大東建託株式会社(竹内啓社長)は、環境性能が高く住宅の脱炭素を促進するCLT工法(※1)の開発を進め、CLT使用量を2028年までに現在の8倍とする目標を策定した。CLT使用量を増やす取り組みとして、新たな商品や新仕様の開発に取り組むほか、安定した施工体制構築に向け大工教育などを実施する予定だ。
10月からは、業界に先駆け現在販売中のCLT賃貸住宅商品「Forterb(フォルターブ)」「ForterbⅢ」の2商品に太陽光パネルを搭載した「CLT DK-ZEH(※2)」の販売を開始し、脱炭素社会実現に貢献可能な賃貸経営を提案していく。今後も2×4工法やCLT工法のさらなる普及促進を進めるほか、国産材の活用、木材調達方針策定による調達木材のトレーサビリティ強化などを通じて、再生可能資源である木材の活用による資源の効率性と安定した建物供給の実現を目指す。
同リリース発表にあわせ、大東建託は、CLTセミナーを開催、一般社団法人日本CLT協会の業務推進部長の小玉陽史氏が登壇し、CLT普及に向けた取組みについて解説した。続いて、大東建託の技術開発部次長の岡本修司氏が自社のCLT推進について語った。
※1 CLT・・・Cross laminated timberの略称。ひき板を並べた後、繊維方向がクロスするように積層接着した木質系材料。厚みのある板であり、建築の構造材のほか、土木用材として橋梁などにも使用されている。鉄、コンクリートよりも軽く、強度も高い。
※2 CLT DK-ZEH・・・大東建託が設計・施工する、太陽光パネルを設置したZEH賃貸住宅の通称名。
政府全体でCLTの普及に取組み、累計1,000件超の実績

日本CLT協会業務推進部長の小玉陽史氏
セミナーでは、まず日本CLT協会の小玉部長が登壇した。同協会はCLTの普及活動と技術開発の2点を主な活動とし、2014年に誕生した。CLTを取り巻く組織では、CLTの公共建築物、商業施設への幅広く積極的な活用に向けて、政府は「CLT活用促進に関する関係省庁連絡会議」を開催している。
内閣官房では「CLT活用促進のための政府一元窓口」を設け、CLTのあらゆる情報を網羅し、CLTの活用に関する事業者や地方自治体などからの問合せに対応。このほか、国土交通省や林野庁でもCLTに関する助成金などで支援している。また、国会議員有志から構成する「CLTで地方創生を実現する議員連盟」、地方では各地方自治体トップで構成された「CLTで地方創生を実現する首長連合」により地方創生を実現するための活動を推進中だ。
なお、同議連の会長や地方創生相を歴任した石破茂首相は、CLTに対して理解が深い。日本CLT協会の公式YouTubeでは「石破茂氏が語るCLT」をアップしているが、石破首相のCLTに対する深い見識がうかがえる。
「石破首相については全国のCLTのみならず林業業界が期待を寄せていると思う。協会としてもCLTの活用に拍車がかかることを期待している」(小玉氏)
石破茂氏が語るCLT(2016年8月) / YouTube(日本CLT協会公式)
CLT建築は、「銘建工業株式会社本社事務所」では壁、床、屋根などに導入。「高知学園大学」の8号館は、主要構造の一部にCLTを採用。CLTの国内最大寸法となり、幅3m×長さが12mの板を使用し、三層階通しで日本でも極めて珍しい工法を採用した。その他、全国のコンビニ、道の駅、郵便局、ガソリンスタンドにも利用している。
CLTの歴史を紐解くと、2013年にJAS(直交集成版の日本農林規格)を制定し、第1号建築が翌2014年の高知県の3階建て社員寮だった。その後、大臣認定を個別に取得することなく、建築基準法に基づく告示の公布・施行。その後、2023年には累計1,000棟を超える実績に至った。

CLT活用推進のための政府一元窓口(2023年10月26日時点) / 出典:内閣官房
日本の豊かな森林資源を活かす方向で進む
CLT材料の仕入れはJASの認定工場である必要があり、北は北海道、南は鹿児島と全国9ヶ所の工場でCLTを製造中だ。最近のトピックスでは、大林組の地上11階建ての次世代型研修施設であり、日本初の高層純木造耐火建築物が完成。屋根、耐力壁、床や階段にもCLTを使用した。
また、2024年12月着工予定で2028年竣工予定の「東京海上の新本店ビル」では、木の使用量が最大規模であり、高さ100m・20階建ての「木の本店ビル」が実現する。床の構造材としてCLTを利用予定で、一般ビルに比べて建築時のCO2排出量を約3割削減し、100%再生可能エネルギーを実現する。
さらに、メモリアルプロジェクトといえる大阪・関西万博日本館では、国産スギ材によるCLTパネルを、また大屋根リング建設工事の床材では、四国産のヒノキとスギを加工したCLTを採用。
「会期が終わった後も再利用で全国に向けその材料を波及するように、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会が中心になり、各省庁が連携して行っていく予定で、これからの活用に期待している」(小玉氏)

大阪・関西万博日本館 / 出典:経済産業省
このようにさまざまな建築でCLTを採用しているが、その理由はどこにあるのだろうか。国内の森林資源は増え続けており、森林率は68.4%と日本は世界でも有数な森林大国である。この森林資源を積極活用する時代に入っているが、日本の木材生産量はわずか0.5%で森林活用は今後大きな伸びしろを持つ。
政府も森林活用に本腰を入れ、国民一人ひとりが森林整備のために広く等しく分担する制度として、「森林環境・森林環境贈与税」を創設した。次に「公共建築物等木材利用促進法」を2021年10月に改正、法律の題名が「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」に変わるとともに、法の対象が公共建築物から建築物一般に拡大した。

「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」
最近では、SDGsとEDG投資の関係が深まり、社会的な課題解決が事業機会と投資機会を生む潮流が高まっている。持続可能な企業活動が投資を呼び込み、企業の事業継続・拡大につながる。そこで脱炭素社会の実現のために、木材の利用が再注目されている。もう一つの決め手は、2050年カーボンニュートラルに向け世界各国が走り出し、菅義偉首相(当時)は、2020年10月に開会した臨時国会の所信表明演説で「2050年にカーボンニュートラルを目指す」と宣言した。
どこから木造化していくかとの点では、1~3階の戸建て住宅はほぼ木造だ。しかし、低層非住宅建築では、鉄骨造が圧倒的に多く、4階建ての中高層非住宅建築に至っては木造がゼロの状態だ。「この低層非住宅の木造化の伸びしろが大きく、公共建築物の木造化は進展していくと思う」(小玉部長)
大東建託 CLTへの本気度

大東建託技術開発部次長の岡本修司氏
次に大東建託技術開発部の岡本次長が説明に上がった。国や建設業界を取り巻く環境では、職人・熟練工不足、地方創生、温暖化対策、CO2排出量が多い生コンの抑制が挙げられる。そこでCLT工法の導入を導入することで、パネル化により人工を圧倒的に少なくし、現場省力化に成功。さらに国産木材導入で日本の林業支援、RCに比べて解体費が安くなり、CO2排出量削減に貢献する。また、建物本体をRCから木にチェンジし、軽量化を図ることで、杭のボリュームを減らしCO2排出抑制に貢献する。
大東建託のCLTの歴史では、2019年にCLT工法の賃貸住宅商品の販売開始、2020年に日本最大級のCLT大屋根の「ROOFLAG(ルーフラッグ)賃貸住宅未来展示場」をオープン。2022年8月に、CLT工法による4階建て賃貸住宅が完成し、2023年1月、LCCM認定を取得したCLT工法による戸建賃貸住宅が完成。
非住宅分野では、CLTパネル工法による郵便局を2023年に3棟竣工、2024年には燃えしろ設計法によるCLT躯体現しを実現した3階建て共同住宅商品「Forterb(フォルターブ)Ⅲ」(1時間準耐火構造)を販売し、現在販売中の4階建て商品(耐火構造)と共にCLT+ZEH賃貸住宅を可能とした。

2022年8月、千葉県船橋市に完成したCLT耐火共同住宅のForterb(フォルターブ)1号棟
2028年までに約8倍の2,000m3の使用量へ
大東建託では3階建てのCLT賃貸住宅をリリースしたが販売実績は豊富ではないため、普及促進を目指し、省力化、価格面で取り組む方針だ。2020年に4階建て耐火建築物を施工した際、RC造と比較して25%の省力化につながったという。施工体制では、耐火・準耐火の新仕様開発を行うことで、2026年以降も年間5棟以上の施工物件を確保するほか、大工の教育を強化し、2028年までに約8倍の2,000m3(20棟)の使用量を目指す。
「CLTは主に壁材に使用している。この壁材の使用量とあわせて、共同住宅の共用廊下にもCLTを使いながら、現しで木造の良さを普及していきたい。また、CLT+ZEHとCLT+LCCMにより環境価値を高めた中でオーナー様や入居者様に訴求していく。また、将来的にはCLT+ZEHが標準的な提案ができるよう取り組んでいきたい」(岡本氏)

LCCM×CLTパネル工法の戸建賃貸住宅が完成(写真は建設中の様子)
ツーバイフォー住宅の外観でありながらCLTを構造体として使用した事例は、岩手県の社員寮がある。千葉県船橋市では木造耐火の4階建ての商品として「中層CLT1号-自宅併用賃貸住宅」(「2021年度 CLTを活用した先駆的な建築物の建設等支援事業」)が完成。LCCMの認定を受け、CLTを使用した戸建て賃貸住宅の事例に続き、東京都内では1時間準耐火木三共1号(「2024年度 JAS構造材実証支援事業」)を建設。埼玉県では第2号の事例が進展中だ。
郵便局など公共建築にも採用・拡大へ
これまでCLT工法は関東地方を中心とした東日本で進展してきたが、西日本初のCLT×ZEH賃貸住宅(「2024年度 低層ZEH-M促進事業」)が現在、広島県で建設中。さらに非住宅では日本郵政とのコラボレーションも行われ、その一例に福岡県の宗像郵便局がある。屋根に太陽光発電設備を備え、CLTを使用した。「小屋組みがなく、屋根面がすっきりして、空間的な広がりを見せる設計だ」(岡本氏)

太陽光発電設備を備え、屋根にCLTを使用した 宗像東郷郵便局 外観
現在、CLTについては住宅系が9割、非住宅系は1割の割合だが、このまま進展していく方針だ。非住宅では日本郵便株式会社の工事で実績を積んだことから、特化した部署を設置し、技術開発を進める方針。「CLT独自の技術開発では、在来木造では使わない金物を開発していたが、より省力化できる金物を開発する。1時間耐火、1時間準耐火についても、より省力化できる新たな仕様を取り組みたい」(岡本氏)
同議員連盟の会長をつとめた石破茂首相は、「石破茂氏 CLTを語る」で次のように語っている。
「議員連盟として、いろんな人たちにこの活動に加わっていただきたい。市町村の皆さん、都道府県の皆さん、CLTをつくる会社の皆さん、林業に携わっている皆さん、そして何よりも『それって面白い、やってみよう』と思う国民の皆さんを増やしていくと、需要が出て来てコストも下がる。そういう循環をつくっていきたい」
環境を向上し、山や地域を元気にする原動力になるCLTの需要喚起に期待したい。
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