インフラドクターは鉄道にも使える
――首都高グループでは、首都高速道路以外のインフラへのインフラドクター導入に取り組んできましたね。
田沢さん(首都高速道路) インフラドクターは、首都高速道路のために開発されたシステムなので、われわれとしては当初は、国土交通省や自治体など他の道路管理者に対し、ご説明に伺っていました。その際、道路と同じように橋やトンネルがある鉄道にもインフラドクターを活用できるんじゃないかという発想が出てきました。そこで、あるルートを通じて、東急さんをご紹介いただき、ご説明に伺いました。2年前の6月のことです。
東急さんとお話をすると、道路と同じような点検に関するお悩みを抱えていることがわかりました。法定点検の頻度は、道路は5年に1回ですが、鉄道は2年に1回ということで、人海戦術でなんとかこなしているということでした。そこで、インフラドクターをご紹介し、話がどんどん進んでいきました。
私としては、東急さんがすぐに話に乗っていただけるとは考えていませんでしたが、3回目にお会いしたときぐらいから、いろいろと細かいご質問をいただくようになり、インフラドクターに前向きでいらっしゃると感じるようになりました。
2年前の9月になると、東急さんの100%子会社である伊豆急行さんのほうで、実際にインフラドクターによる鉄道インフラの点検の実証実験をやってみようというお話をいただきました。それを伺ったとき、正直「え〜っ!」という感じでした(笑)。同じ道路を管理する国土交通省の一般国道などを抜いて、鉄道が首都高以外で使用する第1号になることに驚きを隠せませんでした。そこから、首都高グループを挙げて、伊豆急行でのインフラドクターの導入に動き始めたわけです。
――東急ではインフラドクターをどう評価していたのですか。
森さん(東急) 首都高さんからインフラドクターのご説明をいただく少し前に、東急田園都市線で施設物の老朽化に伴うトラブルが重なりお客さまにご迷惑をお掛けしておりました。その影響もあり、経営陣を含め、インフラメンテナンスに力を入れなければいけないという意識が高まっていたんです。
ただ、とくに有効な手立てがあったわけではなく、まずは人海戦術で点検を行い、早期復旧できる体制を整える等の対策を実施しておりました。われわれとしても、このままではいずれ立ち行かなくなることはわかっていました。会社として、新しい技術を模索していたときに、インフラドクターのお話を伺ったわけです。
インフラドクターは、すでに首都高速道路で実績のある技術です。鉄道と道路は、別々のインフラですが、共通する部分も少なくありません。インフラドクターを知ったとき、「これは使える」と直感的に感じたことを覚えています。インフラドクターが使えるかどうかは、実際に試してみないとわからないので、伊豆急行で実証実験してみようということになりました。
インフラ点検は時間的にも労力的にも大きな負担だった
――伊豆急行では、インフラメンテナンスに関してどのような課題を抱えていましたか。
山田さん(伊豆急行) 鉄道構造物の点検は2年に1回行うことになっており、トンネルに関しては、20年に1回、特別全般検査を行う必要があります。伊豆急行ではこれまで、直営体制でこれらの点検検査を実施してきましたが、通常の保守作業に加えて、これらの点検検査を実施することは、時間と労力を要するため大きな負担になっていました。まず日程を組むのが大変ですし、膨大な点検データを担当者がまとめるのも容易ではありません。
伊豆急行の総延長は約46kmですが、このうちの18kmほどをトンネルが占めています。橋梁の延長自体は2kmほどですが、100箇所以上あります。また、伊豆の狭隘な海岸線から山岳地帯を走っているので、切土、盛土の土構造物も少なくありません。点検検査の省力化が大きな課題になっていたところに、東急を通じて、インフラドクターのお話を伺いました。私としては、当初から非常に良いマッチングだと感じていました。その後しばらくして、伊豆急行でインフラドクターの実証実験を行うことになったわけです。
首都高さんのキーパトが線路の上を走ってる?映像見てびっくりです。
専門家と思っている人間が陥りがちな視野狭窄症。
頑張らなければと思いました。