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関東大震災100周年を契機に、100年後に通用する「建築の新常識」を提示【建築学会】

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長井 雄一朗
公開日:2023.09.14
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日本建築学会 竹内徹会長

日本建築学会 竹内徹会長

目次
  1. 竹内会長が問う「日本は脆弱な文明を築いたか」
  2. 「皆が幸福で健康で長生きできる社会」を目指す
  3. 「免震構造を建築の基本とすべき」と提案

日本建築学会は防災の日に当たる9月1日に、東京都・港区の建築会館で関東大震災100周年シンポジウム「100年後の日本の建築・まち・地域」を開き、オンライン参加を含めて約650人が出席した。

関東大震災100周年を契機に、日本建築学会は「関東大震災100周年タスクフォース」(主査・川口健一副会長)を設置。提言「日本の建築の新常識(案)」を作成中で、同シンポジウムではドラフト段階の内容を公表した。

提言では、現在の課題を列記するのではなく、関東大震災以降の過去100年間の進歩や経験を俯瞰しつつ、100年後の建築の理想を見据えて分かりやすい言葉で表現する。意図としては、100年後も変わらないであろう、目指すべきゴールを明確にし、共有する。一歩先の常識あるいは、実際はできていない常識を「新常識」として示す。

100年後の建築が対峙し続ける課題を「人と自然と時間」とし、100年後の建築はこれらの課題に向き合い、人々の幸せを実現する視点に絞り、未来の建築像を提言する。

竹内会長が問う「日本は脆弱な文明を築いたか」

シンポジウムでは冒頭、竹内会長からの挨拶から始まった。

「今年2月にトルコ・シリアで大きな地震が発生した。日本ではなかなか見られない、”パンケーキクラッシュ”といわれる壊れ方が相次いだ。そこで、ここ数か月の間に、トルコの有力メディアから取材やインタビューを受けた。その際、『関東大震災から100年を経て日本はどのような耐震基準を策定し、耐震技術を進化させてきたか』について聞かれた。日本は巨大地震が発生する度に設計基準、指針や技術も進化させてきた経緯がある。その経緯と最新の免震技術や制震技術の応用と普及の動向について説明したが、トルコのメディアからは、”さすが日本”と大変感心された。

しかし一方、我々は自信を持ち続けてよいのかと改めて感じる。武村雅之名古屋大学特任教授から次の講演で詳細な説明があるが、明治維新以降の産業都市化政策が都市の基盤整備をしないままに、無計画な発展を許し、これが関東大震災の大被害に結び付いた。関東大震災以後には防災を意識した復興計画を行い、近代国家にふさわしい首都の姿が実現した。しかし第二次世界大戦により焼け野原になり、その時は経済に任せた都市形成が際限なく続き現在に至った。

たとえ進化した耐震設計を厳密に適応し、個別の建物の倒壊は免れたとしても災害時には多くの心配事がある。たとえば都内に林立する高層ビルやマンションの居住者が電力や水道が止まった状態で、復旧までの期間をどう生き延びていくか。

巨大地震だけではなく最近、激甚化している豪雨や洪水などによって自宅にいられなくなるケースもある。具体的には江東5区(墨田区・江東区・足立区・葛飾区・江戸川区)の住民は荒川、隅田川や江戸川などで大規模水害が発生した場合、一体どのように江東5区住民が避難するのかについて具体的なイメージを持つことはできない。地方では少子高齢化や過疎化が進展しているが、広域にわたって襲ってくる津波に対してどのように短期間で避難するのか。これは地域コミュニティ任せになっていないだろうか。

また災害の度に発生する大勢の避難者をいったん仮設住宅に避難させて再び街を復興させる経済的な負担や大量に発生する廃棄物の処理など災害が発生する度に行うのでは経済的に縮小していく地域にとっては、負担になる。そこで我々は気が付かない内に脆弱な文明を築いてしまったのかと感じる。

「東京は再び地震に怯える都市に転落した」 関東大震災の復興整備から街づくりを再考する【関東大震災100年シンポ】

「皆が幸福で健康で長生きできる社会」を目指す

100年後の日本の生活を考えることは容易ではないが、わかっていることは日本の人口は5000万人を割り込む。100年後の日本はアジアの小国になっていても高い文化と災害体制を有した地域となっていくために、我々はどのような哲学を持ちライフスタイルやビジネススタイルを構築し、街づくりを行うべきか。そして行き過ぎた状況を少しずつ無理のない姿に戻していくためにどのような方針で行けばいいのかという長期的なグランドデザインについて本日は少し長い視点と想像力をもって思いを巡らせてほしい」

そして、武村雅之名古屋大学特任教授の「関東大震災と100年目の東京」の講演の後、川口健一副会長が「日本建築学会からの提言」と題して、「日本の建築・まち・地域の新常識(案)」のドラフトを次のように解説した。

川口健一副会長

川口健一副会長

「関東大震災以降の日本は第二次世界大戦と戦後復興、高度成長、バブル景気を経てきたが、この時代には大量の住戸の供給やインフラを整備し、モノを大量に供給し、後先を見ずに拡大を進めてきた。その後、失われた30年を経験し、現在に至っている。

関東大震災100周年を迎えて今、我々は気候変動、脱炭素社会、CO2排出量の問題、地震・風水害、土砂災害の激甚化、さらには少子高齢化、格差社会、ウクライナ戦争など目の前に課題が山積している。そこで我々はこれからどうすべきか。日本建築学会として何ができるか、ともに考えたい。せっかく100年前を振り返ったのだから、その知見を活用し、100年後に希望の持てる目標を立てたい。

それは実に簡単なことで、「皆が幸福で健康で長生きできる社会」を目指すことだ。これは、100年前から変わっていないだろう。こうした目標をちゃんと設定しなければ、目標の到達まで遠回りする可能性がある。

少子高齢化では、国の予算も縮小する中で選択と集中で進めていかなければならない。そこで我々がどこを目指すかを確認することが肝要だ。そこでモノから人が中心になっていく時代になる。それは生活の質であり、幸福感という見えないものであるが、画一的な社会ではなく多様性な社会への転換が重要になっていく。毎日が健康で幸福感に満ちていくためにどうデザインしていくかが建築の問題だ。

「建築・まち・地域」といえば防災の話になりがちだがそうではなく、日々の我々の幸せのためにある。さらにその先に健康で幸せで長生きできる社会へと向かっていかなければならない。そのためになにができるかを提言に盛り込みたい。提言のメインは次の文言に集約している。

『我々は、皆さんと共に以下のような100年後の理想的な建築・まち・地域を目指すことを提案する。「理想的な建築・まち・地域」はいつでも、全ての人々が幸福に、健康に、長生きできる暮らしを支える。同じ地域にいる多様な人々の結びつきや支えあいを育み、促進する。非常時にも、住み手や利用者を守り、速やかに平時の生活に戻る強い助けとなる。災害への備えがある建築・まち・地域は社会に評価される。更新優良化していくことで建築の価値も上がり、地域の評価も上がる。世界のお手本となり、世界の人々を幸せにする。』

上記を実現していくために、なにをしていかなければいけないか、あるいはやっていかなければならないが出来ていない常識を「新常識」と呼び、「住まい手・利用者・管理者」「地域の一員」「作り手」「都市防災(市民・企業・行政)」「地域の行政・議会」「社会」「教育」の7項目の新常識を設定した。」

「免震構造を建築の基本とすべき」と提案

この7項目はそれぞれ詳細にまとめられているため、現場監督によりフォーカスすると、「作り手の新常識」が最も重要な内容になるだろう。この作り手は建築家、ゼネコン、工務店などが考えられるが、これからは新築で評価されるよりも、30~40年後に住民や地域社会から評価される建築を目指していかなければならない。

新築ではファッショナブルなデザインも良いとしつつも、住民を健康で安全に守る視点が建築の価値になっていく。次に低コスト・環境負荷で持続的に皆が環境を享受できる建築が重要となる。これは環境工学が非常に発展しており、これを建築に導入することで日々健康な生活を営むことに繋がっていく。

また、重要なポイントでは、大地震後も損傷なく、住み続けられ社会的損失を減らす、免震構造を建築構造の基本とすべきと提起した。現在、建築では耐震技術に視点が注がれており、耐震構造は人の命を守る役割を果たしてきている。しかし、耐震構造は建築が壊れないことを意味せず、巨大地震が発生すれば、仮設住宅への避難を余儀なくされる。あるいは建物の骨組みが壊れなくとも、内装材が危険な状態になると、それだけで公共施設が長期間使用できなくなり、復興予算も大きくかかるため、耐震から免震構造への転換を提案した。

今後、日本建築学会は、過去の100年から未来の100年先へ、新しい充実の時代を実現するための目標となる建築像を共有していく。

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この記事を書いた人

長井 雄一朗
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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
関東大震災100周年を契機に、100年後に通用する「建築の新常識」を提示【建築学会】 関東大震災100周年を契機に、100年後に通用する「建築の新常識」を提示【建築学会】

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