三菱地所株式会社は、MEC Industry株式会社、株式会社乃村工藝社、三洋工業株式会社、株式会社リンレイ、丸山金属工業株式会社と共同で国産木材を活用した新建材「WOOD FLOOR UNIT3.2」を開発し、グループ会社であるMEC Industryで製造・販売する。第1弾で三菱地所が新丸ビルで運営するイノベーション施設の一部に敷設した。
製品はCLTを活用したフリーアクセスフロアであり、床一面に美しい木目が広がる高い意匠性やCLTが持つ高い強度を活かした機能性や木材が持つ炭素固定効果で地球温暖化防止にも繋がる環境貢献機能を有する新建材だ。
製品の特徴は、内装制限による制約を受けないため、不燃処理が不要。CLTを空間の意匠として現す(あらわす)ことが可能だ。木の質感を活かしながらもメンテナンスしやすいコーティング剤を採用し、木目や手触り、豊かな香りなど空間全体を木の自然な空気感で満たす。パネル自体は、仕上材で機能するように表面に金物が見えない特殊な接合部でS造・RC造、新築工事・改修工事問わず簡単施工を実現する。
今回、三菱地所は、「WOOD FLOOR UNIT3.2」の記者会見を実施、会見内容をもとに製品開発の狙いなどを解説する。
CLTの規格型の新建材を実現
記者会見の冒頭、三菱地所関連事業推進部長兼木造木質化事業推進室長の森下喜隆氏が登壇した。三菱地所グループは2016年からCLTを活用した木造木質化事業を推進し、マンション、ビル、ホテルや物流施設などで展開し、構造体や内装材などで導入。
木材の炭素貯蔵効果やカーボンニュートラルなどの環境的な意味合いもあるが、デベロッパーの立ち位置では、快適な空間を顧客に提供する観点から木材活用のビジネスに取り組んでいる。顧客からの反響も良好なため、木材やCLTに関連した商品を今後も開発していく方針だ。
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WOOD FLOOR UNIT3.2はMEC Industryの工場で製造し、製品のストックをしながら、販売する計画だ。東京ビックサイトで開催された、「住まい・建築・不動産の総合展」で展示し、マーケットに提示。展示会での反響を見ながら、年間の在庫管理を決定しつつ、価格を精査していくが現在のところm2あたり約3万円(設計価格)と想定している。
MEC Industryは鹿児島に工場がある関係で南九州産のスギを活用。スギの最大の弱点は軽量な反面、硬さが出ないこともあり、新丸ビルへの導入前に三菱地所の本社のある大手町パークビルに約15m2の範囲で試験的に導入。7ヶ月経ち傷などのチェックをしているが、性能への害や意匠性に大きな難点が発生しないことも分かった。
三菱地所グループは、国産木材の活用を推進していく中で、日本国内で防耐火規制から構造利用したCLTを現しにすることが難しく、木材本来の魅力を建物の利用者に伝えきれず、かつ天然の木材を活用した内装は特注品対応となるケースが多いことからコスト面でも採用が難しい状況と認識している。
規格化された流通品が少ないため、特注品対応によるコスト高が課題であったが、三菱地所のノウハウを活かし、国産木材を活用した気軽に使える規格型の新建材を開発することで市場が抱える課題を解決できると考えたという。
デザイン、施工性、コーティング剤や接合金物など、開発に必要な要素にノウハウがある、さまざまな企業とチームを組み、「地球によいもの、みんなでつくる、使う。」をコンセプトに製品開発に至った。
都市空間の中で天然木をダイナミックに
空間の総合プロデュース企業の乃村工藝社は、製品のデザイン、施工の監修、製品開発の総合的なアドバイスを担当。同社クリエイティブ本部第一デザインセンターデザイン3部部長兼未来創造研究所NOMLAB部長の山口茜氏が登壇し、次のように語った。
同社事業で培った、デザインや施工面でのリアルな知見・ニーズを監修とアドバイスの役割で参画した。見た目のデザインや天然木ならではの空気感をデザインできる商品をつくりたいとの意向で各社と2年半、開発を進めてきた。無垢材だからこそ表面を削りメンテナンスしながら使うことが当たり前となるような価値観変容のキッカケになれば望ましく、今回の製品開発で都市空間の中で天然木をダイナミックに取り入れることを期待するとした。
質疑応答の席では、「施主の方も天然木に対するニーズは数多くあり、製品開発により提案の幅が広がった。これまで床での貢献はそれほどなかったため、製品の完成で顧客に提案を深めていきたい。設計する際にはこの製品を何m2導入することで、どのくらいのCO2を固定するかを顧客に提案していくことも可能になる。施工面では、重たい木材であれば職人が組立てを行うときには大変だ。しかしスギは軽いため、職人が組立てをする際、施工性が良好な点にも注目してほしい」と語った。
また、製品の見学会に同席した、同社営業推進本部第一事業部プロダクト・ディレクション1部の武田剛専任部長は、「内装で木材利用する際、調達面・施工面では、法適用・材質・利便性と3つの大きな課題があり、開発段階で向き合ってきた。木の伸縮性を考慮した目地幅の設定、表面に金具は出さないとのデザイン性を維持した施工性の向上、メンテナンス性など困難はあったが製品化に携わることができた。施工も容易になった」と語った。
技術研究所で各種試験を実施し安全性確認
三洋工業は、営業統括部営業課の白﨑了悟課長が解説。同社は体育館をはじめ、マンションやオフィスなどさまざまな建物の床を製造。今回は、製品のしっかりとした強度や施工検証が重要との認識で、支持脚を製造、さまざまな試験装置を設置している埼玉県久喜市の技術研究所で各種試験を行い、製品の安全を確認した。今後、同社は建材メーカーであるため、CLT関連の商品を開発し、地球環境の貢献につとめていく。
ワックス・コーティングの大手メーカーのリンレイの森木正則専務取締役が登壇。木質系床材は厚膜の塗料等で表面を加工すると、木材本来風合いを大きく損ねる可能性がある。そこで同社が開発した、コーティング剤は本来の風合いを損ねることなく、汚れが付きにくく、仮に汚れがついても取りやすいという商品だ。同社は建築の維持管理に必要なケミカルを開発、特に床の分野は最も得意としている。今回の役割の一つにメンテナンス監修がある。施工後の維持管理は重要で、これまでの知見を使って取り組んでいく。
接合部にホックの技術を活用
さらに、金属ホックを製造する丸山金属工業では、営業部の久保裕太郎課長が解説した。
製品の接合部分に同社のホックを活かし、接合性や意匠性を向上した。現在はアパレル関係をメインに販売しているが、今回のような建築業界への進出について同社は、大きなミッションであり、チャレンジであると意志表明し、今後とも新たな業界への進出について大きな可能性を追求していく。
最後に、製品のパネルを製造し、三菱地所グループの一員であるMEC Industryの小野英雄社長が登壇した。同社の役割は、木材の製造加工を担当。これまで厚さ90㎜と150㎜のCLTを製造してきたが、新たに36㎜と54㎜のCLTの製造を開始した。新たな商品をラインアップに加えることで、都市における炭素固定を促し、森の適正な循環を促進する。
CLTの規格型建材を不動産開発における選択肢に
それぞれの会社の担当者の挨拶が完了した後、プロジェクトリーダーである三菱地所関連事業推進部木造木質化事業推進室戦略企画ユニットの青木周大副主事が製品の概要を解説した。
CLTパネルを用いたサスティナブルな建築は大手から中小に至るまで近年注目を集めている。質疑応答の席で青木副主事は、「デベロッパーとして、木の床をつくる際、特別な造作品か表面に木を貼ることに方法が限られていた。不動産の計画で選択肢の一つに入ってくる木の建材はあまりなかったのが実情。そこで天然木やCLTが登場するような規格型の建材を意識して開発することになった。また、天然木に対するさまざまな考え方があり、その声に対応できるオプションを多くつくることが製品にとって必要なことだ」とコメントした。