全国の工業高校、建設企業、専門工事業者にヒアリング調査
——『建設企業が行う工業高校生採用活動の取組事例集』を作成した背景は?
建設業振興基金 建設業界の担い手確保のために、建設企業と工業高校の連携を強化するのが目的です。工業高校の生徒が就職先を検討する際、建設業が有力候補になって欲しいとの願いから作成しました。
一般的な工業高校は1クラス40人で、建設業に就職するのはその半分強と言われています。しかし中小の建設企業の採用活動は、一生懸命に取り組んでも、なかなか実を結ばないという実態があります。
そこで「どうすれば中小企業が工業高校から優秀な学生を採用できるか」という問題意識から、建設業振興基金が横断的に、全国の工業高校、建設企業、専門工事業者にヒアリングを実施。建設企業の優れた採用の取り組みや、工業高校の進路状況などをとりまとめました。
——工業高校を対象とした調査は初めて?
建設業振興基金 調査の目的は異なりますが、今回で2回目になります。建設業振興基金は、建築施工管理技士と電気工事施工管理技士の技術検定試験を実施している機関です。一昨年、資格制度改正に伴い、工業高校生(17歳)でも2級建築施工管理の学科試験を受けることが可能になったのですが、合格率が高い工業高校とそうではない工業高校が二極化していました。そこで1回目の調査では、全国の工業高校の生徒がどのようなカリキュラムで教育を受けているのか、教師がどのような教育方法で建設業界へ生徒を送り出しているのかを調べました。
——どのようなデータが出た?
建設業振興基金 一般社会人の合格率は40%台ですが、長崎県の工業高校でズバ抜けて合格率が高いことがわかりました。
優秀な建設技術者を輩出する「長崎県の工業高校」
——なぜ、長崎県の工業高校が?
建設業振興基金 長崎県の工業高校では、生徒たちを100%建設業に就職させることを意識した教育をしているため、資格取得にも注力しています。長崎県の教育委員会も、熱心にカリキュラムを組み、生徒を建設技術者・技能者として社会に送り出そうという姿勢が明確です。これが本来の工業高校のあり方なのかもしれません。
もちろん、公務員に就職したり、大学に進学したりする生徒もいますが、長崎県は造船業が盛んな土地柄なので、手に職を付けることを重視し、技術者育成に力点を置く風土的背景もあるのでしょう。
——他県の工業高校とは、どう違う?
建設業振興基金 たとえば、長崎県内の先生方は、大村工業高校に集まって専門工事業の技能者から技能を習い、自分で技能習得した後、生徒に教えています。他県では、専門工事業者の技能者が生徒に教えるのが大半ですので、いかに教育熱心かお分かりになると思います。
また、他の県では、優秀な先生がいても、その先生の個人プレーで終わってしまっていることが多いです。しかし長崎県の工業高校の先生たちは「建設業に就職させる」というスタンスにブレがありません。そのため資格試験の合格に向けた姿勢も強いことがわかりました。
建設業振興基金としては長崎県以外でも、工業高校生の教育は就職を前提とすることを、ぜひ打ち出して欲しいと願っています。早い時期から社会に出て、建設業に就職していただくことで、担い手の確保、建設業の若返りにつながると期待しています。
——長崎県の建設企業は、高校生を採用しやすい?
建設業振興基金 いいえ。工業高校40人(科)の学生に1,000社近くの求人が来ます。ですから、求人票を出しただけでは、ほぼ採用できません。「ウチには若い子が来なくて」と嘆く建設企業もありますが、学校に顔を出し、先生と生徒の信頼を得ることが必要です。「卒業生が頑張って活躍していますよ」とコミュニケーションを取るなど、工業高校側と真摯に向き合っている企業が採用に成功しています。