兵庫県加古川市に本社を置くハウスメーカー、株式会社三建。創業以来、高断熱・高耐震の性能住宅を追求し続けてきた同社は、ここ数年でさらなる進化を遂げている。断熱性能においてはHEAT20のG3レベル(断熱等級7)を超えるUA値0.2以下の住宅を商品化。未来を見据え、「2050年基準」の性能を今から実現するという強い意志を込めた「2050 STANDARD HOUSE」をミッションに掲げる。
さらに、近年ではM&Aを積極的に推進。実績豊富な大阪の畑中工務店、高品質な建築技術で評価を受ける名古屋の安藤建築がグループに参画。本社中心の加古川、神戸、大阪、名古屋と営業拠点が拡大し、これにより関西・東海エリアでのサービス提供がより一層充実した。
性能への飽くなき探求と、事業拡大。その戦略の裏側にある想いについて、同社の中澤博明副社長に話を聞いた。
創業時から続く、断熱性と耐震性へのこだわり
――まず、三建のこれまでの歩みについて教えてください。
中澤博明氏(以下、中澤氏) 当社は1978年に設立されました。創業者は2000年以前から外断熱による高気密・高断熱住宅にこだわり、高性能断熱材「ネオマフォーム」で屋根、壁、基礎を隙間なく包む工法を導入し、完全外断熱を実現しました。当時からすでに断熱等級6をクリアしていました。
耐震面では、木造住宅の柱と梁を強固に接合するラーメン構造を導入した「SE構法」を採用しています。これにより、高い安全性を確保しながら、柱や間仕切り壁の少ない開放的な空間づくりを可能にしています。

三建副社長の中澤博明氏
――かなり早い時期から「ネオマフォーム」工法を導入されていたのですね。
中澤氏 はい。この工法は、高性能な断熱材で建物の外側をすっぽりと覆う「外張り断熱」で用いられ、非常に高い断熱性能を実現します。製造元である旭化成建材によりますと、日本国内のハウスメーカーで「ネオマフォーム」工法を標準採用したのは当社が初めてだそうです。

「ネオマフォーム」工法を早期に導入
――貴社の事業規模と、現在の経営体制になった経緯についてお聞かせください。
中澤氏 現在、会社全体で年間約170棟を施工しています。11年前に創業者が高齢を理由に事業譲渡を決断され、大阪の建材商社である株式会社イワイが当社をグループに迎えました。その後、ご縁があって住宅設備メーカー出身の川口雅己が社長に、ハウスメーカー出身の私が副社長に就任し、現在の体制となりました。
G3レベルを超える、未来基準の性能へ
――近年、住宅性能への注目がさらに高まっています。貴社の取り組みはいかがでしょうか。
中澤氏 私たちは3~4年前から、性能住宅への取組みをさらに強化しています。10年後を見据えたG3レベル(断熱等級7)のモデルハウスを「加古川」「姫路」「広畑」の3拠点で公開しました。しかし、そこで満足することなく、さらに高みを目指し、G3レベルを超えるUA値0.2以下の住宅を商品化しました。次に建設するモデルハウスは、このUA値0.2以下の仕様になる予定です。

加古川モデルハウス「mamadori ~ママの夢を叶える~」
――そこまで徹底して性能にこだわる理由は何でしょうか。
中澤氏 ご家族の健康を守るためです。高断熱住宅は夏は涼しく冬は暖かく、生活の質を豊かにします。最近では、近畿大学の研究で、室温の低い住宅が健康に悪影響を与えるというデータも発表されています。私たちは、高断熱住宅に住むことが健康維持に繋がるという点を強くアピールしていきたいと考えています。
「繰り返す地震」から家族を守る、もう一つの強み
――断熱性能と並ぶ、耐震性へのこだわりについて詳しくお聞かせください。
中澤氏 私たちは、繰り返す地震への強さも重視しています。そこで採用しているのが、面材・断熱材・間柱・枠材が一体化し、地震の力を面全体で受け止め、分散させることで高い強度を実現する「コーチパネル」です。このパネルは、現行の耐震基準(震度6強~7で倒壊・崩壊しない)を上回る性能を持つだけでなく、繰り返しの揺れを受けても耐力が落ちにくいのが最大の特長です。
コーチパネルは、住宅の内壁パネルを製造・販売しているコーチ株式会社が開発した商品ですが、兵庫県内では三建のみが採用しています。木造住宅の弱点として、従来の筋交いは、阪神・淡路大震災級の地震を数回受けると、接合部が損傷します。また、大壁パネルも大きな揺れを繰り返し受けるとビスや釘を打っている部分が破壊されます。そのため、木造住宅は繰り返しの地震に弱いと言われてきました。
私自身も阪神・淡路大震災を経験し、その後の大きな地震災害を目の当たりにする中で、「繰り返しの地震でも倒壊しない装置」の必要性を痛感していました。そんな時に出会ったのがコーチパネルで、他社との大きな差別化に繋がっています。

コーチパネルで繰り返しの地震に耐えられる
――中澤副社長ご自身の経験が、家づくりへの想いの源泉になっているのですね。
中澤氏 ええ。私自身が20年前に家を建てた経験も大きいです。30年以上の住宅ローンを組むのが珍しくない時代になりましたが、ローンを払い終えた頃には家が劣化し、さらには基準も古くなって「既存不適格」扱いになる可能性がある。この懸念をずっと抱いていました。だからこそ、将来の基準を先取りし、余裕を持った設計で、何十年経っても陳腐化せず、将来にわたって安心して暮らせる住宅を提供したいのです。
――性能という点では、GX(グリーントランスフォーメーション)志向型住宅にも注目が集まっています。
中澤氏 実は、当社の標準仕様はすでにGX志向型住宅の要件に合致しています。改めて仕様をアップする必要がないため、その点をプレスリリースで発表しました。GX志向型住宅は再生可能エネルギーの活用や高断熱・高気密設計、最新の省エネ設備などを組み合わせた、環境負荷の少ない次世代型住宅を指し、要件として①断熱等性能等級6以上②再生可能エネルギーを除く一次エネルギー消費量削減率35%以上③再生可能エネルギーを含む一次エネルギー消費量削減率100%以上④高度エネルギーマネジメントシステムの導入の4点をすべて満たす必要があります。
「子育てエコホーム支援事業」といった補助金制度の対象となり、2025年度では最大140万円の補助を受けることができます。お客様にもこの制度を積極的にご活用いただいています。
――性能への強い思いが伝わってきます。
中澤氏 「2050年基準の高性能な家を今からつくっていく」という強い覚悟を込め「2050 STANDARD HOUSE」をミッションに掲げています。ハイスタンダードな家づくりに取組んでいます。これは、世界レベルの2050年基準をクリアする住宅を、新築・リフォームに関わらず時代を先取りして提供していくという決意表明です。
――そのミッションに関連するプロジェクトにも参加されているそうですね。
中澤氏 2050年カーボンニュートラルの実現を目指し、標準となる住宅のあり方を考え、学び、情報共有を行う「2050 STANDARD HOUSE PROJECT」に参加しています。近畿大学の岩前篤教授監修のもと、断熱性、耐震性、省エネ性を重視した家づくりを通じて、人々の健康と住宅の未来をより良くしていくことを目指しています。
関連サイト:「2050 STANDARD HOUSE PROJECT」
M&Aで商圏を拡大。関西・東海エリアでも高品質な住宅を
――話は変わりますが、畑中工務店と安藤建築をグループに迎えた狙いは何でしょうか。
中澤氏 三建が培ってきた高性能住宅を、より広いエリアで提供するためです。会社の規模を拡大する上でM&Aは最も効果的な手法だと考えています。例えば大阪に進出するにしても、人材集めなどからスタートしなければなりません。実績のある企業に参画していただくことで、私たちが目指す「安心できる住宅」を、より多くの方にお届けしたいのです。そこで、大阪の畑中工務店、名古屋の安藤建築が参画することになりました。両社とも規模的には年間10~20棟を施工しています。また、オーナー会社であるイワイにとっても、拠点が増え、販売棟数が増えると、建材の販売増にも繋がり、グループ全体の相乗効果が期待できます。

――後継者問題もM&Aの背景にあったのでしょうか。
中澤氏 はい、畑中工務店も安藤建築も後継者不在が課題でした。M&A後、畑中工務店は当社の「大阪南支店」となり、新たな支店長への引き継ぎが完了しました。安藤建築は「名古屋支社」となり、こちらも新しい支社長の採用が決まり、スムーズに後継者へとバトンが引き継がれました。
――グループに加わった2社の今後の展開は?
中澤氏 大阪南支店(旧畑中工務店)は、三建本社の仕様の住宅を提供する方針です。一方、名古屋支社(旧安藤建築)は、当面は従来の住宅を提供しつつ、段階的に三建の仕様へと移行していく計画です。
中澤副社長 元々、畑中工務店や安藤建築が人材採用を行う際、小規模な企業なため、難しい面もありました。それを三建が採用することで人材採用もうまくいっています。元々、単独で採用活動をするよりは三建全体での採用活動する方が望ましい。次に土地購入でも資金の問題で厳しい面もありましたが、三建本体から資金を提供することでスムーズに進み、一緒に事業を行っている効果は、十分あります。
――M&Aによるシナジー効果は、具体的にどのような形で表れていますか。
中澤氏 たとえば、人材採用の面は大きいですね。これまで畑中工務店や安藤建築は会社の規模から採用に苦戦することもあったようですが、三建本体が採用活動を行うことで、良い人材が集まりやすくなりました。また、土地の購入といった資金面でも、三建本体から資金を提供することで事業がスムーズに進むようになり、グループとして事業を行う効果は非常に大きいと感じています。
――ハウスメーカーや工務店業界でも吸収合併が増えると考えていますが、貴社がM&Aに求めるものは何でしょうか。
中澤氏 戸建て住宅業界では、合理化が進み、規格住宅やセミオーダーなど合理化・効率化へのシフトが進んでいます。また、中には注文住宅を謳いつつも、実態はそうではないように見える取組みをされているハウスメーカーもあります。しかし、私たちの家づくりは、完全外断熱や丁寧な注文住宅といった、いわば手間のかかるものです。だからこそお客様に評価していただけていると自負しています。1棟あたりの利益をしっかりといただきながら、お客様からの要望にしっかりと応えるための家づくりを横展開していけるかどうかを重要視しています。
――今後のM&A戦略についてもお聞かせください。
中澤氏 兵庫と大阪南部に拠点があるため、地理的には大阪北部や大阪市周辺、そしてベッドタウンである奈良県に関心があります。今後もアンテナを張り、良い会社があれば積極的にM&Aを検討していきたいです。
住宅事業で培った強みを活かし、非住宅・公共建築へ

――最後に、今後の事業方針とビジョンについて教えてください。
中澤氏 売上高では2030年には現在の70億円から120億円と考えております。その目標達成に向け、拠点を増やし、各拠点での棟数を増やします。さらにはこれまでは戸建て住宅のみの事業でしたが、多角化にも着手。2024年からアパートや不動産事業にも取り組みを開始し、今後の展開では高齢化福祉施設などの非住宅建築や公共事業への参入にも挑戦していきたいです。高齢化福祉施設では味気ない建築と感じていますので、三建の得意な木質感、つまり内装でも木をふんだんに使い、性能に優れている点を強調したいです。
売上高の目標として、2030年までに現在の60億円から100億円への成長を目指しています。その達成に向け、各拠点の建築棟数を増やすとともに、事業の多角化にも着手します。2024年からはアパート事業や不動産事業を開始しました。将来的には、高齢者福祉施設や保育園・幼稚園などの非住宅建築や公共事業にも挑戦していきたいと考えています。子どもや高齢者は室内環境の影響を受けやすいため、私たちが得意とする木をふんだんに使った内装や、優れた性能が活かせると考えています。とくに、木には肌触り、暖かみなどがあり、木目が気持ちを和らげる効果もあります。木の香りやにおいも気持ちを穏やかにします。公共工事については、各自治体の入札に積極的に参加し、実績を積み上げていきながら、木のよさや魅力を多くの建築で伝えていきたいですね。
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