マンション適正管理などを通じた住まいを支える施策
現在(令和6年度時点)の配属先である建築住宅局政策課では、マンション管理の適正化支援や住まい探しが困難な方の居住支援、すまいの総合窓口「すまいるネット」の運営など、市民の住まいに関わる業務を担当している。「自分で住まいを探すのが難しい方の支援や、マンションの管理に関する相談対応など、直接市民と関わる仕事が多いです」と兼松さん。「住宅政策は、建築の知識を活かしつつ、人の暮らしに直結する仕事。社会的な意義を感じます」と話す。
特に、震災復興住宅や仮設住宅の整備は、神戸市役所の重要な役割だ。「阪神・淡路大震災の経験から、災害に強い住まいづくりやコミュニティの維持が重視されています。東日本大震災の現場を見た経験もあって、住まいや暮らし方の選択肢の自由度を高める取り組みに興味があります」と久保さんは語る。
神戸の歴史的遺産をリ・ジェネレート
兼松さんが大学時代から関心を持っていた歴史的建造物の保全も、市役所での業務につながっている。神戸市北区には、茅葺き屋根の古民家が約800棟残っており、これらをカフェや宿泊施設として活用するためのガイドライン作成に携わった。「古民家は建築基準法の枠組みでは扱いにくいのですが、活用を促進することで地域の魅力を引き出したい」と彼女は言う。
また、兼松さんはヘリテージマネージャーの勉強会に参加し、歴史的建造物の修繕方法等を学んでいる。「業務として直接関わるわけではないですが、こうした知識を活かして、北野や北区の文化資産を次の世代に残したい」と意気込む。
公共のやりがい⇔公務員離れという相克
兼松さんと久保さんが口を揃えて語るのは、建築職の「スケール感」と「チームワーク」の魅力だ。「建築職は、建物の細かい設計からまち全体の計画まで、幅広い視点で関われます。道路や公園のような大きなインフラより、建物や住まいというスケールが自分には合っていた」と兼松さん。久保さんも、「現場で職人さんの技術を見たり、素材や天候の影響を学んだりするのは新鮮でした。大学では味わえない実践の場です」と話す。
しかし、課題もある。特に、人手不足は深刻だ。「民間に流れる人が多く、建築職の採用倍率は3倍程度。優秀な人材に来てほしいと、大学でのリクルート活動にも力を入れています」と兼松さん。久保さんも、「若手職員がリクルーターとして学生と話す機会には、働きやすさや福利厚生をアピールしています。残業は働き方改革で減りましたが、部署によっては忙しい時期もある」と明かす。
阪神・淡路大震災から30年が経ち、災害の記憶の風化も課題だ。「当時の経験を持つ職員はほぼ退職しましたが、研修やOBの派遣を通じて教訓を共有しています。安全なまちづくりへの意識は、職員全体で引き継がれていると感じます」と久保さん。兼松さんも、「震災を重く捉えるのではなく、良いまちにしたいという前向きな意識が強い」と語る。
建築職はまちの未来をデザインするプランナー
神戸市役所の建築職は、単なる技術者ではなく、まちの未来をデザインするプランナーでもある。兼松さんと久保さんのキャリアは、法律の基礎から大規模再開発、住まい支援、歴史的資産の保全まで、多様な業務を通じて神戸の魅力を引き出す過程そのものだ。
「神戸は、都心から30分で茅葺き屋根の古民家に行ける稀有な都市。こうした資産を活かしつつ、災害に強いまちづくりを進めたい」と兼松さん。久保さんも、「東日本大震災の経験から、住まいや暮らし方の自由度やコミュニティの重要性を学びました。市民の暮らしを支える政策に貢献したい」と展望を語る。
まちのストーリーテラーとしての期待
兼松愛佳さんと久保由華さんのインタビューを通じて、神戸市役所の建築職が担う役割の奥深さが浮かび上がった。民間では味わえない公共性の高い仕事、チームワークによるスケールの大きなプロジェクト、そして歴史と未来をつなぐ使命感。彼女たちの情熱は、神戸のまちをより魅力的で、安全な場所へと導いている。
神戸市役所の建築職は、単なる公務員ではなく、まちのストーリーテラーであり、未来の設計者だ。もしかしたら、彼女たちの今の仕事は、数十年後の神戸の姿を、人知れず、象っているところなのかもしれない。
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