今後の展望:洪水調節機能の「見える化」を
第二弾の公開では、第三調節池まで範囲を拡張。さらに、第一調節池のデータ追加も視野に入れる。だが、事務所の最大の目標は、洪水調節効果の「見える化」だ。「今は地形データを公開しているだけですが、雨が降って水が溜まり、排水する一連の流れを表現できれば、教育ツールとして大きな価値が生まれます」と意気込む。
マインクラフトでは、天候が自然に変化し、雨を降らせるコマンドも存在する。事務所では、江戸川河川事務所の事例を参考に、洪水シナリオのプログラミングを検討中だ。「新入職員にマインクラフトに詳しい若手がいるので、彼らと試行錯誤しながら、機能を追加したい」と意欲的だ。
さいたま市とのデータ共有も進む。双方のホームページでリンクを掲載し、相互にアクセスしやすくした。今後は、教育現場での活用などを模索する。「ただ作って終わりではなく、フィードバックを分析して改善していくことが重要」と担当者は語る。
BIM/CIMデータをマインクラフトに変換する技術的ハードルに関する推測

マインクラフト上の第二排水門(荒川調節池工事事務所提供)
BIM/CIMデータをマインクラフトのワールドデータに変換する試み、上述の見える化の試みは、技術的なハードルの連続だと推測される。以下、一般論として予想されるハードルと対応について、その一部を記述する。
BIM/CIMデータは通常、IFC(Industry Foundation Classes)やRevit、Civil 3DといったCADフォーマットで管理されており、詳細なジオメトリや属性情報を含む。一方、マインクラフトのワールドデータは、ブロック単位のボクセルデータ(Anvil形式やSchematic形式)に依存し、直方体のブロックで世界を構築する。
この構造の違いから、直接的な変換は不可能だ。たとえば、曲面や複雑な形状を持つIFCデータをマインクラフトのブロックに落とし込むには、形状を大幅に単純化する必要がある。また、材料や施工順序といった属性情報は、マインクラフトのブロックメタデータにマッピングできない場合が多く、視覚的に重要な地表面のテクスチャーなどに情報を絞り込む取捨選択が求められる。荒川調節池が公開したワールドデータのような約22km²の広大な地形データを扱う場合、処理負荷が膨大になり、エラーやデータ欠損のリスクも高まる。
こうした課題を克服するためには、複数の技術的アプローチが考えられる。たとえば、BIM/CIMデータをOBJやFBXといった汎用3Dフォーマットに変換し、WorldEditやMCEdit、カスタムスクリプトといったツールを使ってマインクラフトのブロックデータに変換する方法がある。複雑な形状は、Pythonのtrimeshやnumpyといったライブラリを活用し、ポリゴン削減やグリッドベースの近似処理でボクセル化する。大規模データの場合は、データを分割して並列処理を行い、クラウド環境(AWSやGCP)を活用することでスケーラビリティを確保する戦略も有効だ。
また、洪水調節効果の「見える化」を目指す場合、静的な地形データだけでなく、水の流れや天候変化のシミュレーションが必要となる。しかし、マインクラフトの標準機能では水の物理シミュレーションが簡略化されており、リアルな洪水挙動を再現するのは困難だ。コマンドやレッドストーン回路を使った動的表現は複雑なプログラミング知識を要求し、大規模シミュレーションはゲームのパフォーマンスを低下させる。
一般的なアプローチとしては、コマンドブロックを活用して雨(/weather rain)や水の流れ(/fill)を制御する手法がある。JSONベースのデータパックで洪水シナリオを軽量にスクリプト化し、プレイヤーの操作に応じて水位変化を再現することも可能だ。リアルな水流をシミュレートするMOD(例:Dynamic Surroundings)は魅力的だが、追加インストールの負担を避けるため、標準機能優先で段階的に実装する戦略が推奨される。若手職員のマインクラフトに関する知見を活用することで、こうした機能の実装が加速する可能性もある。
「遊び心」が育むインフラの新たな地平開拓へ
このプロジェクトの根底にあるのは、「遊び心」だ。「建設業離れが進む中、インフラに興味を持ってもらうには、面白そうと思わせることが大事。そこから知ってもらうきっかけが生まれる」と力説する。局内でもこの取り組みは高く評価され、イベントでの展示や他の事務所への展開も進む。「荒川調節池をつくり、安全を確保するのが本来の目的。でも、それを若い世代に引き継ぐには、関心を持ってもらうことが欠かせない」との信念が、プロジェクトを支えている。
荒川調節池のマインクラフトワールドは、インフラとデジタル文化の融合を象徴する実験だ。子供たちにインフラの意義を伝え、建設業界の未来を切り開く可能性を秘めている。課題は多いが、事務所の軽やかなフットワークと遊び心は、新たな広報手法の道を切り開くだろう。ワールドデータは、インフラの未来を担う世代との対話の第一歩なのだ。
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