戸建て住宅業界は、業界自体の規模が縮小するため、M&Aが積極的に行われ、小規模事業主の淘汰、または大手による吸収が一層進むと想定される。
帝国データバンクの「建設業」の倒産動向(2024年1-10月)によると2024年に発生した建設業の倒産は、10月までに1,566件。8年ぶりの高水準を記録した前年をさらに上回る急増ペースで推移し、通年では過去10年で最多を更新する見込みだ。木材をはじめとした建築資材価格の高止まりに加え、建設現場での職人不足と求人難に伴う人件費の高騰が、中小建設会社の経営を圧迫しており、今後、小規模建設会社の淘汰が進む可能性がある。
そんな中、ケイアイスター不動産株式会社(塙 圭二社長)は、さらなる規模の拡大を目指し、注文住宅事業のM&Aを強化する。2024年3月期でのグループは、グループ連結数値で8,202棟を販売し、売上高は前年比17%増収の2,830億円といずれも過去最高を達成。成功の要因の1つとしてグループ会社の高い成長率があげられる。これはグループ内での経営戦略によるシナジーが大きく寄与し、またM&Aの効果も大きく、今後も積極的にM&Aを加速する。
ケイアイスター不動産は、2016年4月に株式会社よかタウン(野島 幸司社長)、2017年4月に株式会社旭ハウジング(中倉 孝博社長)、2019年1月に株式会社建新(大口 隆弘社長)、2021年1月にケイアイプレスト株式会社(小林 勝彦社長)、2023年4月に株式会社エルハウジング(堀越 大輔社長)、2024年4月に新山形ホームテック株式会社(矢口 雅彦社長)、2024年7月にTAKASUGI株式会社(平島 孝典社長、タカスギ)の7社をグループに迎え、事業を展開。M&Aでグループに加わった会社は、シナジー効果により成長率が高まり、グループ連結売上高の拡大に繋がった。
分譲事業、注文住宅事業のどちらでもスケールメリットを活かした部資材の調達を実施し、社員職人の育成で効率の良い施工が実現するなど、双方の事業でシナジーを意識した事業戦略を進める。この数年で店舗の全国展開とM&Aを進めたことにより、一つの地域に依存しない多様なポートフォリオを構築する。
今後は少子高齢化による人口減・住宅着工減で加速化する建築・不動産マーケットの縮小を危惧し、各企業間の連携により、業界で生き残りをかけた熾烈な競争に勝ち残る必要がある。
また、新築住宅の着工数が減少すると予測されている中、不動産業界の経営では後継者不足、職人・人手不足、人件費や建築材料の高騰など様々な問題があげられる。この状況下で、利益を上げることの難しさ、事業の拡大、企業価値の向上、コスト削減の悩みを抱える経営者やオーナーは多い。そこでケイアイスター不動産の傘下に入ることで、分譲事業と注文住宅事業で培ったノウハウと、資本支援・業務サポートなど、グループ経営ノウハウを全面的に共有する経営サポートプログラムを得られるメリットも大きい。
今回、ケイアイスター不動産取締役常務執行役員CFOの阿部 和彦氏と、執行役員グループ購買統括上席部長の山﨑 俊一氏にM&Aの戦略について話を聞いた。
山形や熊本の注文住宅会社をM&A

M&Aにより業績も好調
――ケイアイスター不動産の最近のM&Aの概要からお願いします。
阿部和彦氏(以下、阿部氏) これまでは分譲住宅会社のM&Aを展開してきましたが、分譲の売上高が順調に伸びたことと、有力な分譲住宅会社のM&A案件が見当たらなくなったことが理由で、現在は分譲住宅会社のM&Aにはそれほど積極的ではありません。ただし全くやめたわけではなく、いい案件があれば引き続き分譲住宅会社のM&Aを進めます。
ケイアイスター不動産は2016年12月の東京証券取引所市場1部上場以前には注文住宅も積極的に手掛けていましたが、会社の事業戦略として、資産効率が高く、成長のスピードが早い分譲住宅に経営資源を集中することを決めました。そのため、注文住宅のスタッフを施工分野も含め分譲住宅に移行し、注文住宅は縮小しました。
しかし、住宅業界は、分譲よりも注文住宅の方が市場は大きく、2023年で両者を比較すると、分譲住宅の供給数が12万戸に対し、注文住宅の共有数は22万戸であり、注文住宅の市場規模は分譲住宅の倍近くあります。2024年は両市場ともにさらに減るとみられていますが、約2倍の市場規模の差があることに変わりはありません。
これだけ注文住宅の供給数が多いのに、当社の事業戦略上、何もせずに手をこまねいているのは逸失利益であると判断し、自由設計の注文住宅を手掛ける新山形ホームテック株式会社(本社:山形県新庄市)を2024年4月にM&Aしました。このM&Aを通じて、注文住宅会社の問題点や課題が分かってきました。
――どのような点に発見がありましたか。
阿部氏 当社は、自由設計の注文住宅の強化は図っていませんが、分譲住宅領域に近い規格型注文住宅は積極的に展開しています。自由設計を軸とする多くの注文住宅会社は、規格型注文住宅を手掛けていませんので、自由設計の注文住宅会社が、当社の強みである規格型注文住宅を手掛けることを通じて、高価格帯から低価格帯に至るまで注文住宅を展開することでき、顧客基盤の拡大が図れます。
これにより、注文住宅を求めるすべてのお客様のニーズに応えることができ、結果的に売り上の向上も期待ができます。さらに、自由設計を手掛ける注文住宅会社に対し、当社の分譲住宅のノウハウを提供することにより、分譲住宅事業も立上げています。
新山形ホームテックは、従来の自由設計の注文住宅に加えて、規格型注文住宅を導入するだけでなく、分譲住宅の事業を推進することにより、同社の住宅展示場に来場するすべてのお客様の住宅ニーズに応えられるように努めています。

新山形ホームテックが建設した住宅 。子育て世代のニーズを叶えた、「外壁タイル」が包む上質な住まいが特徴
新山形ホームテックのM&Aで自由設計の注文住宅、規格型注文住宅、分譲住宅のハイブリッド戦略の実証に目途がつきましたので、次は2024年7月に熊本県熊本市のTAKASUGI株式会社(本社:熊本県熊本市/以下、タカスギ)のM&Aを実施しました。タカスギのビジネスモデルは土地を自社で仕入れ、顧客に土地を販売し、建築条件付きで建物を建築します。同社は規格型注文住宅や分譲住宅も携わっていませんでしたので、新山形ホームテックに続く2件目の注文住宅会社のM&Aとして実行しました。
新山形ホームテックと同様に、タカスギにも規格型注文住宅および分譲住宅の事業ノウハウを注入しています。
よかタウンは福岡県No.1のビルダーへ成長

ケイアイスター不動産グループに参画した企業
――過去のM&Aの事例にも振り返っていただきたいのですが、2016年4月に株式会社よかタウンをM&Aしています。
阿部氏 よかタウンは現在、当社の分譲モデルに全面的にシフトし、成長を続けています。売上高で言えば、グループ化前は約59億円(2017年3月期)でしたが、グループ化後の売上高は約308億円(2023年3月期)と約522%伸長し、今や福岡県ナンバー1のビルダーの地位を確保しました(※)。

「低層住宅着工棟数」で5年連続 福岡県第1位を獲得したよかタウン / 同社リリース
2017年4月には神奈川県横浜市の旭ハウジングをグループ化しました。当時の売上高は約16億円(2018年3月期)でしたが、現在は約151億円(2023年3月期)と、売上高は約943%と大きく成長しました。もともと小規模のビルダーでしたが、当社のモデルを導入し、資材の仕入れも当社ルートで行っています。
また、2019年1月に神奈川県横須賀市の建新をM&Aしました。同社は土木に強い企業です。横須賀市と横浜市がメインの事業エリアで、地域的に高低差が激しく、擁壁を立て、地盤改良し、宅盤するような土地の造成工事などの開発工事を得意としています。以前は地場のビルダーから開発工事を請け負っていましたが、分譲住宅の需要も多く、実際に要請もあり、当社グループに合流する前から住宅建築工事も施工していました。
現在は、土地の仕入れ、開発工事、住宅建設を一気通貫で手掛ける自社プランのビジネスシステムを構築し、分譲住宅の棟数も飛躍的に増加しました。グループ化前の売上高は約26億円(2019年3月期)でしたが、グループ化後の売上高は約214億円(2023年3月期)で、売上高は約823%とこちらも大きく成長しています。

土木にも強い建新が施工した住宅造成工事
分譲住宅のM&A後では売上規模が10倍近くに
阿部氏 2023年4月には京都府京都市を本社とするエルハウジングをグループ化しています。同社は建売住宅の会社で素地を購入したのち、造成し、その上に分譲住宅を建築し、販売するのが得意な企業でしたが、このビジネスモデルを停止いただいて、当社のビジネスモデルに移行していただきました。まだ従前に仕入れた土地が残っているため、一部は継続していますが、販売完了後は当社の分譲住宅事業モデルに完全移行します。エルハウジングの事業エリアは地域的には京都府、滋賀県、大阪府であり、低層住宅着工棟数は京都府でNo.1(※)です。

エルハウジングが施工した亀岡駅北ソダチマチ
また、埼玉県蓮田市の株式会社プレスト・ホームは当社グループに合流後、ケイアイプレスト株式会社(小林 勝彦社長)に社名変更しました。
当社グループの各社はそれぞれ法人格がありますが、仕様装備や外観デザインなどにより、会社ごとに特徴を持たせています。
――M&Aによる成果は。
阿部氏 いままで話してきたことは、いずれも分譲住宅会社を買収した事例ですが、当社のビジネスモデルやシステムを導入すれば、間違いなく成功します。当社が同業他社のM&Aに着手してから10年ほど経過しましたが、分譲住宅会社は飯田グループホールディングス、オープンハウスグループ、当社の上位3社のシェアが拡大し、中小の分譲住宅会社のシェアは相対的に縮小してきました。製造原価の高止まりや大工の高齢化による人材不足など、中小の分譲住宅会社はさらにシェアを落としていくのではないかと思います。
――注文住宅会社をM&Aするメリットは。
阿部氏 注文住宅会社は、分譲住宅と違って高価な部資材を使っていますので、高品質かつ低価格な分譲住宅の部資材を使うことで、製造原価を相当抑えることができます。地方では、土地を保有するお客さんが多数存在するため、注文住宅がなくなることはありません。しかし、部資材の高騰により、製造原価が上がってしまったことから、注文住宅の平均単価が上昇し、お客が買いにくい価格帯になっています。
そこで、お客様が買いやすい価格帯に下げるため、製造原価を抑え、注文住宅の価格を下げる必要があり、分譲住宅の部資材を活用するというものです。まだ、チャレンジの段階ですが、このような臨機応変な対応を図ることにより、注文住宅会社の改善が図れれば、M&Aするメリットがでてくると思います。
――注文住宅会社をM&Aすることで、本体のケイアイスター不動産の注文住宅分野を強化する考えはあるのでしょうか。
阿部氏 当社のコア・コンピタンスは分譲住宅ですが、注文住宅の市場規模が大きいため、注文住宅会社のM&Aを通じて、グループ化し、その中でお互いの協力体制を整えることにより、注文住宅会社の連合体を実現させたいと思います。グループの中で技術や情報シェアができれば、工法の統一化も果たせますし、部資材の原価も下げられます。
――分譲・注文住宅会社をグループ化していく中でどのようなシナジーを生み出したと感じられましたか。
阿部氏 たとえば、当社が導入していない工法をグループの分譲住宅会社が採用していた場合、我々も新たな学びになり、場合によってはその工法の導入に至るケースもありますし、安価で効率的に施工できる工法があれば、水平展開が図れます。注文住宅は分譲住宅と比較し、工程管理が甘く、非効率な部分がありますので、より効率的な工程管理ができれば、もっと原価は下げられます。小規模な注文住宅会社は効率化の面では後れを取っているため、各社の情報・技術交換が進展するほど効果も大きいです。
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