職人のプライドを底上げする。建設職人甲子園理事長の思い
――まずはじめに、鈴木さんはどのような経緯で理事長になられたのですか?
鈴木 当初、初代理事長の小山宗一郎さんから理事になってほしいと、直接頼まれたんです。初めて内容を聞いたときは胡散臭さしか感じませんでしたが(笑)。
一方で私自身も、建設業界に長く身を置く者として、さまざまな不満や葛藤を感じていたので、その点で共感し、理事としての活動期間を経て、2代目理事長を引き受けました。
――「さまざまな不満や葛藤」とは、建設業界に対する周囲からのイメージに関することでしょうか?
鈴木 いや、私は感じていたのはどちらかというと建設業界の仕組みや職人自身の意識についての不満です。私は栃木県の那須塩原市で戸建住宅の新築・リフォーム・分譲を行う工務店「タムラ建設株式会社」を経営しています。うちの会社は以前はゼネコンのように、型枠大工も鉄筋工事も屋根の工事も、職人仕事のすべてを外注に依頼していました。
ハッキリ言って、ゼネコンが儲けるのは簡単なことなんですよね。外注さんに支払う金額を抑える。それだけです。私自身のこの世界に20年以上どっぷり浸かっていましたが、やはりそういう体質がすごく嫌だったんですよね。
だって、自分はもともと建築が好きで職人から上がってきたわけですから。営業や企画、設計など、ゼネコンがやることも立派な仕事ですが、業界の構造が職人達のプライドを低下させているということは明確です。
建設職人甲子園は、職人達が仕事への誇りを取り戻し、自分の足で立つことがテーマ。周囲のせいにするのではなく、まずは自分たちが意識改革を起こし、その姿をプレゼンテーションの場で発信することで、後から業界としてのイメージも変わっていくのだと思います。
――実際、タムラ建設も仕事のやり方を変えたのでしょうか?
鈴木 そうですね。建設職人甲子園が始まるずっと前……今から15年くらい前に企業体質の改革をして、私が社長になってからは「職人がいるゼネコン会社」を目指しました。そして、現在は自社で全ての職人を抱えて育てています。当時全ての職人を社内育成している会社なんて他になく、かなり画期的でした。
――職人を社内育成することで売値も安くできたりしたのでしょうか?
鈴木 いや、その逆です。うちの金額はハッキリ言って他社より高いです。理由は簡単。まず、建設にかかるコストは、「材料費」と「経費」と「職人の手間賃」、この3つしかないんですよ。大手ゼネコンでも、うちのような中小の会社でも「材料費」と「経費」はほとんど変わらないので、売値の違いに大きく影響するのは「職人の手間賃」。15年前に外注を使っていた時は、日当1人8000円とか、それ以下の職人さんが作業していました。
日当8000円って……本物の職人が仕事を受ける金額ではなく、アルバイトレベルですよね。品質を担保できるわけがありませんでした。現在は仕事を受けるとき、うちの職人は最低でも日当1万6000円で予算を立てます。日当1万6000円というと先ほどの倍ですが、年収で考えるとだいたい400万円弱くらい。一人前の職人が年収400万円弱ですよ。これが高いですか?ということです。ここまでお客さんに話をすると大体わかってくれます。
――「企業の意識が変われば職人のプライドが取り戻せる」ということはタムラ建設が実証済みというわけですね。
鈴木 そうですね。しかしそれだけではなく、職人一人一人の意識も一緒に変わることが重要。日本の職人は昔から奥ゆかしいので、自分の意見を主張したり、自分の価値をアピールすることが苦手なんです。それは美しさでもありますが、今こそ人前で声をあげる時だと思います。
現実に目を背けてはならない。綺麗ごとでは変えられない。
当たり前のことをストレートにやっていると思う。