社風で決まるゼネコンの年間給与
某ゼネコンOBで、今は都内の地方公共団体に勤務している人は、こう述べる。
「このランキングを見て、興味深いと思ったのは、社風が出でいる点ですね。バブル崩壊後は社風なんてものはなくなり、一斉に給料が下がりましたが、最近、建設業界の好調を受けて再度、各社の社風が戻ったような気がします。私も労働組合にいて、給与について文句を言ったことがありますが、最終的には社風で押し切られたことがありました。ほかのゼネコンの労働組合とは横のつながりがありますから、話を聞いてみると、見えない社風によって給料が決まるって感じです」
参考までに建設業の売上高ランキングも載せるが、ゼネコンの年間給与ランキングは売上高と必ずしも一致しない。その理由には、会社の社風や、10年後の経営を考えた場合の給与アップに対する抵抗感があるようだ。
建設業売上高ランキング(2017年)
会社名 | 分類 | 売上高(約) |
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大和ハウス工業 | 最大手ハウスメーカー | 3兆5129億900万円 |
積水ハウス | 最大手ハウスメーカー | 2兆269億3100万円 |
大林組 | スーパーゼネコン | 1兆8727億2100万円 |
鹿島建設 | スーパーゼネコン | 1兆8218億500万円 |
清水建設 | スーパーゼネコン | 1兆5674億2700万円 |
大東建託 | 建設・不動産会社 | 1兆4971億400万円 |
大成建設 | スーパーゼネコン | 1兆4872億5200万円 |
住友林業 | 大手ハウスメーカー | 1兆1133億6400万円 |
長谷工コーポレーション | 大手ゼネコン | 7723億2800万円 |
日揮 | 建設・エンジニアリング会社 | 6931億5200万円 |
千代田化工建設 | 建設・エンジニアリング会社 | 6037億4500万円 |
五洋建設 | 大手ゼネコン | 5003億3600万円 |
きんでん | 総合設備工事会社 | 4725億9100万円 |
関電工 | 総合設備工事会社 | 4709億4300万円 |
東洋エンジニアリング | 設備工事・エンジニアリング会社 | 4319億1700万円 |
戸田建設 | 大手ゼネコン | 4227億2200万円 |
前田建設工業 | 大手ゼネコン | 4225億8700万円 |
安藤・間 | 中堅ゼネコン | 4079億9400万円 |
三井住友建設 | 大手ゼネコン | 4039億800万円 |
ミサワホーム | 大手ハウスメーカー | 3998億5300万円 |
下請けや地域建設企業の給料アップはまだ先?
では、ゼネコンの下請け企業の給与はどうか?
どうやら下請けの給与は改善されそうだが、末端の生産労働者になるほど厳しいと言う見方が強い。
現在、建設専門工事業団体からも、日給月給から月給制への移行が提言されている。建設産業専門団体連合会(建専連)の才賀清二郎会長が「月給制に移行したい」と語るなど、建設専門工事業界も動いている。
「建設専門工事業者からは、ゼネコンの選別が本格化しています。なるべく条件の良いゼネコンの工事を請けたいという動きが本格化しています。下請法もあり、ゼネコンも下請の囲い込みと言うことで条件を改善していく方向になっていくと考えます。ただ、下請けは下にいけばいくほど厳しく給与アップは難しいかもしれません」(坂田氏)
つまり、下請けでも第一次下請けであれば恩恵を受けるが、下に行けば行くほど給料アップが望めないという見立てだ。
同時に、地域建設企業の給料アップは、まだ先になるとも言う。
「地域建設企業の給料アップは、なかなか難しいと思います。受注単価の利幅を考える上で、同業者との競合もあり、ダンピングもあるのなかでの賃金アップや就労改善には時間がかかります。人手確保も難しいです。大手企業の給与は伸びても、地域建設企業の給与が上がるまでには時間がかかります。特に家族経営でやっているような建設会社は厳しいでしょう。本来小さい会社まで待遇が改善されれば良いのですが、それは理想論です」(坂田氏)
下請けや地域建設企業の給与アップはまだ先という見方だ。
建設業の給与と働き方改革の行方
大手と地域の格差はますます拡大する傾向にある。
「3.11の東日本大震災の復興の時は、東北に人が集まり、今度は東京に人が集まっています。現在、大規模開発が続く東京一極集中化が進んでいます」(坂田氏)
当然のことながらこうした状況が続けば、地域建設企業から大手への転職の動きは避けられない。人の流動性はますます上がっていく傾向にあるだろう。
「技術者に関しては、今以上に資格が大きな影響力を持ってくると思います。施工管理技士などの資格者の正社員化が進む一方、今後は常に抱えていくことも難しくなってくるでしょう。地方から出てきて働く技術者も増え、派遣社員化も進むはずです。働き方の多様化が建設業界でも進みますが、技術者の資格制度がキーポイントになるでしょう」(坂田氏)
建設業界の年収アップとともに、施工管理技士・現場監督などの派遣単価もアップしているという。さらには東京一極集中が進む中、派遣という生き方を選択する施工管理技士も増えている。ゼネコンは正社員への投資は一服感がありつつも、人手不足の中、派遣に頼らざるを得ない局面もある。
建設業界はおおいなる宴の中で、総合的な戦略打ち立てているが、その影で経験や能力を問わず「人材確保」という側面から、苦悶にあえいでいる。さらには、下請けや地域建設企業が給料アップに踏み切れない現実の中、建設業界は着実に二極化が進んでいる。