株式会社フジタと菊水化学工業株式会社は、製造工程におけるCO2排出量を大幅に削減し、優れた消臭性、防カビ性も付与した画期的な室内用塗料「ジオアース300Fクリーン」を共同開発した。
この塗料は、従来の水性エマルション塗料と比較して、1㎡あたりの原料由来の二酸化炭素(CO2)排出量を約50%削減できる。さらに、室内空間の快適性を高める高い消臭性能と防カビ性能を兼ね備えているのが大きな特徴だ。
建設業界では、建材の製造時に排出されるCO2の削減が急務となっている。特に合成樹脂を主原料とする塗料は、環境負荷が大きい製品の一つであった。一方で、現代の住宅は高気密化が進んだことにより、一度発生した生活臭が室内にこもりやすいという課題を抱えている。ペットや汗、トイレなどに由来するアンモニア臭は代表的な例で、従来の消臭剤では効果の持続性に限界があった。また、高気密化や異常気象は室内の湿気を高め、カビの発生原因ともなっている。
今回開発された「ジオアース300Fクリーン」は、これらの課題を一挙に解決するソリューションとして期待される。開発を担当したフジタの熊野康子氏と菊水化学工業の棚橋泰士氏に、その詳細を伺った。
壁に塗るだけで脱炭素を実現する「ジオアース300Fクリーン」
――まず「ジオアース300Fクリーン」の概要について教えてください。
熊野氏 「ジオアース300Fクリーン」は、「脱炭素」「消臭・防カビ」「抗菌・抗ウイルス」という3つの価値を柱としています。中でも最も強調したいのが、脱炭素への貢献です。建築材料の製造過程では多くのCO2が排出されますが、本製品は産業副産物のフライアッシュや高炉スラグといった無機系材料を有効活用することで、一般的な塗料に比べてCO2排出量を半分以下に抑えています。一般的に、脱炭素への取り組みはコスト増につながる傾向にありますが、「ジオアース300Fクリーン」は、壁に塗るという簡単な施工を通して、手軽に脱炭素を実現できるのが強みです。
さらに、建物の二大トラブルともいえる「カビ」と「臭気」の問題に対応するため、高いレベルの防カビ・消臭の機能を付与しました。通常は別々の専用塗料が必要になることが多いのですが、本製品一つで両方の課題を解決します。加えて、抗菌・抗ウイルス性能も備えています。

原料由来のCO2排出量を約50%削減
――どのような経緯で開発に至ったのでしょうか。
熊野氏 建設業界では、建物を建設する際の建築材料の原料由来のCO2排出量の削減が大きな課題ですが、とくに合成樹脂を原料とする塗料はCO2排出量が多いんです。フジタの技術センターでは以前から脱炭素技術に注力しており、その一環として「誰でも、どこでも、いつでも使える」ような塗料製品を構想していました。
次に、社内的な事情として、当社が特許を持つ消臭機能付きの左官材「ディクリスウォール」に代わる、より低コストで同等の機能を持つ建材を開発する必要がありました。
そして何より、お客様から防カビや消臭に関するお問い合わせが非常に多く、そのニーズの高さも開発を後押ししました。これらの課題を一つの製品で解決するため、菊水化学工業様と共に開発をスタートさせました。
――両社の研究開発体制についてお聞かせください。
熊野氏 お互いの強みを生かすことで、短期間かつ低コストでの開発を実現しました。菊水化学工業様が塗料の調合開発を、フジタが施工方法の検討や市場ニーズの提供を担当しました。製品性能の評価は外部機関も活用し、客観性を担保しています。特許は両社で共同出願し、販売は菊水化学工業様が、当社は販売ロイヤリティを受け取るかたちで事業を展開します。
――共同開発のパートナーである菊水化学工業は、どのような会社なのでしょうか。
棚橋泰士氏(以下、棚橋氏) 当社は1959年創業の建築仕上げ材メーカーで、業界では国内2番手のポジションにあります。売上高は約200億円、従業員は約500人で、全国の販売店様やゼネコン様向けのBtoB事業を主力としています。
私たちの強みは、下地から仕上げまでの製品開発と全国の販売体制、自社製品の受注から施工管理までを一貫して手掛ける責任施工体制にあります。メーカーとして現場に最適な製品や仕様を提案するだけでなく、全国の協力業者様と連携した工事管理によって、高品質な完成塗膜も提供しています。近年は、橋脚の耐震補強に使われる保護仕上げ材など、インフラメンテナンス分野にも注力しています。
従来製品の10倍の消臭効果を実証
――具体的な性能試験の結果はいかがでしたか。
熊野氏 主に「消臭」「防カビ・抗ウイルス」の2点で性能を評価しました。
消臭性能については、トイレや体臭の原因となるアンモニアガスを用いた吸着性試験を実施しました。その結果、他社の消臭塗料と比較して5倍以上の高い消臭性能が確認されました。また、塗装中の臭気も少なく、従来の水性塗料に比べて10倍以上の低臭(5時間後測定)であることも実証されています。
防カビ性能試験では、他社の抗菌塗料で菌糸の発育が見られたのに対し、「ジオアース300Fクリーン」の塗膜では菌糸の発育が認められず、カビの発生を強力に抑制することが分かりました。抗ウイルス試験でも、高い効果が示されています。

高い防カビ性や抗ウイルス性も確認された
多様な下地に対応し、快適な空間を再生
――実際の施工性や仕上がりについて教えてください。
熊野氏 フジタ技術センター内の築25年の実験室で試験施工を行いました。下地材を使わずに塗るとフラットで落ち着いた仕上がりに、下地材を塗ってから仕上げると凹凸のある豊かな表現が可能になり、部屋の雰囲気を一新できます。まるでホテルのロビーのような上質な空間に生まれ変わります。また、壁紙の上からでも塗装可能で、下地材で塗れば、元が壁紙だったとは分からないほど重厚な仕上がりになります。
施工では、下塗りでは多孔質ローラーを、仕上げ材では無泡ローラーを推奨しています。

フジタ技術センターでの試験施工。下地材の有無で質感が変わる。(左:下地材なし、右:下地材あり)
また、オフィスや学校の廊下などで使われる岩綿吸音板は、古くなると埃が溜まって取れなくなり、貼りなおす必要が出てくる場合がありますが、「ジオアース300Fクリーン」を岩綿吸音板の上から塗装すれば、白色に再生することができます。これまで廃棄するしかなかった建材を、美しく長持ちさせることができるのです。

古くなった岩綿吸音板(右)も、塗装することで白く再生できる
カラーは、保育園や幼稚園などでの利用も想定し、ホワイト、アイボリー、ライトグレー、ライトブルー、ライトピンクの標準5色を揃えました。

基準色は5色から構成
――どのような現場での導入を想定されていますか。
熊野氏 まずは、ビニールクロスを多用しているマンションです。クロスの張り替えではなく、上から塗装するという新しい選択肢を提案したいです。高気密でカビや臭気がこもりやすいマンションの課題解決に貢献できると考えています。
また、臭気が発生しやすい医療施設や老人福祉施設も有望です。これらの施設では排泄物などに由来するアンモニア臭が課題となっており、高い消臭効果を持つ本製品が最適です。
その他、大空間で臭いや湿気がこもりやすく、結露によるカビが発生しやすい物流倉庫や、ホテルなどの宿泊施設にも提案していきます。さらに、美術館や地下駐車場など、コンクリートから発生するアンモニア臭の低減にも効果が期待できます。

応接室天井に使用
“塗り替え”で実現するサステナブルな未来
――今後の展望をお聞かせください。
棚橋氏 本製品はフジタ様との共同開発品ですので、まずはフジタ様の現場で実績を重ねていきます。そこで得られた知見やメリットを元に、他のゼネコン様にも展開していきたいと考えています。当社の全国的な支店網を生かし、今年度中の全店展開を目指します。
熊野氏 近年の酷暑や激甚化する風水害を前に、CO2削減はもはや掛け声だけでは済まされません。「ジオアース300Fクリーン」を通じて、クロスを安易に廃棄するのではなく、塗り替えて再利用するという選択肢を広めたいです。汚れたら張り替えて捨てる、というサイクルから脱却する。そうした地道な努力の積み重ねが、持続可能な社会につながると信じています。
学校でも脱炭素の授業が始まっていますので、機会があれば、建材という身近なものから環境問題を考える「出前講座」なども行っていきたいですね。この製品をきっかけに、少しでも多くの方の意識が変わることを願っています。
なお、今回、株式会社フジタ東京支店・首都圏土木支店の天井部分に使用しました。9月に東京支店・首都圏土木支店が移転し、それに合わせ、受付と応接室、ロビーの天井部分にジオアース300Fクリーンを採用しました。
色はアイボリーで、シックなイメージの落ち着いた空間となりました。今回の仕上げ方法は、天井の部材のパテ処理の後、シーラー施工をせずジオアース300Fクリーンを塗装ローラー2回塗りで仕上げました。施工中は塗料独特の臭気もなく、ダクト等を使用した特別な排気は行いませんでした。その点でも優れた性能を発揮しました。
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