前回ではケイアイスター不動産の取締役常務執行役員CFOである阿部和彦氏のインタビューでは、分譲住宅会社のM&Aにより同社のシステムを導入することで、売上規模が10倍近くになった事例を紹介した。しかしその一方、分譲住宅会社のM&Aの案件が少なく一服感もあり、今後は注文住宅会社へのM&Aを強化する方針を示した。
その背景には、近年の住宅市場の競争激化や少⼦⾼齢化による市場縮⼩・業界再編も進む点にある。そこで各社地域有力ビルダーや工務店は、大手のどこの傘下に加入するかを検討中だ。もちろん、独自路線で生き残りをかける地域のハウスメーカーも存在するが、成長路線を考えた場合、後者の生き残り戦略は難しいといえる。
インタビューはさらに続き、執行役員グループ購買統括上席部長の山﨑俊一氏も加わり、今後のM&Aの方針を示した。
本格的に大手グループによる再編が進む
――日本は人口減少を迎えますが、注文住宅の需要動向をどう予測していますか。
阿部氏 先ほども説明したとおり、分譲住宅と比較して、注文住宅の需要のほうが減少していくと見ています。これは、ライフスタイルの変化および注文住宅価格の上昇により、注文住宅の購買層が減少しているからに他なりません。一方で、土地付きの分譲住宅は、住宅購入者が土地を探す必要がなく、購入価格も一定の範囲内に収まっているため、減少ペースは緩やかになると予測しています。住宅産業業界の戸建て住宅は消滅することはありませんが、人口減少が進むことは間違いありません。
――規模の経済を考えると、小規模の工務店もビルダーも同様に淘汰されていくのでしょうか。
阿部氏 これから本格的に小規模のビルダーや工務店の淘汰が進み、大手に集約されると考えています。コンビニも最初は地元系の会社も参入し、百花繚乱のように店舗が存在しましたが、今や大手3社にほぼ集約されました。大手の視点では残存者利益も確保できますので、注文住宅も大手の寡占化が進み、大手3社が7割のシェアを獲得しています。有力な注文住宅会社は非上場でありつつも、地元のナンバーワンの独立系企業も多いため、もし注文住宅会社からM&Aのお声がありましたら、喜んで前向きに検討したいと考えています。
――実際、帝国データバンクの「建設業」の倒産動向(2024年1-10月)のリリースによると、「建設業」の倒産急増、過去10年で最多ペースとなっていて、中小零細規模の建設業で倒産増が続く可能性が高まっているという発表もあります。すでに淘汰は始まっている見方もあるようです。
阿部氏 淘汰は始まっていると私も思いますし、一人大工や一人親方についても個人事業主を廃業し、大手の施工部に吸収され、社員になる方も増えているように思います。

建設業の倒産件数過去最多へ(出典:帝国データバンク)
社員職人では、外国人材の比率が日本人対比で56%超に
――これから少子高齢化により、技術者や技能者も減少が見込まれます。ケイアイスター不動産グループではどのような対応を進めていくのでしょうか。
山﨑俊一氏(以下、山﨑氏) この人口減少下でケイアイスター不動産として最も懸念していることは、職人の担い手が不足している点で、これは住宅の作り手がいなくなることを意味します。
そこでグループでは外国人技能実習制度を活用し、若い外国人の力を借りながら、住宅を供給できるようつとめています。社員職人のうち、外国人材の比率が日本人対比で56%を超えています。
こうした体制を構築するためには、深い技能を習得しなくとも建物が完成するような仕組みの整備が肝要です。資格が必要な工種については従来通り、職人の技能に期待する一方、公的資格が不要な工種では、プレハブ工事に代表されるように、一人の職人がいくつもの工種をこなす多能工が重要になります。大工のように技術を習得するまでに10~20年かかるとなると、職人がいくらいても足りません。そこで高度な技能習得の時間を短縮するために、建物側の施工を簡易化することで多能工と省施工をセットに仕組みづくりを進めています。

ケイアイスター不動産は、社員職人推進事業を推進し、建設業界の担い手育成と外国人労働者との共生・共働を目指し、人材の育成に注力している。
――「省施工」と「多能工」が大きなポイントだと受け止めましたが、この点についてもう少し深堀りしていただけますでしょうか。
山﨑氏 職人が年間こなせる棟数が仮に10棟だったとすると、これを12棟にまで向上させるために現地での工事の手間を減らすことが省施工の考え方です。そして、これまで職人が分業で行っていた5人分の仕事を1人でこなせるようにして、職人の採用を1/5に減らすことが多能工の考え方です。
省施工では、プレカット工法に代表されるように、現地で寸法を合わせて切ったりするような技術力が必要な工事をなるべく現地で発生させないようつとめ、従来、工期が30~40日必要な工事が20~30日で収まるようにしていきます。
多能工では、それぞれの技能を習得していただくようつとめ、仮に外壁工事であれば、外壁メーカー、屋根工事であれば屋根メーカーの技術講習を受講してもらいます。当社が発注している外注先に職人が応援で赴き、見習いで実務技能を習得するような方法により、職人を育成しています。
――ケイアイスター不動産の職人は社員なのでしょうか。
山﨑氏 ケイアイスター不動産の職人は社員で、月給制です。多能工のスキルを習得した職人に安定的な仕事を割り振っています。
――職人を抱えると社会保険の負担があるため、抱えない企業もありますが。
阿部氏 社員職人は全体の工事のうち2~3割をカバーし、残りの7~8割を外部の会社に委託しています。たしかに、すべてのカバーできるほどの社員職人を抱えると社会保険料はもとより固定費の負担は大きくなります。しかし、全体工事の2~3割の部分を自社の職人で抱えていれば、なにかあればすぐにかけつけることができます。さらに職人が多能工化すると、一人でいくつもの工種もこなせます。当社はさらに成長を続けようとチャレンジしている段階ですので、職人をある程度抱えたほうがメリットも大きいのです。そのため、高校卒業予定の学生を職人として積極的にリクルートしています。
社員職人は、当社の本社がある北関東エリアが中心でしたが、現在は、地域の強弱と時流にあわせて、現場に派遣しています。
――社員化によって省施工の効果もあるんですね。
山﨑氏 外注の会社には、施工の日数が縮まると”発注単価が下げられるのではないか”という恐怖心が必ずあります。新しい手法を採用すれば、従来1時間かかっていた時間が30分に短縮できると説明しても、「あまりたいして変わらないよ」と言われてしまうのが関の山です。
しかし、社員職人にパイロット工事で行わせることで、改善前改善後での有効性の確認を取ることができ、実行しやすくなるメリットもあります。
施工管理アプリの運用率9割達成で、DXを推進
――生産性向上に関して、DX推進の取組みはどのようなものがありますか?
山﨑氏 当社グループの基幹システムで、各物件での仕入れ状況や工程進捗を確認できるようになっています。工事現場での生産性向上に着目すると、DXは必要不可欠で、当社は現場管理アプリを採用しています。スマートフォンやパソコンからもアクセスでき、施工会社同士や発注元の当社からの連絡も可能です。当社からは「今、工事はどこまで進んでいるか」を調べたいときは、ログインすれば分かります。以前のように現場監督が中心になり、各現場や職人に連絡するという煩雑さはなくなりました。
――どちらの現場管理アプリを採用されていますか。
山﨑氏 当社では現場管理アプリ「Kizuku/キズク」を提供するコムテックス株式会社(竹脇正貴社長)に、当社向けの専用アプリ「KIzuku PRO/キズク プロ」を開発していただき、運用しています。建築現場管理の効率化と品質確保を目的とした建築現場に関わる企業や作業者のための当社独自の「現場支援アプリ」です。クラウド環境のもと、工事の段取りから現場の進捗確認、工程表や施工品質検査など、建築現場に関わる様々な情報を「KIzuku PRO」で管理しています。
業者選定システムも搭載しており、各協力会社様の月ごとのキャパシティや空き状況などを細かく確認しながら、現場の担当協力会社様を選定することが可能です。協力会社様への確認作業等で時間を要する選定もスムーズに対応できています。
――効果のほどは。
山﨑氏 歴然と違います。年間に管理している棟数は飛躍的に向上し、事務作業がなくなっていきました。アプリケーションを導入するには、当社側の社員に加えて、携わる協力会社様が使用していただかないと効果がありません。一人でも欠けてしまうと工程が歯抜けになりますから、当社では仕事を請け負う会社と契約を結ぶ際に、「KIzuku PRO」の導入が必須になっています。その操作を説明し、不明な点があればサポートデスクを設けて問い合わせいただくことで定着を図っています。
――「KIzuku PRO」は、M&Aされた企業にも水平展開されるのでしょうか。
山﨑氏 いきなりの切り替えはしません。先方もグループ入りする前の契約条項がありますから、今日グループ入りしたからといって、「KIzuku PRO」の使用は義務とはなりません。一定の経過措置は設けますが、基本的には当社グループと合算して決算する場合には、数字のデータと連携しなければなりませんから、仕組みは合わせるようになります。
「売上と利益を上げる」ことが至上命題
――これからの話についても伺いますが、M&Aはどのような戦略で展開されていくのでしょうか。
阿部氏 M&Aは相手がある話ですので、話が持ち込まれれば、まずはお会いします。ただ、話をうかがって一緒にできるかどうかは別の話です。
当社としては、当社の社員を社長として送り込んで、マネジメントをすべて入れ替えるような手法は採用しません。当社のM&Aは、一定のルールのもと、M&A会社の経営陣に経営の自主権をお渡ししますので、オーナーが引き続き会社に残って経営を担っていただきます。エルハウジングと旭ハウジングはオーナーのご子息が経営されていますが、今のオーナーあるいは現経営陣に残っていただくことが前提です。もし、オーナーも現経営陣も株式を売って、すべて経営から退き引退されたいというご意向でしたら、当社ではM&Aを一切行いません。
当社が定める一定のルールとは、「グループ会社権限規定を順守する」および「売上と利益を上げる」という極めてシンプルなものです。そして、そのためにどうすべきかといえば、当社のモデルに従って、徹底的に真似をし、経営することで、その地域のトップランナーになることです。当社の手法を使わずにトップランナーになることができればいいですが、現実的にはトップランナーにはなれません。小規模の事業主に対して厳しいことを申し上げますが、独自の手法で原価を下げることは難しく、当社独自の手法で徹底的にコストをカットして行っていきます。
規模的に生き残れない会社の一部の方はこれらのことをご理解されていて、体力のある今のうちにM&Aをしようと決断されている方も増えています。または、お子さんに継がせることを断念され、自分の代での廃業や倒産も増えてきています。会社の規模により、これから存続可能か、それとも淘汰されていくのか、それぞれの企業が模索しており、その中でM&Aへの決断を行う企業もあります。
――これからの住宅産業業界で、どのように生き残っていきますか?
阿部氏 当社は分譲住宅に限らず、マンションやアパート、収益物件などを手掛け始めたばかりですが、これらの事業領域は立ち上げ段階のため、シェアも拡大できます。人口が減少するといっても住宅産業自体が消滅するわけではありません。これからも分譲住宅もマンションも必要になっていきますし、リフォームやリノベなども必要になっていくことから、住宅産業業界でやるべきことは多くあります。
また、事業エリアの拡大により、出店地域が多様化し、規模の拡大も図れたため、今まで話に上がらなかったような企業との取引も進んでいますし、地方では注文住宅の領域が強いビルダーにも注目しています。海外に目を向ければ、オーストラリアに進出して3年ほど経ち、事業の拡大が図れましたし、アメリカでも会社を設立し1年経ちます。今後も、海外事業の拡大を含めて当社が生き残る策を日本にとらわれずに模索していきます。
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