スーパーゼネコンも買収したがるメガ下請会社
前澤社長といえば、ZOZOTOWNの前澤友作氏が有名だが、建設業界にも注目すべき前澤社長がいる。
建設職人を量産し、将来株式上場を目指すリアル建設株式会社の前澤正利社長だ。
リアル建設は土木工事、上下水道工事の専門工事会社だが、スーパーゼネコンから買収したいというM&Aの誘いも多い。
一般的な建設業の下請会社は家族経営が多いが、リアル建設は「メガ施工会社」という拡大路線を打ち出し、会社経営の安定化を狙っている。
2016年にはベトナム技能実習生の教育機関もホーチミンに創設している。
今回、建設業界における机上の空論ではない現実の問題点や、リアル建設の経営方針について、前澤正利代表取締役に聞いてきた。
下請依存と机上の現場管理
――今の建設現場の問題点は?
前澤 元請の現場監督の能力が低下しており、下請に依存していることを実感しています。下請に入る現場では、どこでも同じ課題が散見されます。
ゼネコンやハウスメーカーでも現場は「段取り八分」です。その段取りがうまくいっていないため、別の工事の下請とバッティングして仕事ができないことが多々あります。その結果、工期が伸びてしまったケースもあります。
――現場監督のスキルアップが必要だと?
前澤 これから建設職人が大量に離職するので、元請の現場監督は現場対応力の底上げは必須です。現場監督自身も施工能力を身につけるために、建設職人と一緒になって施工の経験をしたほうがいいでしょう。
現場での経験値を上げていけば、リーダーシップも発揮できます。今までのような机上の現場管理も大事ですが、何よりも現場力を身につけることが大切です。
専門工事会社で生き残るメガ施工会社
――これからの専門工事会社は、どんな道を模索すべきでしょう?
前澤 高齢化に伴い約110万人の建設技術者・技能者が引退すると言われています。大量離職時代に若年層を確保するためには「やりがい」「居心地」「将来のポスト」を、ゼネコンでも専門工事会社でも充実することが肝要です。
現在、専門工事会社には家族経営が多いですが、そういう昔ながらの専門工事会社には、もう若い方々は入社することが少なくなっていくと思います。
――同族経営や家族経営に代わる、将来の専門工事会社の経営のあり方は?
前澤 リアル建設では、建設職人を量産する「メガ施工会社」を目指しています。日本国内では川崎と埼玉に「建設技術・機械操作研修センター」を設置し、2016年10月にはベトナム・ホーチミンにも開校しました。近日中にハノイにも開校予定です。
職人を量産するだけでなく、質も向上させていく専門工事会社として、将来、株式上場も目指しています。上場で得た資金でさらなる研修の充実を図っていく予定です。
今はまだ土木工事(上下水道、電線共同溝、一般土木、舗装)が中心ですが、建築にも参入するため、建築の職人も量産していきたいです。そんなチャレンジングな会社が建設業界に1社ぐらいあってもいいでしょう(笑)
実技研修の充実により、建設職人を量産化するリアル建設
――力のある下請会社には期待が高まります。
前澤 建設職人の世界も、元請会社のようにしていくべきです。大量の職人を雇用している「メガ施工」企業になれば、多くの仕事を受注できるようになり、経営も安定します。そうすれば、さらに教育、福利厚生に注力できるようになり、従業員にとってもメリットは大きいです。
実際に、すでに当社は下請だけではなく、東京・神奈川・埼玉における土木工事、上下水道工事では元請も担当するようになってきています。
――専門工事会社の人材不足について、現在の課題は何ですか?
前澤 例えば、元請の現場監督の世界では主任、係長、課長、部長とそれぞれポストがあります。しかし下請けにはそういうポストがありません。下請の世界でも「班長」「OJTが可能な班長」「指導員」のようにポスト形成していくべきだと考えています。
どんどん日本人のベテランが退職していくので、職長のポストも空いていきます。センスが良ければ、若者でも5~6年で職長になれますが、それが専門工事業のゴールだと、若者のやる気も出なくなります。職長よりもさらに上のポストがあれば、若者も希望を持って専門工事業界に飛び込めるのではないでしょうか。
能力を高めれば、給与も含めて新しい道が開けてくる、という新しいビジョンを提示すべきです。その役割をリアル建設が担っています。
専門工事会社の新入社員が増える待遇・研修制度
――建設業界では、職人の「正社員」化を加速させなければ、という課題もあります。しかし現実は、一人親方が増えて、逆行していますよね?
前澤 リアル建設では現在、約260名を正社員雇用しています。若者の入社は毎年15名前後です。若い方は固定給制度です。
一部の方は、日給を希望されますが、それでも有給休暇やボーナスを付与して、なるべく正社員との差が出ないようにしています。職人の待遇や処遇改善をしっかりしなければ、若い方は建設業界には来てくれません。
座学で知識の底上げもはかる
――ここまで建設職人を大事にし、コンプライアンスが成立している専門工事会社は珍しいです。若者の研修も重要ですよね?
前澤 専門工事会社の世界では、新入社員がろくな指導も受けずに、現場をウロウロしていて「お前邪魔!」と先輩に怒鳴られて、辞めてしまうケースも多いです。コミュニケーションと研修がなければ若者は辞めてしまいます。
実は当社でも昔は10人入社したら8人は辞めていました。その反省から入社後3ヶ月間は、現場と同じシチュエーションを再現した研修制度を取り入れています。
「見て覚えろ」ではなく、現場を再現した研修が3ヶ月間なので身体が自然と覚えます。高卒の新卒者には社会人としてのルールの厳守を含めて教えています。
リアル建設の職人の離職率が低い理由は研修とコミュニケーション
――離職率は下がりましたか?
前澤 離職率はとても低くなりました。3ヶ月も研修をしていれば、新入社員の性格や適正も分かってくるので、新入社員と親方が現場でうまくマッチングするようにしています。
現場で建設職人同士の馬が合うことは大事ですから、新入社員の心を「数値化」し、性格の合う人と一緒に仕事をできるようにしています。
心の数値化については、ベトナム技能実習生についても実施し、一緒に働く職長との相性も調べています。さまざまなイベントも開催して、コミュニケーションを大事にしています。
――建設業の危機感とは逆に、ますます新入社員が増えそうですね?
前澤 そうですね。今は、職業訓練学校の認定を受けるために、東京都産業労働局から審査を受けています。審査が下りれば、一般土木、上下水道、舗装の職業訓練学校の看板が出せるようになります。
そうすると、生徒を送り出す学校の先生方も、リアル建設に対する印象・対応がずいぶん違ってくると思います。
日本人もベトナム人技能実習生も「同じ給料」のワケ
――お話に出てきている外国人技能実習生については?
前澤 リアル建設には今、ベトナム人技能実習生が32名います。来年は47名になります。その他にも通訳2名、ガードマン3名を採用しています。いずれもベトナム人です。日本の専門学校を卒業した後、CAD担当者として働いている正社員のベトナム人もいます。
ベトナム人技能実習生の受け入れについては、現地での技能研修が重要だと思っています。普通は日本語の教育を受けただけで来日しますが、当社はベトナムに「建設技術・機械操作研修センター」を開設しているので、そこで1ヶ月半ほど事前に土木の基礎や建設用語、山留めの施工方法、ユンボの操作などを実地で一通り勉強します。
土木の実地の技能研修を受けたベトナム人は、日本の建設現場に出てもビクビクしないで自信を持っています。その自信は日本での「やりがい」「居心地」にもつながります。
ベトナム人技能実習生も現地研修で、仕事の覚えが早い
さらに作業能力を向上していくには、やはり言葉の壁を越えないといけないので、来日後も日本語教育は継続しています。日本人も言っていることが伝わらないとストレスを感じますし、ベトナム人も萎縮して双方が不幸になります。
ベトナム人技能実習生も現地の研修により、仕事の覚えも早い
――ベトナム人技能実習生は逃げないですか?
前澤 基本、ベトナム人技能実習生の給与も、最初から日本人と同じ価格帯にしています。「安く使う」のではなく、日本人と平等に扱って、生産性を上げたほうが現場力は上がるからです。給料も高く、残業代も支払いますし、リフレッシュ休暇を付与してベトナムに一時帰国もさせています。旅費も弊社負担です。だから逃げる問題もないです。
ベトナム人技能実習生は、最低でも高卒以上で、短大卒・四大卒の子も多く、インテリジェンスが高いです。中心的な役割を果たす人材もいるので、実際の能力を見て、上手に扱ったほうがいいです。
――もう一校、ハノイに「建設技術・機械操作研修センター」を設立予定ですが、今後のビジョンは?
前澤 ベトナムに合弁会社を設立して、現地で建設職人を量産していきたいと考えています。そこで当社の技能実習生の経験者を雇用すれば好循環につながります。
土木だけでなく建築にも応用できれば、ベトナム不動産の開発にも参入できるかもしれません。
「インフラサポート協同組合」も設立し、組合員からのベトナム人人材は好評
――前澤社長は「インフラサポート協同組合」という外国人技能実習生の受け入れ機関を設立されました。組合員の反応はいかがですか?
前澤 みなさんに喜ばれていると思います。結局の所、ベトナムでの土木の実地、座学研修が他の組合ではなかなか得られないということです。
組合員も同じく一般土木、上下水道工事に携わる会社ですから、実地を教えてからベトナム人技能実習生が来日するので非常に好評です。
――ありがとうございました。
こんな会社が建設業界にもあるのかー。素晴らしい!外国人であろうと日本人であろうと人として平等に扱う、ここから垣間見れるように人に対して真摯に向き合ってる会社なんだろうな。前澤さん、これからもぜひ建設業界をよくしていくために頑張ってください!