バイトを転々するうちに気付いた「日本の建築物の美しさ」
来日したのはいいが、日本語学校にも通う予定だったため、とにかくお金が無かった。まずはバイトをしなければならない。最初のバイト先は大手回転ずしチェーン。皿をただひたすら洗う仕事は「まるで機械みたいだった」。
お盆の時期になると、日本人のバイトは誰もシフトに入らなかった。当然、仕事が追いつくはずもないのたが、堆く積み上がった皿を見た日本人スタッフに激怒された。2ヶ月で辞めた。
次の職場は、新橋の居酒屋。”サラリーマンの聖地”だけあって、悪酔いしたオッサンたちばかりで辟易した。ここも長くは続かなかった。
最終的には、新横浜にある焼き鳥屋に落ち着いたのだが、気付けば30歳の誕生日を目前に控えていた。見かねた故郷の母親からは「あなたバカなの?これからどうするの?」と連絡があった。
さすがにこのままフラフラしてはいられない。ただ、日本は居心地が良かった。日本語もしゃべれるようになった。このまま日本にいたい。日本で働きたい。いつの間にか、そう思うようになっていた。
肝心のやりたい仕事は見つからなかったが、日本で生活するうちに、あることに気付いた。
「台湾の家は、20年近く経ったらボロボロになる。でも、日本は20年以上経った家でもすごくキレイ」
許さんが社会人時代を過ごした台北は人口集中が進み、建て替えが追い付かず、老朽化した建築物に溢れていた。未だにトタン屋根も多く、見た目にも悪かった。
オシャレでキレイな日本の建築物に魅了された許さんは、インテリアデザイナーを目指し、デザインスクールに入学。日本語でのプレゼンテーションには苦労したが、高級ホテルなどを手掛ける建築事務所にインターンへ行くなど、新たな夢に向けて着実に経験を積んていた。

デザインスクール時代。自身の作品とともに
そして、入学から1年が経とうとした2018年2月。
故郷の花蓮で、大地震が発生した。
台湾は「違法建築の宝庫」
この地震では、7階建てのホテルや12階建てのビル、さらに41棟もの住宅が倒壊。17名の死者を出した。死因は、建物の倒壊による圧死が多くを占めた。
台湾は、「違法建築の宝庫」とも言われる。建築基準法改正以前の手抜き工事や違法建築による建築物の安全性が社会問題となっている。
特に有名なのが「頂樓加蓋」。台湾の住宅は、一戸建てよりも集合住宅が一般的だが、集合住宅の最上階に住んでいる人間が屋上部分に違法に増築する「頂樓加蓋」が極めて多く存在している。
“増築”と言っても、素人がDIYでちょっと手を施したというレベルではない。壁も屋根も造り込み、快適に人も住める。つまり、住人が4階の建物を勝手に5階に増築してしまうものだ。台風や地震など、災害時の耐性に大きな問題を抱えている。
また、2016年に発生した台湾南部地震では、地上16階、地下1階の店舗兼集合住宅「維冠金龍大樓」が横倒しに倒壊。そこに住んでいた115名もの命が犠牲となった。柱の中からは、大量の一斗缶や発泡スチロールが埋め込まれているのが見つかった。毎年のように大地震が発生する台湾では、違法建築への対応は喫緊の課題だ。
耐震性の低い建築物がなすすべなく崩れ去った故郷の姿を、遠く離れた日本でただ伝え聞くことしかできなかった許さんの心に、ある思いが芽生えた。
「台湾の住宅は、地震に弱い。日本の住宅は、ただキレイなだけじゃなく、丈夫で安全。日本の優れた耐震技術を学んで、その技術を母国・台湾に持ち帰り、地震に強い住宅をつくりたい」
故郷を、そして命を守るために、日本で、建築技術者になると決意した。
なんという素敵な子だ。
ただ仕事をするのではなく、目的を持つことの重要性を再確認できる良い記事ですね♪
覚えること、教えてもらったことをメモにとり、それを纏め、自らの教科書としている。本当に仕事を覚えようとする姿勢が出ている。素晴らしい。
ウチにもこういう若手が欲しい
立派な技士になって、母国と日本の架け橋になってほしい。なんて良い子なんだ。。
すてきなお話。。元気が出ますね!
採用した社長さんも、素晴らしいですね。