、そういう方向になりますよね。
これに訴求する技術開発となると、少人数・省工程・短工期で施工でき(つまりコンパクト)、そして誰でも簡便に高い仕上がり再現性が得られる(つまり再劣化させない)こと。加えて現場の実情に即した技術でないと、実際にこれらの成果は得られないわけです。
ブラッシャブルSもこうした発想で技術開発をしていますので、塗膜の長期耐久性能は当然のこととして、3種ケレンした素地にダイレクトに厚膜1回塗りで、工事は1~2日で高所作業車ででき、誰がやっても施工品質の再現性は高い材料にしています。従前の塗装の慣行は足場を設置して、職人さんによるブラストの1種ケレンした素地に、職人さんが5層塗り重ねるので、少なくみても6日はかかります。
この違いが自治体さんにはポイントなんです。
――つまり、どういうことなんですか?
永田さん 手数と時間のかかる施工は、発注側も施工側も間接費に予算や利益が流失しすぎるんです。そして地方ではすでに人手が足りないので、手数や時間を贅沢にかけている人的な余裕もないんですね。だから、これまで通りのやり方では、かなり無理なんじゃないかとなって、手数と時間が減らせるブラッシャブルSに関心を持たれるんです。材料コストはハイエンドでも、間接費を減らせますから、材工では結果的に安くなるし、規格がハイグレードな材料で施工品質の再現性も高いので再劣化による再工事もなく、LCCも優位じゃないか、と。
そうなると自治体さんの関心の中心は主に2つ。1つはブラッシャブルSでサビ個所をピンポイントで部分塗替えすることで、構造物の全面塗替えのスパンを延伸し、予算を圧迫しないように長寿命化を図ること。2つには仕事の棚卸をして、少ない技能者や資格者にはそれらが必要な仕事に集中してもらい、そうでない仕事はほかの人があたることで、人繰りを圧迫しないように数をこなすこと。1種ケレンは職人さんしかできないですが、ブラッシャブルSは、ヤスリとかで錆びを落とせばいいので、誰でもできますし、塗るにしても職人さんでなく、誰でも1回で厚膜で塗れます。今、点検や軽微な補修をご自身でされる自治体さんはありますよね。ブラッシャブルSは土木の専門職でない行政職員さんもできるんです。
――例えば、年間の塗装費用が1億円だとしたら?
永田さん 例えば、自治体さんの塗装に関する発注が年1億円しかなかったら毎年400mくらいしか塗替えられないんですね、従前は。なので管理橋梁の全面塗替えを1巡するには40年間かかりますと言っても、結局税金が減るから、10年後見直して45年、50年と伸びるので、塗替えられないまま傷む橋梁が出てくるんです。それが同じ1億円でも、ブラッシャブルSみたいに誰でもできてコンパクトな工法で部分塗替えすると、5~6年で管理橋梁が1巡できてひとまずの時間稼ぎをしながら、全面塗替えが必要になったものに対応していくようなことができるんですね。人繰りも同じです。
それと、ブラッシャブルSは消費期限を5年にしたことも有益です。よくある塗料の消費期限は大体6カ月くらいです。なので現場がちょっと事故があったら、工事は遅れますので、その分塗料を丸々捨てるんです。大量ですよ。そういう無駄な予算や利益の流失も見直せます。
今、いろんな自治体さんとお仕事をさせていただくなかで、特に地方の自治体さんほど、ブラッシャブルSを使って簡単な補修で、予算も人手も圧迫を避けながら、インフラを長寿命化するっていう発想がじわじわと広がってきて、この6月に橋梁以外で初なんですが、地方の上水道のプラントでもお役立ていただきました。当初は橋梁用途で開発した技術ですが、これは鋼だったら、橋梁に限らずほかのインフラも同様な性能と効果を発揮するという初弾でもあり、これから広がっていく群マネなどでも重宝される材料となると嬉しいですね。

ブラッシャブルSの施工手順
通常の12倍やったけれど壊れず、促進試験はノーダメージで打ち切りに
――なるほどそういう仕組みだったんですね。それで、ブラッシャブルSの性能試験の結果とか特徴ってどうでしたっけ?
永田さん 首都高速の促進試験は通常720時間なので1カ月間です。その促進試験ののちにアドヒージョン試験という付着試験をするんですけれど、引っ張って所定の数値が出れば合格になるんですね。ブラッシャブルSも当然クリアしています。
ブラッシャブルSは、合格ということだけでなく、いつ壊れるか見たかったんですね。壊れる過程や壊れ方を知っているって、管理側にはとても重要なことなんですよ。
加えて、ブラッシャブルSは塗装の規格通りの試験、つまりラボでやる顔が映るくらいにピッカピカの鉄面に23℃で塗った供試体で性能試験をするというような一連の試験も当然満足していますが、より現場の施工の実情に応えるやり方で合格性能が出せる材料開発にこだわったので――つまり3種ケレンした上にダイレクトに厚膜で1回塗り、施工温度も23℃でなく幅広に、というような――、そういう供試体でどこまで耐えて、どの段階でどう壊れるのか、確認したかったんですね。
それで当初は、1カ月の促進を、6カ月まで伸ばしたらダメになるだろうなと思っていたら、延々と12カ月やっても全然ノーダメージだったので、打ち切った経緯があるんです。通常使われている塗料もいくつも並べて12カ月促進しましたけれど、これらはそれなりに予想通りな壊れ方でした。大体、塗料は20年もつと言われているんですが、現実的にはそれまでに塗替えが来る感じです。ブラッシャブルSは論文などの文献では50年間もつと書いてあるんですけれど、2013年に開発した材料なので、促進試験でなく、実環境では11年目です。
――なぜ1種ケレンじゃなくて3種ケレンなんですか?
永田さん 現場では1種ケレンで素地調整をしたのちに塗装工程に進みますが、塗料を塗るまでにもうサビてきちゃうんですよ、10分ぐらいでサビがはじまる。
そして施工温度も、世界基準では23℃で性能が満足してれば良いと書いてありますから、ラボの人も23℃で全部試験をすることが多いんですけれど、実際の施工の現場では、夜間施工や冬場の施工は普通にあります。つまり、通年でできるだけ季節や時間に左右されずに使って塗膜の長期耐久性を得たいわけです。湿度85%以上、雨の日、5℃以下で施工はダメという塗料と同じ条件は守っています。
結局鉄面にサビがあるなら、水と空気さえなければサビは促進しませんから、これらを遮断する塗膜の性能が長期に保持できる、つまり剥がれたり、めくれたり、容易に傷ができたり割れたりなどしない、そして1回で厚膜でつき、施工品質が良い材料という発想でブラッシャブルSを開発したわけです。
NETIS登録技術(QS-200011-A)で、首都高速の「鋼橋塗装設計施工要領 補修塗装(重防食)SDK-P511」(2021年10月)にも入っています。各種上塗り塗料とも相性を確認済みです。

ブラッシャブルSとブラッシャブルMの概要

ブラッシャブルSとブラッシャブルMの概要